ここのところ連続して壊れたモノ(その2―腕時計) | 旅はブロンプトンをつれて

旅はブロンプトンをつれて

ブロンプトンを活用した旅の提案

(白馬を出るときは青空さえのぞいていました)

私は自分では物持ちが良いとは思っていません。
整理整頓が苦手ですし、持ち物を落としたり忘れたりすることもたまにあります。
失くしたと思っていた物が家の中から出てくることも、ごくたまにあります。
大概は他のものを探しているときに、ひょんなところから出てくるのですが。
旅先の旅館にカメラの充電器を忘れて、あとで送ってもらったこともあります。
最近は携帯用充電器をはじめ、スマホ、自転車用のナビ、無線機、それにウェアラブルカメラなど、充電しなければならないものはどんどん増えて、大変です。
そうそう、1度だけホテルの部屋に読みかけの本を忘れたことがありました。
ずいぶん前の話で、マイカーでのひとり旅の最中でした。
折りたたみ自転車+鉄道の旅行中に、本を忘れることはありません。
常に読みかけですからね。

腕時計などはしょっちゅう着脱するし、どこかに置き忘れそうなものですが、一度も失くしたことがないのです。

さて、その腕時計ですが、とくに鉄道利用には必須です。
添乗の際には目覚まし時計も別に必要ですが、正確に動く腕時計を携行していないと、行動が出来ません。
日本の列車は世界一時刻に正確に運行しますから、たとえば団体旅行で新幹線を利用するような場合は、15秒単位で動かねばなりませんし、ブロンプトンと鉄道の併用旅行をするようになって、とくに地方においては自転車で走りながら、絶えず時間を気にするようになりました。
前に須坂から大笹街道を菅平越えでJR吾妻線の大前駅まで走った時は、危うく乗り遅れそうになり、一旦閉めたドアを頼みこんで開けてもらって列車に乗りました。
(https://ameblo.jp/cum-sancto-spritu/entry-12511152004.html)
あの時は、駅の800m手前で既にタイムアウトを腕時計で確認し、遠くに踏切が鳴って今まさに発車しようとする列車めがけて鬼のような形相で突っ走ってゆきました。
実はずっと手前の長野県との県境にあたる鳥居峠付近から、「間に合わないのではないか?」と危惧していたものの、自転車で走るのははじめてだったし、もう20年以上も国道144号線は走っていなかったので、距離感が全くつかめないでいたのです。

いつもの通勤時も、信号で止まるたびに時計をみて、「○○分の電車には余裕で間に合う」旨を確認しているから、ゆったりと走れるわけです。

(この時は腕時計は正確に動いていました)
そんな時刻表を気にしながらの旅と生活には必携の腕時計ですが、仕事で使う時は走ったり、書き物したりする関係上、なるべく軽くて腕の負担にならない方が良いわけです。
因みに、私が就職したころはバブルで携帯電話も普及し始めた頃でしたから、今からでは考えられないくらい多機能を備えた腕時計が売られておりました。
タイマーやストップウォッチ、アラーム、万歩計機能はいうに及ばず、複数地域の時刻表示、計算機、電話帳、IC録音機能、英和・和英辞書等々、今振り返ってみるとなんのことはない、スマートホンそのものです。
カメラ機能の付いた腕時計なんて、「スパイウォッチ」と呼ばれていました。

今わざわざカメラ機能付きの携帯やスマホに「スパイ」を冠しません。

そういう使い方はどこか後ろめたさがつきまとうものですが、街中至る所に昔でいう「スパイカメラ」が仕込まれている時代ですから。
でも、そんなにたくさん機能を腕時計に盛り込んだところで、旅行中に操作している暇などありません。
それに、旅の最中は現在の時刻とともに、どれくらいの時間が経過したのかを直観的に感じ取らねばなりません。
仕事の際、観光バスでの移動中も、よく使うルートは「A地点からB地点まで、どれくらい時間がかかったのか、通るたびにメモしておいて、旅程表の作成に役立てろ」なんていわれていました。


だから、学生時代に使っていた皮ベルトのアンティークなアナログ式製品をそのまま使っていました。
しかし、先輩から「学生気分が抜けない人みたいだ」と言われ、仕方なくスーツに似合う、よりオジサンぽい腕時計を購入しました。
少しでも軽くなるようにと、チタンベルトの商品を選んだのですが、電池式なのでいつかは止まります。
昔は腕を振っただけでぜんまいを巻き上げる、オートマチック式もあったのですが、あれは振り子の原理を使っているだけに、大きくて重いのです。
そこで、1997年に、まだ当時は高価だった、電波時計+太陽電池+チタンベルトの腕時計を購入しました。
その時はもう添乗などへは出なくなっていたのですが、外回りするにしても大きくて重たい腕時計は邪魔でしたし、10万円以上した記憶があるのですが、独身の月給取りでしたし、思い切りました。


それから25年間、この腕時計は色々な時に一緒にいてくれました。
8年くらい前から、日付表示が中途半端な位置でとまり、見づらくなったものの、時計の方は秒針まできっちり正確に動いてくれるので、今はお寺の鐘を、朝6時きっかりから45秒間隔で7回撞くのに助けてもらっています。
(冬の暗い時期は見えないので、スマホのストップウォッチ機能を利用)
4年くらい前に一度、突然止まってしまったことがあり、その時は専門店に相談して太陽電池を交換してもらいました。
これで快調だと思っていたのですが、今年の2月くらいからごくたまに1分くらい遅れて表示されているのを見かけるようになりました。
時計がとまってしまうのなら明らかに故障だとわかるのですが、普段は正確で、ある瞬間だけ「あれ、1分遅れている」というのは、いちばん困るのです。
暫くして見直すと、ちゃんと正確な時刻に戻っているので、『ひょっとして、自分が長針を見間違えただけなのではないか』と思い込んでしまうのです。

(2週間でずいぶんと雪が融けました)
そんなときに、事故はおこるものです。
その日、私は青春18きっぷを利用した、2回目の白馬八方尾根スキー場からの帰り道でした。
西からゆっくりと下り坂の日で、関東地方は夕方から雨の予報でしたので、前にご紹介したのと同じ、白馬7時45分発の信濃大町行き普通列車に乗り、信濃大町で乗り換えて、松本9時39分発高尾行きに乗り継ぎましたので、終点の高尾には13時18分に着き、立川乗り換えで武蔵小杉には14時26分着。
これなら、帰宅時にぎりぎり雨雲をかわせるかもしれません。
私は高尾や立川での乗り換えも考慮して、前回と同じ先頭車両運転席のすぐ後ろの2人掛けロングシートにブロンプトンと着座します。
定刻通り松本駅を出発した鈍行の高尾行きは、時刻表通り特急の通過待ちで富士見駅に10時42分~53分の間、すなわち11分間停車します。
ここで、前回試そうとして果たせなかった、停車時間内での「立ち食いそばかきこみ」」に挑戦したのです。

(鹿島槍スキー場も、今シーズンはもう終了しています)
ブロンプトンと荷物(BROOKS製のバービカン・ショルダーバッグ)はシート脇の手すりに括りつけて固定したまま、先頭車両前に階段があるのを良いことに、ドアが開いた途端、貴重品だけもって、急ぎ足で向かいのホームへ渡り、改札口で青春18きっぷをみせて、待合室にある食券購入機で、いちばん早く食べられそうなたぬきうどんを注文、出来上がって出てきたのは10時44分でした。
待合室に座って文字通りうどんをかきこんで4分間で完食し、駅前広場にあるトイレに行って用を足し、跨線橋を渡って再びホームへ戻ってきたのは10時51分でした。
飯食って、用足して、まだ2分も余裕があると腕時計を確認し、対抗してくる列車を撮り鉄していたら、背後で「プルッ」と短い合図が鳴り、「あれっ?」と思ってすぐそばに停車しているドアに戻って「開く」ボタンを押したものの反応がありません。
目の前で運転手が指差し確認をして、電車は発車してしまいました。
窓越しに、車内に残したブロンプトンとショルダーバッグがチラッとみえましたが、列車はみるみる加速して、わたしをホームに残したまま行ってしまいました。
『えっ、なぜ?どうして53分になっていないのに出てゆくの…。』
私は腕時計をみて安心していたのですが、あとからチェックしたら、この時1分以上遅れの表示をしていて、私がホームに戻ってきたのは10時51分ではなく、52分すぎだったみたいなのです。


富士見駅のホームの先にあるトンネルに、乗ってきた列車が吸い込まれてゆくのを眺めながら、頭が真っ白になりました。
ブロンプトンを含め、荷物を車内に残したまま、列車だけが出て行ってしまい、置いてきぼりを喰った経験は、記憶する限り仕事でもプライベートでも一度もありません。
もちろん、大韓航空機爆破事件のように、途中降機(英語では“Stopover”といいます)時に荷物だけ機内に残したまま、飛行機だけが飛び立ってしまったこともありません。
(パスポートや航空券を含む荷物を持ったまま成田エクスプレスに乗り遅れ、搭乗予定の国際線に乗り遅れたことは、プライベートで一度だけあります。
その時はたまたまノーマルチケット(普通航空運賃)だったので、時刻表その他知識を総動員して、空港に着くまでの間に電話で別便に振り替えて、2時間程度の遅刻で目的地へ着きました。仕事じゃなくて良かった…)
しかし、こういう緊急事態こそ、旅のプロとしての手腕が問われる場面です。
まず、落ち着くために自分の持っているものを確認します。
お財布の中には切符のほかに、銀行のキャッシュカード、クレジットカード類が入っています。
スマートホンも胸ポケットに。
そして幸いなことに、家の鍵がズボンのポケットにありました。
今朝、スキー板や靴など大きな荷物を宅急便で送る際に、一緒に送っては大変と、間違えて送付荷物に入れないよう身に着けていたのです。
これで、このまま家に帰っても路頭に迷うことはありません。

(富士見駅の入笠生そばさんで頼んだたぬきうどん。寒かったので暖まりました)
次に、今行ってしまった列車に追いついて、自分で荷物を回収することを考えます。
ここは富士見駅ですから、特急は2つ先の小淵沢までゆかねば乗り継げません。
次の上り普通列車は1時間5分後に富士見駅を発つ11時58分高尾行き。
当然、この列車で終点高尾まで行っても、1時間も先行する同じ鈍行には追い付けないので、12時06分に小淵沢について、次に来る特急を待つと12時52分…。
ダメです、特急に乗り換えた時点で追いつきたい列車の高尾到着26分前ということは、どんなにあずさ号が早く走ったところで、絶対に追いつけません。
私が時刻表を丸暗記していたら、或いは列車内に同行者が乗っていたならば、荷物が行ってしまって身軽になった身体で躊躇なく下りホームへ移動し、およそ30秒遅れで出発する10時53分発の下り列車に乗って、11時06分に茅野駅に着き、そこで切符を買い直したでしょう。
そして11時39分発の上り特急あずさに乗り込み、八王子まで行って(13時11分着)、即お向かいのホームの同時刻発下り高尾行き快速に乗り換えれれば(八王子駅の中央線ホームは1本なので、階段を使う必要はない)、荷物を置いたままの列車が高尾に到着する13時18分ちょうどに高尾駅へ着くことができるという計算ができたはずです。

(この時点で列車内に戻っていればよかったのに)
しかし、そんな西村京太郎サスペンスばりのウルトラ乗り換えを繰り返したところで、富士見駅から終着高尾駅まで2時間25分もの間、持ち主のいないブロンプトンとショルダーバッグがあの列車にそのまま残っているでしょうか。
乗客の誰かが運転手さんに「忘れものみたいですよ」と声をかけてくだされば、乗務員が交代する甲府駅で降ろされます。
そうすれば、後日でも回収しに来ればよいわけですが、最悪の場合、ブロンプトンのチタンモデルや、バービカン・ショルダーバッグ(廃盤なので新品は入手不可)の価値を知る人が、転売を目的に占有離脱物横領などをしてしまえば、もう警察に遺失届を出しても、まず戻ってこないでしょう。
(自転車にはシリアルナンバーがあり、防犯登録もされているため、抑止力にはなるかもしれませんが)

(このシャッターを切った直後、傍らの電車は無情にも出発してしまいました)

さて、彷徨浪馬よどうする?

こういう時こそ、心を落ち着けて、与えられた状況の中でベストではなくベターを尽くさねばなりません。

(次回その3に続く)