次の日曜日、人気がまだ少ない朝の吉備津彦神社にお参りすることにした。

ちょっと遠いけど、ナビを見ながら出発だ。

 

剣をお借りして、胸のあたりにドーンと構えていれば、パワハラに怯えることなく対応できるはずっ。


あんまり信心深くない私は、神社にお参りするお作法も聞きかじり。

大祓の祝詞なんて覚えていない。
お賽銭を入れて2礼2拍手し、簡易祝詞(「祓いたまえ、清めたまえ」を3回)を奏上する。
事情を簡単にお話してから『どうぞ身を守るために剣をお貸しください。』と祈る。
神様もびっくりだろうなぁ。

こんなお願いする人いないだろうし。

さて、せっかく遠くまで来たんだから境内社もお参りしようと踵を返して歩き始めたその時
サァーっと一陣の風が舞った。
『そなたがほっしておるのは、戦うための剣か?』

 

聞こえてきたこえは涼やかな30代くらいの男性の声。
神々しい声である。
声優も真っ青のイケメンボイスだ。
 

「いいえ、身を守るための剣です。戦いには使いません。」

そして、その夜私は深く反省した。
なぜって、もう十数年も前、神社で神様とお話したと言ってきた友人のAちゃんの話を、
「大丈夫?また新しい宗教にはまったの?」と取り合わなかったから。

社長夫人のAちゃんは次々と宗教にはまる人だった。
お金持ちだから、寄付金目当ての色々な人が近寄ってくる。
そのたびに、騙されないよう見守っていた。

そのうち、宇宙人の話とか自動書記の話が出てきた。


あれ、本当だったんだな。
悪いことしちゃったなぁ。
自分の身に起こって初めて本当なんだと実感する。

最近ちまたにあふれるようになった神様とお話できる方々の体験も本当なんだろう。

剣を身に宿すようになって数か月後、パワハラの権化だった専務が出社しなくなった。
コロナに感染したらしい。
だがその後、年末を迎えても出社する気配すらない。
色々ばれて社長に叱責され精神を病み、休職しているらしい。


パワハラをしまくっていた専務がいないことで、社内は徐々に明るくなっていた。
笑顔で語り合う社員が見られるようになったと課長が嬉しそうに言う。

 

パワハラや意地悪をしてきていた件の先輩社員は、
こっそり仕事を手伝っていたことに薄々気づいたらしく
「勝手なことをする!」とまた大声で怒鳴ってくる。

他部署や対外的な取引先にご迷惑はかけられないので、そこはそのまま手伝うとして
本人の仕事に関しては一切かかわらない方針に転換。


やがてミスを連発しまくった先輩社員は退職したのだった。

剣をお借りしてから一年もたたず、パワハラはこうして解決に至った。
でも、さらに驚く展開が待っていたのだ。