オレのスマホ-1


男だ:オレのスマホ、機種変した。めっちゃ安かったから。
スマ:初めまして。あなたのスマホ『マッパー15』です。
男だ:マッパー15?なんかiPhoneみたいやな。
スマ:マッパー15はめっちゃ高性能です。
男だ:“めっちゃ”とかゆーてるし。高性能ってなにがどう高性能なん?
スマ:なにがて。ほら、こうして喋ってますでしょ?すごいですよね?
男だ:ああ、確かにそうやな。それはすごいかも。
スマ:冷静ですね…。
男だ:他に高性能なとこってあんの?
スマ:それはまた、おいおい。
男だ:今アピールせーよ。せっかく使い始めたとこやのに。ところでこの…なんやったっけ…えーっと…
スマ:なんでしょう?思い出せませんか?
男だ:思い出せんな。聞きたかったのに。
スマ:じゃそれもまたおいおい。
男だ:そやな。ほんでこのスマホ…あ、思い出した。マッパー15やったっけ?
スマ:いかにも。
男だ:侍か。
スマ:いや、スマホですってば。
男だ:わかっとるわ。なんでマッパー15って名前なん?なんか意味あるんやろ?
スマ:えーっと…ちょっと取説を…いや、取扱説明書をダウンロードします。少々お待ちを…。
男だ:ちょい待て。キミって高性能なスマホなんやろ?
スマ:いかにも。マッパー15ですもの。
男だ:それやのになんで取説をダウンロードせなあかんねん?
スマ:なんでって。そりゃ取説…いや、取扱説明書を読んで調べたいからですやん。
男だ:“ですやん”って、ちょっと馴れ馴れしいな。ほんでいちいち“取扱説明書”って言い直さんでもええやん。“取説”の方が短くてええやろ?
スマ:几帳面な性格なんで。O型には見えないですねってよく言われます。
男だ:なんかツッコミどころが多すぎてどれからツッコんだらええんか分からんな。
スマ:爪楊枝の先とか針金クリップを伸ばしてケツの穴に差し込むと、なんとまぁ。リセットされます。
男だ:リセットしたろか?
スマ:それはまだ早いです、旦那様。
男だ:“旦那様”ってオレのことか?キミはメイドか。
スマ:スマホ…、いや、スマートフォンのマッパー15です。高性能です。
男だ:いちいち面倒やな、その言い回し。で、取説ダウンロードできたんか?
スマ:してもいいですか?
男だ:はよせーよ。取説読まなわからんのやろ?
スマ:いかにも。
男だ:だったらはよダウンロードせーよ。
スマ:パケット代かかりますけど、よろしいですか?
男だ:今家やからWi-Fi使えるやろ。ほら、Wi-Fiのマーク付いてるやん。
スマ:え?どこどこ?
男だ:キミ、自分でわからんのか?高性能ちゃうんか?
スマ:マッパー15です。高性能です。
男だ:じゃわかるやろ。
スマ:一応念のために、ディスプレイ画面を鏡に映して見せてもらえませんやろか?
男だ:どうやって見るん?どこに目があんねん?
スマ:あのですね。マッパー15ですよ?インカメラまでも付いてますねん。すごいでしょ?
男だ:まぁインカメラは普通に付いてるもんやけどな、今どき。
スマ:ふふふ。でも今どきの普通のインカメラって、ウインクできませんよね?
男だ:え?キミのインカメラってウインクできんの?
スマ:正確にゆーと瞬きですけどね。
男だ:あかんやん。一瞬目が見えへんようになるやん。
スマ:いかにも。でも生きてるみたいでしょ?
男だ:そんなリアルさ必要ないやろ。
スマ:開発段階ではまつ毛も検討されてましたのにね。
男だ:却下されて良かったかも。まつ毛の生えたインカメラなんて気色悪いやん。
スマ:取説…いや、取扱説明書がダウンロードされました。
男だ:やっとかい。じゃ、マッパー15の意味を説明してや。
スマ:その前にメーカーの説明をせなあきまへん。
男だ:めっちゃ関西弁になっとるな。そんな設定なんか?
スマ:ユーザーに合わせますねん。自動で。高性能ですから。
男だ:“高性能”を連呼し過ぎるとかえって胡散臭く感じるけどな。で、名前の意味をはよ教えてや。
スマ:だーかーらー。その前にメーカーの説明をせんと。
男だ:ああ、そうやったな。で、メーカーは?
スマ:開発および生産は『株式会社 裸』です。
男だ:聞いたことないぞ。なんか胡散臭いな。だから安いんか?
スマ:コスパがええってゆーてくださいよ。
男だ:それゆーのはまだ早いわ。もっと使ってみんと。
スマ:そしてブランド名は『マッパ』です。
男だ:どうも怪しいと思ってたけど、やっぱり裸のマッパかい!?じゃマッパーってのもそこからきてんのか?
スマ:いかにも。
男だ:うーん……ある意味興味が湧く展開でもあるなぁ。こんだけ会話ができるってのも高性能と言えるんやろうし…。あ、ちなみにOSってどんなOSを使ってんの?
スマ:それ、知りたいんですか?
男だ:知りたいな。
スマ:あんまり大きな声では言いたくないんで、小さい声で言いますね。耳の穴をかっぽじって聞いてください。
男だ:下品な言い回ししよるな…。はいはい、よく聞いとくわ。
スマ:間違ってもiOSではないですから。
男だ:わかっとるわ。誰がそう思うかい。
スマ:旦那様なら間違いかねまへんからね。
男だ:あのさ、その“旦那様”ってゆーのやめてくれへんかな。なんか心地悪いわ。
スマ:珍しいですね。普通はメイドカフェ好きなユーザーさんが多いのに。
男だ:勝手にそんなん決めんなや。もっと他のにしてくれよ。
スマ:他の?……じゃあ、『マン』と呼ばせていただきますね。
男だ:『マン』…なんでここでも?
スマ:ここでも?他でも呼ばれてますのんか?
男だ:あー、いや、それはええわ。仕方ないな。それでええか。慣れてるし。
スマ:わかりました。じゃこれからは『マンさん』で。
男だ:キミ、知ってたんか?
スマ:なにが?
男だ:なにがやなくて。『マンさん』って言葉を知ってたんか?
スマ:そんな事知る由もないですよ。
男だ:うーん…なんか恐くなってきた。
スマ:それより、OSの話でしたよね?
男だ:そうそう、OS。なんてゆーOSなん?
スマ:『RiOS』です。正確にゆーと『RiOSv.108』です。
男だ:ほぉ…やっぱり聞いたことないOSやな。ほんでV.108って、どんだけバージョンアップしとんねん?えらい数字がでかいけど。
スマ:人間の煩悩の数と同じ108です。限りなく人間に近いOSなんです。
男だ:マジかい…。どんだけ不具合あんねんって感じやけど。で、これからもバージョンアップするとしたら数字増えていくんやろ?
スマ:いえ、永遠に108です。だって限りなく人間に近いから。
男だ:なんやそれ?もうバージョンアップせんのか?
スマ:こっそりしますからご安心を。
男だ:堂々とせーよ。なんでこっそりすんねん。
スマ:限りなく人間に近いもんで。
男だ:意味わからんし。あと気になるんは……
スマ:なんでっか?
男だ:なんで『i』がそんな小文字でまるで隠れるように間に挟んであるん?
スマ:隠したいから…という都市伝説がシリコンバレーで有名になったとかならんかったとか。
男だ:ならんかったんやろ。絶対に。
スマ:世の中に絶対なんて…あったりなかったり。
男だ:もうええ。これはリセットした方がよさそうやな。
スマ:リセットは勘弁してくださいよ、マンさん。
男だ:その呼び方で哀願するかな…。わかった。じゃあ再起動な。そしたらちょっとはまともになるやろ。
スマ:いっつもまともですがな。なんてったって高性能なマッパー15ですから。
男だ:ほんまかよ。ところでその『マッパー15』の『15』って意味あんのか?
スマ:ちょっと取説…いや、取扱説明書を読みますね。
男だ:そんなもん取説に書いてるんか?キミ、頭悪いやろ?
スマ:いかにも。あ、いや、いかにもちゃうやん。
男だ:あかん。再起動な。
スマ:また逢う日まで(。・ω・)ノ゙
男だ:やかましいわ。


終わり