ボジャノフのメフィスト・ワルツ第1番 | 音楽事務所クリスタル・アーツ

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 昨年夏、ポーランドのワルシャワで行われた「ショパンと彼のヨーロッパ」音楽祭で、ボジャノフはオープニングコンサートのソリストという重要な役割を務めました。

 2010年のショパン国際ピアノコンクールの経過を追っていた方はご存知かと思いますが、彼はこのコンクールで多くの審査員を魅了し、名ピアニスト、マルタ・アルゲリッチをして、「ボジャノフは他の誰もくれない特別なものを与えてくれた。許されていないとわかっていながら、審査員席から拍手を贈ったただひとりの人」とまで言わしめました。
 しかしショパンの祖国であるポーランドという国でおこなわれるこのコンクールでは、「ショパンらしい」「ポーランドらしい」演奏か否かが評価の分かれ目となり、ファイナルを終えたボジャノフの結果は、4位でした。独自の解釈による「ショパンらしさ」が、一部の審査員には受け入れ難いものだったのです。たとえそれが「すばらしい音楽」だとわかっていても……。
 4位入賞は充分すばらしい成績ですが、やはり自分の音楽に強い自信と確信を持っていた彼にとっては満足のゆく結果ではなかったようです。授賞式にもガラコンサートにも出席することを拒むという一幕もありました。

 しかし聴衆はすばらしいアーティストに対して、とても温かく、正直で素直なものです。コンクールから10ヵ月、先にご紹介したワルシャワの音楽祭におけるオープニングコンサートではもちろん、その数日後におこなわれたリサイタルでも、ワルシャワの聴衆たちは、ボジャノフを熱く歓迎しました。
 中でもこのリサイタルで聴衆を大いに沸かせたのが、この、リスト「メフィスト・ワルツ」第1番です。演奏が終わるとともに会場内は総立ち。聴衆は大いに熱狂しました。当時の音楽祭ディレクター、スタニスラフ・レスチンスキ氏は、この夜の演奏についてこう語りました。

「ボジャノフは時々驚くような奇抜な解釈を聴かせることもあるが、時に真に天才的な演奏で私たちを魅了する。あの夜の演奏以上にすばらしいメフィスト・ワルツを、私は聴いたことがない」


 そんなメフィスト・ワルツ第1番、今度の日本ツアーでも取り上げられます(Aプログラム)。6月8日(金)、東京・サントリーホール大ホールでのリサイタルでも聴くことができるというわけです。
 
 これまで協奏曲やリサイタルのステージで、幾度となく、ボジャノフが聴衆を熱狂させる場面を目の当たりにしてきました。前回の記事で述べたように、彼が自分だけの意志で巧みに空気を操ることのできるリサイタル・プログラムにおいては、何か人々が、より陶酔的な熱狂に導かれていくように感じます。

 サントリーホールという大きな空間に集った聴衆が、皆で音楽によってどこかへ連れて行かれるような陶酔を共有する。まさに生の音楽の醍醐味です。
 ボジャノフが与えてくれるそんな瞬間が、今から待ち遠しくてなりません。



★6月8日(金) 19:00  サントリーホール 大ホール
 問:チケットスペース 03-3234-9999

 《プログラムA》
ショパン:舟歌 嬰ヘ長調 op.60
ショパン:ピアノ・ソナタ第3番 ロ短調 op.58
シューベルト:12のドイツ舞曲(レントラー)D.790
ドビュッシー:レントより遅く(ワルツ)
ドビュッシー:喜びの島
スクリャービン:ワルツ 変イ長調 op.38
リスト:メフィスト・ワルツ第1番 「村の居酒屋での踊り」S.514

[文 高坂はる香(音楽ライター)]

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