〈あ!翔くん!いらっしゃい。〉
オレは仕事を終えると、彼女のいる教室に向かった。
もう生徒さんはいなくて、彼女は帰り支度をしているところだった。
〈少し、弾いてく?〉
『大丈夫?』
〈うん。どうぞ。〉
彼女はそう言うと、鍵盤の蓋を開けた。
ポーン……
最近、あんまり弾いてなかったから、ちょっと緊張する。
〈翔くん?〉
『……やっぱ、今日はいいや。』
オレはそう言うと、鍵盤の蓋を閉めた。
〈どうかしたの?〉
『いや、別にどうってことねぇんだけどさ。』
不思議そうに首を傾げる彼女に、オレはふっと笑って言った。
『腹減っちゃってさ?』
〈え?〉
『早く、飯、行こうぜ?』
オレの言葉に、彼女はクスッと笑った。
〈もぉ、翔くんってば。〉
『また今度、弾きに来るからさ。』
〈わかった。期待しないで待ってる。〉
クスクスと笑う彼女に、オレも釣られて笑う。
優しい時間。
〈あ、今日は翔くんちの近くのパスタが食べたいな。〉
『お!いいね!んじゃ、行こっか?』
〈うん。〉
そしてオレらは、二人の時間を過ごした。