現在、中一の男子。
がっこにまったく行っていない。
ボクシングもたまにしか来ない。
だから、上達もまったくしていない。
その子は、笑顔がとても可愛らしく、
なんとかしてやりたいと思っていた。
だから、先月だったっけ、オマエなー、
このままやったらあかんやろ。
がっこいっても、勉強わからんから、
座ってるの苦痛でしゃーないやろ。
もうな、オレんとここい。
金はきにせんでえ、分からんとこから
教えたるからよー。
その代わり、覚悟はしてこいよ。
勉強つー、一番しんどいもんと戦うんやからな。
よー考えとけ!と言った。
なぜならその子は、親父と2人ぐらしのようで、
親父は、懇談にも来ないから、
担任に、もう懇談ええやろ、とあっさり切られていた。
公教育が救ってやれないのなら、
周囲のオトナが、彼を救い上げてやらないといけない。
そんな哲学的使命感から、
オレもめっちゃ忙しいのに、
ゆってしまった。
その後、でんでん、会わず、
今日、帰りしな、バッタリとあった。
○○やんけー、ひさびさやなー、
どないしとんねん、から入って、
上記の話を切り出す。
だって、小数・分数を知らないので、
タイムリミットが近いのである。
一刻も早く、やってやらないと間に合わない。
そんな思いをよそに、オレ高校いく気ないねん、とぬかす。
オマエ、ほんなら、どーすんねん、
どないやって、飯食っていくねんー、と聞く。
まー、そんとき考えるー、
と、あっさり、ドアは閉じられた。
手は差し伸べた、世界一の手を、
しかし、あまりにも遠く、届かなかった。
あのあどけない顔が、どんどん変わっていくのを、
想像して、切なくなっちまった。
しかし、内心、安堵していたのも確かだ。
彼を通常の生活に戻すのは、
川を逆流するより、難しいからだ。
文化資本よりうまれいづる格差は、
こうやって、生ずるのである。