読者の皆さまには、いつも私のお話を楽しみにしていただきまして、ありがとうございますひらめき電球


さて、お待たせしていました「女神の秘めた力」の後編が出来上がりましたので、どうぞお読みくださいニコニコ


つべこべは、あとがきでたっぷりと・・・にひひ


まずは、「天才の弱点」の続編として。

また独立した一条紗江子のお話としても、どうかお楽しみいただけますように・・・音譜

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    イタキス2 《14話》 より

   ~女神の秘めた力 <後編>~



「ちょとぉ~一条先生ったら、西垣先生に何言ったんですかぁ~?もう~ナースステーションに来て荒れ狂ってますよ~!」
辟易とした顔のモトちゃんが、私を睨みながら午後のカウンセリングのカルテを持って入ってきた。


「あら私は別に・・・西垣先生は入江先生の指導医なんだから始末書を書くのは仕方ないんじゃないですかって言っただけよ。だってそうでしょう?・・・」

私の返答に、モトちゃんは苦笑いを浮かべつつも頷いた。
「確かにそうですけど、一条先生にそれ言われたらキツイかもしれないわね~まぁ、西垣先生には悪いですけど、ワタシとしては入江先生が何のお咎めもなくてほっとしたんですけどね~」
モトちゃんは、午前中にカルテを叩きつけて怒ったことなど忘れたかのように舌を出しながら笑った。


「それより、一条先生。なんだか今、すごく楽しげな顔してましたけど、何かいいことでもあったんですか?」
モトちゃんが、デスクの前に立って、私の顔を覗き込むようにして言った。


「えっ?・・・そう?・・・そんなことないけど・・・」
私は不意のことに、内心動揺しながらもなんとか平静を装って答えた。
入江先生と琴子さんのことを夢中で考えていて、それが顔にも出ていたらしい・・・
なかなか鋭いモトちゃんの指摘に、私は思わず顔を引き締めた。


「なんだか怪しいな~仕事中に一条先生がそんな顔してるの珍しいから、何かあったのかと思ったのに・・・」
モトちゃんの、疑わしそうな視線をかわしながら、私はふと琴子さんのことを尋ねてみた。
「それはそうと、琴子さんはどうしてる?・・・入江先生が不問ってことになって、安心したでしょうね・・・」


「そりゃぁ、もう大騒ぎですよ~泣いたり笑ったり忙しいったらありゃしない!・・・まったく査問会議に乱入したりして、バカな子なんだから」
モトちゃんが、呆れた顔で答えた。


「ああ、西垣先生も言ってたわ・・・でも、なんだか感動的な演説だったらしいじゃない?・・・」
「そうかもしれないけど、こっちはヒヤヒヤものですよ~いくら愛してたってワタシには絶対にマネできないわね!・・・そこが琴子らしいっていえば、確かにそうなんだけど」
「ふーん・・・」


―そう・・・まさにそれが、琴子さんの秘めた力・・・


入江先生は、わかっているのだろうか・・・琴子さんの持つ力の意味を。
わかっているからこそ、彼女を選んだのだろうか・・・
しかし、あの夜、ICUのベッドの脇で彼は私に救いを求めていた。
琴子さんへの溢れんばかりの想いを表す術すら知らずにいた。
そこが2人の関係の不思議なところだ・・・


―それでも結婚してるんだから、2人の恋は成立していたのよね・・・



私は、あの出来事へと思いを馳せながら、入江先生のことをモトちゃんや鴨狩君に尋ねたことを思い出した。
「ねえ、モトちゃん。前に、私が入江先生の弱点って何だと思うか聞いたこと覚えてる?・・・」
「ええ、覚えてますよ。確か啓太と一緒の時でしたよね。あっ、琴子が怪我する少し前だった!・・・」
モトちゃんは、あの頃を思い出すように遠い目をしながら答えた。


「そうそう!・・・あの時、入江先生の弱点は琴子さんだって言ってたでしょ?・・・それは何か根拠があってそう言ったの?」
私の質問に、モトちゃんは顎に人差し指を当てながら少し考えた後、なぜか優しい微笑みを浮かべながらゆっくりと話し始めた。


「まだワタシ達が看護学校生で、入江先生も医学生だったころ、あの2人、夫婦存続の危機を迎えたことがあったんですよ・・・」
「ええっ?・・・」
モトちゃんの言葉に、私はひどく驚いた。


しかし、すぐに”夫婦存続”という言葉に違和感を持って尋ねた。
「それって、離婚の話が出たってことなの?・・・」


すると、モトちゃんは右手をヒラヒラと横に振りながら答えた。
「違うの・・・たぶんお互い離婚なんてことはこれっぽっちも考えてなかったんじゃないかしら?・・・ただ、啓太が琴子に横恋慕して、それがきっかけで気持ちがすれ違って、なんだか深みにはまっちゃったって感じね・・・」
「それで、2人はどうやって仲直りをしたの?・・・」
「随分長いこと琴子も苦しんでたみたいだけど、いつだったか入江先生と大喧嘩して琴子が家を飛び出したことがあったのよ・・・」


その翌日、家には帰らず友人の家から登校してきた琴子さんに、鴨狩君が離婚してしまえと詰め寄っているところへ、入江先生が現れた。

結局、モトちゃんにははっきりとしたいきさつはわからないということだったが、それまで琴子さんを無視しつづけていた入江先生は、その場で自分が嫉妬していたことを認め、琴子さんが必要だと言ったのだという。


「その時、入江先生が言ったのよ『オレが本当の自分になれるのは琴子がそばにいる時だけだ』って・・・それで無事仲直り。おまけに学食のど真ん中で熱く抱きあっちゃったりして、悔しかったけど、素敵だったわぁ~あの2人」
モトちゃんは、胸に両手を当てて、うっとりした表情を浮かべながらさらに言葉を繋いだ。
「だからね、入江先生の弱点と言えば琴子だって思ったの。だって女なんてよりどりみどりのイケメンの大天才を嫉妬に狂わせちゃうのよ~考えてみれば琴子ってすごいのよね~!」


―へえ~そんなことがあったの・・・なるほどね・・・


少々興奮気味のモトちゃんが出て行った後、私はランチの時間も忘れて考えに耽っていた。
こんなにもワクワクする気持ちは、本当に久しぶりな気がしていた。
そう・・・まるで、自分が恋でもしたかのように。




彼は、どこか私と似ている・・・そう初めて思ったのはいつのことだったのか・・・
天才ゆえに、カウンセラーゆえに、いつでも計算づくで人と接しているところなど、最も顕著だろう。
そのくせ、理性でコントロールすることに長け過ぎて、とことん追い詰められなければ自分の本当の気持ちに気づけないところまで。


―それでも、入江先生は琴子さんへの気持ちにはちゃんと気づけたんだ・・・


どれ程、琴子さんは強烈に入江先生を想っていたのだろうか・・・
もしかしたら、今日のような突拍子のないことが今までにも何度もあったのかもしれない。


きっと琴子さんは、IQ200の天才でさえ考えも及ばない、あの強固な理性を持っても抗いきれないパワーで彼の心を揺さぶったのだろう。
そして、入江先生は知識や理性だけでは、抑えられないものがあることを思い知らされながら、いつしか琴子さんに惹かれて行ったのだろう。

だからこそ、琴子さんの時と場所を選ばない入江先生のためゆえの行動は、いつも彼に力を授け、心を癒し、その期待に応えようという気持ちを与えているに違いない。
そうでなければ、突然会議室に飛び込んで演説を始めた妻を、微笑んで見つめていることなど出来はしないはずだから・・・


入江先生が、琴子さんを前にした時だけ見せるあの微笑みも、琴子さんに対してだけ放たれる棘のある言葉も、それはまったく理性的ではなく深い愛情のなせる業。
それは、きっと長い時間をかけてゆっくりと入江先生の心を侵食して言った琴子さんの愛の力のたまものなのだろう・・・


恋に落ちる理由に、お互いが持っていない部分に強く惹かれるというのは、良くある話。
それでも、この2人に限っては、対極にありながらも、きっとこの世でただ一人の相手だったということなのかもしれない。


―だって、考えれば、考えるほどこの2人の組み合わせ以外ないと思えてくるもの・・・


「それって、つまり運命の相手ってことよね・・・」


私は、まるでモトちゃんの様にうっとりした気持ちで、つぶやいた。





それから私は、書き上げた報告書を持って外科の医局へ行った。
担当の医師に報告書を渡しながら部屋を見回しても、今日の主役の入江先生は見当たらなかった。
査問会議にかけられたくらいのことで、あの入江先生がダメージを受けるはずもないが、これがカウンセラーの性分なのか、今の彼の様子を見てみたいという気持ちには抗えずにいた。


私は、少しがっかりした気分で医局を出ると、カウンセリングルームへ戻ろうと廊下を歩いていた。
すると、ふとどこからか聞こえてきた声が琴子さんの様だったので、立ち止まって耳を澄ませた。


「・・・本当に良かったね。でも私、いても立ってもいられなくてあんなことしちゃったけど、入江君怒ってないの?」


それは、医局のあるこの階に設えられたスタッフ用の休憩スペースから聞こえてきた声だった。
私は、その入り口からほんの少しだけ顔をのぞかせて中の様子を伺った。


コーヒーサーバーの前で入江先生と琴子さんが向き合っていた。
少しうつむき加減の琴子さんを見おろす入江先生の顔には笑みが浮かんでいた。


「別に・・・いつものことだろ」
入江先生の返答は、琴子さんと2人きりだとしても、やはり素っ気ない。
しかし、当の琴子さんは、それが彼の許しの言葉だとわかっているのだろう・・・ぱっと顔を上げ笑顔になると、何の躊躇もなく入江先生の胸に飛び込んだ。


そして、入江先生も・・・「もう仕事に戻れ・・・」
突き放すような言葉とは裏腹、琴子さんにしか見せない微笑みで、その手は彼女の髪を優しく撫でていた。
琴子さんは、それで満足したのか「また後でね」と明るく言って、私に気づくこともなく小走りに去って行った。


―あら・・・ぎゅっと抱きしめてあげればいいのに・・・


私は、その場に一人残った入江先生が、サーバーのコーヒーをカップに注いでいる背中に近づいて行った。
私の足音に気づいた入江先生は、振り返りざまほんの少しだけ目を見開いて、すぐに目を伏せた。


「査問会議、お咎めなしで良かったですね・・・」
私は、彼の態度に苦笑しながら使い捨てのカップを取ると、コーヒーサーバーに手を伸ばした。


「何か?・・・」
入江先生は、立ったままカップを口元に近づけけながら言った。
たった今、琴子さんといたところを私が見ていたことに気づいているはずなのに、照れた様子も見せない。
それは、決して虚勢を張っているわけではなく、本当に普段と変わらない彼の態度に見えた。


―やっぱり、感情面に少々難ありよね・・・普通なら焦ったり照れたりするものだもの。


「別に・・・私だってコーヒーくらい飲みに来るわ・・・」
私は、ひと口コーヒーを飲むと、それでもすぐに肩をすくめて今言ったことを訂正した・・・
「なあんて言っても、入江先生には通用しませんよね?・・・」


入江先生は、私の言葉にやっとこちらへ顔を向けると「まあ、そうですね」と答えた。
そして、あらためて入江先生は「何ですか?」と言った。


「聞いたわ。査問会議での琴子さんのこと」
「・・・・・」
入江先生は、コーヒーを飲みながら何の反応も示さない・・・
それでも、次の私の言葉はなんとか彼の顔を上げさせた。
「琴子さんの秘めた力ね」
「琴子の力?」
いぶかしげな目で入江先生が私を見る・・・


―何よ。とぼけた振りして・・・


「ええ。・・・でも入江先生は、その力の意味を知ってる筈よ。」
「何を言っているのか、さっぱりわかりませんね・・・」
「そうかしら?・・・でも、私今日のことでものすごく琴子さんに惚れちゃったみたいなの・・・あなたの様に」
私は、少しわざとらしいくらいに首を傾げながら言った。


そう・・・天才だからと言って、完璧な人間などいるわけがない。
むしろ、何もかもがわかってしまうからこそ、どんなことにでも先回りして対処できてしまう分、感情的になる必要はなかっただろう・・・
しかし、誰とも関わらず、自分の思うままに生きて行ける人生などありはしない。
だからこそ、その欠けた部分が人間的に大きなほころびになることもある・・・


―でも、入江先生には、琴子さんがいた。


彼女に愛されて、彼女を愛したことで、彼は”完璧”になれたんだ・・・と、私は思っていた。
琴子さんの、傍から見れば過剰すぎるくらいの愛情表現や行動力がなければ、きっと天才・入江直樹の心をかき乱すことなどできなかっただろうから。


「あなた達は、とてもいいバランスでお互いを補い合っているのね?・・・まぁ、琴子さんにはあなたを助けているなんて意識はないでしょうけど・・・」
「少しばかりオレのことを知っているからと言って、一条先生とこんな会話をする必要はないと思いますが?」
どうやら、私は入江先生を怒らせてしまったらしい・・・
入江先生の言葉は、静かでありながらもそれ以上の会話を拒否するニュアンスを強く含んでいた。


空になったコーヒーカップをサーバーの横に置いた入江先生は、私の返答を待つことなく歩き出した。
それでも私は、何か言い足りないような気がして、去っていく入江先生を呼び止めていた。
「待って。入江先生」


立ち止まった入江先生が、ほんの少し顔をこちらへ向けた。
私は、その横顔に向かって湧き上がってきた想いをそのまま告げた。
「カウンセラーとしての守秘義務は、もちろん守るわ・・・でも、今日から私は琴子さんの味方よ。忘れないで」


入江先生は、ふっと小さなため息をひとつ残して去って行った。
その横顔に、微かに笑みが浮かんだように見えたのは、私の目の錯覚だったのか・・・
それでも、私は今日の査問会議の様子を聞いて、心の中に膨らんだ想いはこれだったのだとはっきり気が付いていた。


それは、まるで私に与えられた使命なのかもしれないと思える程に、強く私の心に芽生えた気持ち・・・


もしかしたら、この想いには、あの2人への羨望と憧憬、そしてほんの少し、自分自身の過去の恋への贖罪も込められているのかもしれない。
人より人の心がわかってしまうからこそ恋に臆病だった私に、もう一度誰かを愛せるかもしれないと思わせてくれた2人の恋。
そして今、なぜか私は余計なお世話だと思いつつも、彼女を守ってあげたいという思いに駆られていた。


そう・・・あの一途な秘めた力を・・・
そして、純粋で奇跡のような恋する気持ちを・・・





それから私は、カウンセリングルームに戻ると、すぐにパソコンから一通のメールを送った。

”聞いて欲しいことがあるので今夜行きます。響子先輩が大好きな恋の話よ。楽しみにしてて・・・”



                                              END


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さて、いかがだったでしょうか・・・はてなマーク


最後の2行は、ちょっとしたオマケですニコニコ

長年の読者の方には、ピンッと来た方もいらっしゃると思います。


でも、いきなり最後に出てきた”響子先輩”って誰?と思った方は、このあと続けて↓こちらの3作をお読みいただくとご理解いただけると思います・・・もしご面倒でなければですが。

桜色のワンピースで・・・ 」 「桜色の幸福-前編- 」 「桜色の幸福-後編-



「天才の弱点」を書いたのは、もう7年も前のことになります。

あのお話しで初めて登場した一条紗江子の物語は、最初は一条先生が直樹にすごく興味を抱いて、直樹の心の奥を知りたいと思った所から始まりました。


でも、次に一条先生が登場したお話しは、すでに原作に書かれている部分よりもさらに先を描いていたり、時間軸を曖昧にした創作ばかりでした。

もちろん、彼女はキューブのオリジナルキャラクターなわけで、ドラマや原作の中に入り込めるはずのない存在です・・・


でも、今回あえて隙間を使って彼女を登場させたのは、「天才の弱点」では琴子自体にはあまり興味を示していなかった一条先生が、それ以降のお話ではいつの間にか琴子の良き理解者になってしまっている不自然さを払しょくしたいと思っていたからです・・・

一条先生が琴子の味方になってくれたことで、一条先生というキャラが生きているのに、そのきっかけを描いていないなぁ~という気持ちはずっと前から持っていたので。


そんなわけで、今回初めて隙間のお話しを一条先生主観で書いたわけですが、台湾版にもこのエピはあったのにあの頃は思いつかなかったんですよね~不思議です。



ぶっちゃけ、あの査問会議に一条先生も参加していたら最高だったんですけど、さすがにそこまで大胆なことはできなかったですけどね・・・にひひ


さらには、このお話しから田辺響子さんのお話しへもリンクさせたりして、まったくのやりたい放題でした。


いかがでしたかはてなマーク・・・お楽しみいただけたでしょうか・・・にひひ



イタキス2もすでに最終回を迎えました。

そろそろ、全体の感想なんかも書いていいですかね~はてなマーク

キューブは、今回の日本版イタキスを観て、どうしても書きたいことがあります。

それも含め、次こそうんちく記事を書けたらなぁ~と思っていますひらめき電球



ということで、次回もどうぞお楽しみに・・・音譜



                                         By キューブ