大河内デカ長シリーズ復活!!このシリーズは、とにかく読む人、読んでいる時の精神状態などなど読者を選んでしまう傾向にあるかもしれない。重いのだ。でも重くても心に爽やかな空気が流れるようなシリーズでもある、のだが。

 

No.130 2023.11.19(日)

砂時計 警視庁強行犯係捜査日誌/香納諒一/徳間書店/2023.10.31 第1刷 2000+10%

 大河内デカ長を主人公とした警視庁捜査一課強行班係のシリーズ最新刊。とはいえゆるいシリーズでもあり、連続して同じ版元から出版されないのでコアなファンが追いかけているだけで、もっと多くの読者を獲得できるのにと残念極まりない作品群なのだ。

 

 今回は中編と短編の三篇を収録。

 表題作に込められた作者の強いメッセージに心が震える。難病で苦しみの極地にある両親をさらに苦しめる周囲の悪意。

 一つの自殺か他殺か事故か判断のできない現場に臨場を要請された大河内デカ長。現場の違和感から所轄と一緒に周囲の聞き込みを始めて次第に背景が明らかになる。その現場から感じた違和感は……。(砂時計)

 

 久しぶりの班の休日に家族と出かけた大河内の上司の小林班長。しかし、浅草で人力車のいざこざに仲裁し乗っていた客の高齢の女性に声をかけられる。若い頃の警察寮の“寮長”こと賄いの女性だった。休日なのにとブツクサ心の中で呟く“日和見係長”の休日は謎の死を遂げた元警察官の死因を探ることに……。(日和見係長の休日)

 

 桜見物の名所・目黒川遊歩道沿いの建て替え間近の廃ビルで若い女性の変死体が見つかる。捜査本部を設置するかの判断をすべき大河内が臨場する。被害者は大学時代にバンドを組んでいたボーカルの女性が自殺した裁判の証人だった。調べを進めるうちに、大河内の前にバンドメンバーたちの行動が浮かび上がってくる……。(夢去りし街角)

 

 収録されている三篇は、人の中に存在する“思ってもいない悪意”がある一線を超えることで不意にその人を支配するようになる。その瞬間に人は一匹の獣に変身してしまう。その悲哀を大河内が浮かび上がらせている。

 この三つの事件に描かれる“犯人”は、一つ間違うと「誰にでも当て嵌まる」ような日常の狂気なのかもしれない。

 

 香納諒一はもっともっと知られて良い作家。今更ながら、だが。

 大河内の悲哀を描ける作家は、香納諒一以外にいない。犯罪者心理とかの小難しい理由ではない。心を浮かび上がらせるのは、香納諒一の剛腕以外にいないのだ。その意味でも、もっと評価されて当然のエースなのだ。

 

—内容紹介を引く……

切なさと救い溢れる3つのラスト。

読者を半泣きさせる書下ろし警察小説。

心揺さぶる哀切のミステリーロマン誕生!

 マンションの一室で三十八歳の女性が死亡。大量の睡眠薬をアルコールとともに服用したことで昏睡状態となり死に至ったようだ。

テーブルには「疲れました。ごめんなさい」と印字された遺書らしきプリントも。自死と思われたが、所轄は警視庁捜査一課の大河内茂雄部長刑事に現場への臨場を依頼した。不自然なことが多かったのだ。部屋のパソコンからはここ数カ月のメールが消去されていたし、死の前日にスーパーの宅配サービスに注文を入れていることもわかった。マンション住人からの聞き込みから、複数の男の出入りが確認され、事件当夜には男女の言い争う声も聞かれていた。

 大河内刑事は、被害者が中学生のときに父親が殺人を犯していたことをつきとめる。また被害者は二年前にも大量の睡眠薬を服用し病院に搬送されたこともわかった。捜査を進めるうちに、被害者のまわりでうごめく黒い影に存在に気づく……

 事件の謎に挑む警視庁捜査一課強行犯係のベテラン刑事の活躍を描く3篇。切なさと救い溢れる3つのラスト。読者を半泣きさせる書下ろし警察小説。

心揺さぶる哀切のミステリーロマン誕生!

 

 不意に込み上げる嗚咽を耳元で聞く。そんな読者の心に直接グイッと差し込んでくる独特の文体。人はそれを「ハードボイルド」と呼ぶ。香納諒一の文章には言い表すことの難しい味とハートが込められているのだ。

 1963年横浜市出身。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。1991年「ハミングで二番まで」で第13回小説推理新人賞を受賞。翌年『時よ夜の海に瞑れ』(祥伝社)で長篇デビュー。1999年『幻の女』(角川書店)で第52回日本推理作家協会賞を受賞。主にハードボイルド、ミステリー、警察小説のジャンルで旺盛な執筆活動をおこない、その実力を高く評価される。(プロフィールより抜粋)

 警視庁強行犯係シリーズは

 「贄の夜会」(文春文庫)。「無縁旅人」(文春文庫)。「刑事群像」(講談社)。「刹那の街角…捜査一課中本班の事件ファイル」(徳間文庫)。そして本書「砂時計…警視庁強行犯係捜査日誌」(徳間書店)がある。なお「刑事群像」に至っては2015年の発売なのに文庫化もされていないという悲しい一冊なのだが……。

 

 実力を高く評価される。のであればもっと売れてほしいと願っているのだ。こんな作家は、あまりいない。是非とも知られてほしい。傑作。

 ★★★★★