とある牛丼の専門店。
だが店内は高級レストランのような雰囲気。
シャンデリアが輝く店内を、タキシードを着た店員が優雅に行き来している。
足元は、ふっかふかの赤い絨毯。その下は、ぴっかぴかの大理石。
店内を見渡せば、有名な絵画とデカイ壺、黄金のマーライオンが飾られている。

あきれる若い男性客。


「……なんじゃこりゃ……」
「ようこそ。いらっしゃいませ」


ダンディーな店員がでてくる。


「あ、あの…」
「初めてのお客様でいらっしゃいますね?」
「は、はい…。あの、ここって牛丼屋…」
「左様でございます。どうぞこちらへ…。お席にご案内いたします」
「は、はい…」

客、ダンディーな店員とともに移動する。

「どうぞ」
「ど、どうも…。座る時に椅子をひいてくださるんですね」
「当然でございます」

客、恐縮しつつ…座る。

「ご注文は牛丼でよろしいですね?」
「は、はい」
「お好みでスープの量を調節できますが、いかがいたしましょう?」
「す、すうぷ?」
「つゆだくでよろしいですか?」
「あ、そういうこと。は、はい、それでお願いします」
「トッピングはいかがいたしましょうか」
「トッピング?」
「半熟卵、生卵、ネギ、キムチなどございますが」
「あ、じゃあ半熟卵で」
「かしこまりました。当店では卵はウコッケイを使用しております」
「ウコッケイ?!」

「左様でございます」

「ちょ、ちょっと待って!」
「はい?ウコッケイではご不満でしょうか?ではダチョウの卵を…」
「普通のでいいよっ!」
「普通…といいますと?」
「鶏の卵だよ!それでいいよ!ウコッケイの卵って1個500円するんだろ!?そう聞いたことあるぞ、冗談じゃねえよ!値段、はね上がるだろ!?」
「本当に…鶏の卵ごときでよろしいのですか」
「十分だよ!つか、ごときって言うなっ!!」
「では、そのように致します…少々お待ちくださいませ」

店員、一礼して優雅な足どりで厨房へむかう。

「…大変お待たせいたしました」
「ホントにずいぶん待たされたんだけど」
「注文をうけてから釜で飯を炊きますので」
「炊いとけよ!!」
「炊きたての方が美味しいですから」
「それならそうと先に言っといてよ、退屈しちゃったよ!」
「申し訳ございません。ピアノの生演奏はお気に召して頂けなかったでしょうか…?」
「眠くなっちゃったよ!」
「申し訳ございません」
「ま、いいや。早く食わせて。腹へったよ」
「どうぞ、こちらでございます…」

店員、優雅な手つきでフタをあける。

「おっ、旨そう~!」
「…お客様。つゆだくの加減は、こちらでよろしかったでしょうか」

店員、器を傾けてつゆを客にみせる。

「わざわざ確認するんだ!?」
「いかがでしょうか、お客様」
「い、いいんじゃない?」
「お気に召して頂けて何よりです。ではごゆっくり…」
「ちょっと待って!」
「はい」
「この箸…なに?」
「黄金の箸がなにか?」
「普通のでいいよ!!」
「では漆塗りの方をお持ちいたします」
「いや、待って!」
「はい?」
「安く済ませたいから牛丼屋にしたのに、こんなの出されたら意味ないよ!普通のにしてよ!」
「ご安心ください。当店では良心的な価格設定にしておりますから」
「いくらなんだよ?」
「こちら最高級の霜降り和牛を使用しておりますので、しめて1万8千円となります」
「肉自体が高かったぁーーッッッ!!!」
「あの素材でこのお値段ですから、かなり良心的ですよ…」
「卵と箸にあんだけ文句言ったのに結局たかくついたああああーー!!!」
「カード払いできますよ」
「そういう問題じゃねえよっ!!」
「分割払いは受け付けておりませんが…」
「なんでだよッ!?!!」
「まあ、せっかくですからお召し上がりください」
「注文しなかったことにしてくれ!オレは帰る!!」
「そういうわけには…」
「ちょっと遠いけど普通の牛丼屋にするわ!つか、もう、そこらのコンビニでなんか買って食うよッ」
「フッ、庶民が…!」
「今なんてった!!?」
「・・・いえ。またのお越しをお待ちしております…!」
「二度と来ねえよーッ!!!!」