幹「・・・釣りって、退屈じゃない?」

裕司「そうですか?」

幹「魚が来るまで、なにしてたらいいの?」

裕司「なにって(苦笑)」

幹「だってヒマじゃん、どう考えても!」

裕司「妄想をするんですよ、そういうときは」

幹「妄想?!」

裕司「ええ。かわいい人魚が釣れたらいいな~、とか」

幹「人魚?!この、ムッツリスケベがっっ!!」

裕司「(笑)。いや、そうでもしないと間がもたないでしょう?」

幹「そんなんが釣れるワケねえのに!」

裕司「でも、楽しいですよ?」

「釣りを楽しめよ!!」  

裕司「魚がメインじゃないんですよ、あれは」

幹「魚がメインだろ、どー考えてもっ!!」 

裕司「いえいえ、妄想がメインです。そのために、みんな海や川へ行くんですよ」

幹「だったら、サオいらねぇじゃんっっ!!」 

裕司「・・・いらないですね」

幹「いらねえの?!! えっ、いらねえの?!!」

裕司「・・・必要ないですね」

幹「えーーっ!!!」

裕司「あんなものは、ただのカッコつけですから」

幹「カッコつけ?!! えっ、魚を釣るための物じゃないのっ?!!」

裕司「・・・ちがいますッ」

幹「ええーーーっ!!!」

裕司「カッコつけて妄想するための、アイテムなんです」

幹「家ですればいいじゃん、妄想なんか!!」

裕司「・・・わかってないな、幹は」

幹「わっかんねえよっ!説明しろっ!!」

裕司「じゃあ、言いますけど・・・。釣りをするのは中高年の男性が多いですよね?」

幹「うん、まあねっ」

裕司「そんな人たちが、家で、無我夢中で妄想してたら、どうなります?」

幹「・・・へ、ヘンタイ・・・」

裕司「そう!変質者扱いですよッ!可哀想にッ」

幹「え・・・まさか、それを救済するために、釣りというものが開発されたとか・・・???」

裕司「そのとおりですッ!!」

幹「ウソぉーーーっ?!!」

裕司「でなければ、あんなにムダな待ち時間の多いものを、大の大人がするワケないでしょう?!!」

幹「大の大人がそこまでして妄想するのも、どうかと思うけどなっ!!!」

裕司「・・・とにかく、そういう理由なんです・・・!オトナには超ド級の気分転換が必要ですからね・・・ッ!」

幹「道具を持って、朝早くからワザワザ出かけてって、けっきょく妄想っ?!!」

裕司「人の少ない時間でないとマズいですからね!妄想してる顔を見られたら・・・気まずいですから・・・!!」

幹「そんな理由でっ?!!」

裕司「何をするにも、オトナには理由が必要なんです・・・悲しいことに」

幹「マジかよ・・・っ」

裕司「子供に『お父さん、何しに出かけるのー?』って聞かれたときに、『妄想ッ!!!』って答えるわけにいかないでしょうッ?!!」

幹「確かにねっ!!」

裕司「それが、大人という生き物なんです・・・ッ!!」

幹「・・・た、大変だな、大人って・・・」

裕司「ええ、僕らも気をつけなければ・・・もう20代ですからね!」

幹「えっ」

裕司「そのうち、釣りが必要な中高年になるんですよ僕たちも!!」

幹「えええっ」

裕司「なるんですよ!『釣りのどこが楽しいのぉ?』なんて子供に聞かれる日が来るんですよッ、つぶらな瞳でッ!」

幹「うわー!どおしようっっ!!なんて答えれば・・・っ!!」

裕司「そんな時はカッコよく、『お前も、大人になればわかるさ・・・!』と言っておきましょう・・・低い声で」

幹「妄想してるだけなのに?!!」

裕司「ええ」

幹「(笑)」

裕司「その頃には自分自身も、釣り・・・いや、妄想が大好きになっていますよ」

幹「えーっ!むしろ求めちゃう、とか?!」

裕司「そう!『そ、そろそろ釣りをしに行こっかなあー・・・』なんて、ソワソワしながら言うようになりますよ・・・!」

幹「ソワソワしながら?!!」

裕司「ええ!前の日はじっとしていられないですよ」

幹「(笑)。で、朝から妄想しに行くの?!!」

裕司「そのとおりですッ!」

幹「・・・マジで?!」

裕司「ええ。それで釣りに行ったら、魚が釣れるまでの待ち時間が、もう楽しくて仕方がないですよ!」

幹「・・・人魚のことを考えたり?」

裕司「そう!自分好みの人魚を考えたりッ!!」

幹「現実逃避したり?!」

裕司「現実逃避したりッ!!」

幹「家族や仕事をわすれて?」

裕司「もう、楽しいことばっかりッッ!!」

幹「じゃ、釣れたら残念でしょうがないね!」

裕司「そうッ!もともと魚なんて、どうでもいいんですからッ!!」

幹「そっかぁーー!!」

裕司「だからリリースするんですから、みんな!!!」

幹「ウワッ!!辻褄あってるっ!! こええええええーーーっ!!!」

裕司「(笑)。だから、釣りは、楽しいんです・・・!」

幹「うわ、オレ、釣り人を見る目が変わるー!!」

裕司「(笑)。そっとしておいてあげて下さいよ、ジャマしないように・・・」

幹「うるさくしたら怒られる?」

裕司「当然です」

幹「『妄想のジャマ!!』って言われちゃうかな?!」

裕司「いえ、それはないです」

幹「えっ、なんで??」

裕司「『妄想』とは言わないですよ。大人には、カッコつけが必要ですからね・・・さっきも言いましたが」

幹「じゃあ、なんて言われるの・・・?」

裕司「こう言われます。『うるさくするな!魚が逃げるだろッ!!!』って・・・」

幹「!! 言われたことある、それ!!」

裕司「だから、魚釣りにする必要があったんです・・・。魚が目当てでなくてもね」

幹「確かに、釣り人はよくそれ言ってるっ!・・・つっ、辻褄があってるーーーーーっっ!!!」

裕司「だから・・・そっとしておきましょうね、釣り人のことは・・・!」

幹「・・・う、うん・・・」

裕司「幹くんも、『釣りが趣味です』って言うときが来ますから、きっと」

幹「で、でもそれってー」

裕司「そう。『妄想が趣味です』って言ってるのと、おんなじです(微笑)」

幹「(苦笑)。大変だな~、大人って」

裕司「ええ・・・大変なんですよ」

幹「のぞいてみたいね、釣り人の頭ん中ど~なってんのか(笑)!すごいんじゃね?!」

裕司「最強のファンタジーが見れますよ!」

幹「(笑)。18禁だったりしてっ?!」

裕司「そのへんは・・・・・そっとしておいてあげて下さいよ」

幹「(笑!)」