今年は本当に暖冬。暖冬、でいくら今日が立春とはいえそれはあくまでも「暦の上」だったはず。例年のこの時期は除雪に追われてどっと疲れて身体中が湿布だらけ。何しろ田圃の土が見えてきたのだ。ここまで来るともう今シーズンの雪はおしまいでいい、と個人の感想的に思うのだが。体が楽なので本読みには実にシミジミ嬉しい。

 

No.097 2021.8.6(金)

万事快調 オール・グリーン/並木銅/文藝春秋/2021.7.10 第1刷 1400+10%

 第28回松本清張賞受賞作(満場一致!!)

 テンポがいい。あまりにツンツク読めるものだから、これは少しヤバい目の二時間ドラマの原作か、と思ったほど突っ走る。

 主人公は3人の高校2年生女子。茨城県東海村の「底辺の工業高校」に在学。それぞれに抱え込んだ家庭環境と生育環境に、閉塞感ではち切れそうになっており、とにかくこの環境から出ていきたいと思っている。

 そんな中で一人のラッパー(見習い的な)朴秀実が、大麻の種をかっぱらう。本を読むことで何から飛び出そうとしている岩隈真子、陸上部だった矢口美流紅の2人も誘い、廃部になった園芸部の温室を占拠し大麻栽培を始める。

 この作家はこれからどこに行くのか、とても気になる。

 映画に対する知識、ラップを下敷きにした言葉の弾むようなリズム感がこの物語では、突拍子もない相乗効果を出すことに成功している。いわば「何の気なしに乗り込んだ電車がジェットコースター」だったような…不思議さが突出している。

 実は、たいした骨格の物語ではないのだ。外側の衣裳を取っ払うと単純に「おむすびコロリン」的な偶然こうなりました、というのと何ら変わらないことになる。

 計算された結末なのだが、読んだ印象はそんな感じになるのだ。

 しかし、その核にある「ここではないどこか」へと脱出を図る物語は痛烈な文明批判であり、自分への苛立ちなのだ。

 

—内容紹介を引く……

 満場一致で第28回松本清張賞を受賞

時代の閉塞感も、小説のセオリーも、すべて蹴散らす、弱冠21歳の現役大学生による破格のデビュー作。

 このクソ田舎とおさらばするには金! とにかく金がいる! だったら大麻、育てちゃえ(学校の屋上で)。

 茨城のどん詰まり。クソ田舎の底辺工業高校には噂がある……。表向きは園芸同好会だが、その実態は犯罪クラブ。メンバーは3人の女子高生。彼女たちが育てるのは、植物は植物でも大麻(マリファナ)だった!

 ユーモラスでオフ・ビートな文体が癖になる、中毒性120%のキケンな新時代小説……。

 

 荒削りで乱暴な創り方だからこその魅力的て、刹那的な逃亡物語だろうか。次を早く読みたい。そんな意味のわからない焦燥感を覚える作品。久しぶりの〈とんでもない実力者〉の登場なのか、見極めたいと痛切に思った新人の登場だろう。「選評」の京極夏彦氏の言葉を挙げておきたい。

 

【先を見通しているのか、後ろが見えていないのか。でも、少なくとも作者には今がはっきり見えている。何者なのか見極めたい。……京極夏彦】

 

 ウムムムム……。著者情報を備忘録として挙げておきたい。波木銅(ナミキドウ)1999年、茨城県生まれ。大学在学中の2021年、『万事快調(オール・グリーンズ)』で第28回松本清張賞を受賞しデビュー。若い才能の登場が続く。

 ★★★★★