昨日は先日の祝日出勤の振替休日。

 

本当なら柏市で開催中の

「高島野十郎展」

に行きたかったのですが・・・ 

 

今これだけ急激に感染拡大が進んでいる中、

県境を越えるのはさすがにはばかられ、

おまけに2度目のワクチン接種から日が浅くて

まだ免疫もできていないので、

美術館行きは断念。 

 

(そもそも、今も緊急事態宣言下ですしね) 

 

その代わりに、

自宅から歩いていけるいつもの映画館へ。

 

今回見たのは

米国の女性歌手、ビリー・ホリデイの

生涯を追ったドキュメンタリー映画、

「ビリー」。

 

 

でも、この前見たアレサ・フランクリンの

「アメージング・グレース」

とは全く異なるものでした。  

 

「アメージング・グレース」は

アレサ・フランクリンの

人生のハイライトのひとつとなる

ライブの映像だったので、

見終わった後、幸せな気持ちになったのです。

でも、「ビリー」は

彼女の人生の明暗を膨大な関係者への

インタビューをもとにたどっていて、

だからこその明暗があまりにも強烈に

迫ってきて、胸が苦しくなりました。

 

黒人として生まれた彼女が

歌手となるまでも、

歌手となってからも、

成功してからも、

こんな目にあっていたとは。

 

1915年生まれの彼女が

歌手になった頃の米国では

黒人差別が当たり前のように存在しており、

黒人女性は黒人であるため、

そして女性であるために

ひどい差別を受けていました。

 

楽団付きの歌手として

楽団と一緒に旅回りをしても、

ドライブインのトイレを使うことを断られたり、

 

楽団のメンバーが宿泊するホテルに

止まることを拒まれて、

彼女一人だけが移動用のバスの中で

寝泊まりして過ごすこともあったとか。

 

レストランに食事に行っても

店で黒人女性に給仕することを

拒まれることもあったため、

そんな事態に備えて食事ができるときには

多めにオーダーして

もちかえることもあったそうです。 

 

そんな経験をしながら

歌手としての実績を重ねて行った彼女が歌い、

大きな反響を呼んだのが

「Strange fruit(奇妙な果実)」

です。

 

あなたはこの歌を聞いたことがありますか?

Southern trees bear strange fruit,


Blood on the leaves and blood at the root,


Black bodies swinging in the southern breeze, 

Strange fruit hanging from the poplar trees. 

 

南部の木々は奇妙な果実を付ける


葉は血に濡れ、根には血が滴る

南部の風に黒い体が揺れる


ポプラの木々からぶら下がる奇妙な果実

」 

 

この先の歌詞はあまりに生々しいので

ここには掲載しませんが、

「奇妙な果実」は

リンチにあって虐殺され、

木から吊るされた黒人の死体のこと。

 

1930年代には、

まだこんなことが現実に起こっていたのです。

 

ビリー・ホリデーが全身全霊で

この曲を歌う映像を見て、

文字通り背筋が寒くなりました。

 

この曲を歌うたびに、

彼女自身も身を切り裂かれるような

苦しみを味わっていたのではないでしょうか。 

 

そして、黒人女性歌手が

このような歌を歌うことは

危険なことでもありましたが、

これによって彼女は一躍注目を集めることにも

なるのです。 

 

その後、彼女が大スターに登りつめるものの、

まさしく波乱万丈な人生を送り続けるのですが、

44才の若さで

ボロボロになって亡くなるまで

こんな風にするしか、

彼女は生きられなかったのか、

となんともいえない思いがしました。

 

 

もともとこの映画は、

ジャーナリストの

リンダ・リプナック・キュールが

ビリー・ホリデーの伝記を書こうとして

約10年の歳月をかけて取材していた

取材テープや原稿をもとに

作られています。 

 

実際の取材テープや当時の映像、写真などから

そんな彼女の人生の栄光も、挫折も、

いわゆる黒歴史の部分も

じっくりと描かれていて、圧倒されました。

 

取材相手は子供時代の友人から

共演したミュージシャンたち、

彼女が逮捕されて服役していた刑務所の職員、

彼女を診察した医師など、

よくそんなに多くの人を訪ねて

取材できたものだとびっくりするほど。

 

ビリー・ホリデイという

歌手に対する興味だけでなく

公民権運動に対する共感もあったからこそ

どんどん引き込まれるように

取材して行ったのかもしれません。

 

でも、映画でも公開されなかった取材内容には

相当問題のある内容も含まれていていたらしく

リンダは執筆途中に脅されるようになり、

ある日突然、不可解な死を遂げてしまうのです。

 

(家族は警察の捜査結果に疑問を抱きますが、

その後警察の捜査資料が破棄され、

再捜査の申請もできない状態に‥)

そのリンダの取材テープが発見され、

今回のこの映画が作られることになったのです。

 

ビリー・ホリデーの生きた時代に比べれば

状況は変わっているとはいえ、 

昨年米国から世界的に広まった

「Black Lives Matter

(ブラック・ライブズ・マター)」

の動きを見て、

まだまだ多くの人が差別の中で

苦しんでいることを知り、

無知だったわたしは愕然としました。

 

今回のオリンピックでも

選手たちが試合開始前に

片ひざをついて、

人種差別撤廃を訴える姿が

報道されていますね。

 

それにしても、映画って本当にすごい.

 

あれだけの内容を本を読んで理解するとしたら、

一体何冊の本を読まなくてはいけないのか。

 

ビリー・ホリデイの映像、曲、写真、

彼女の写真、ラジオインタビュー、

膨大な取材録音テープで丹念に組み立てられた

映画に、圧倒されました。 

 

今回も最後まで読んでいただき、

ありがとうございました。

 

*東京では感染者が3000人を超えそうな勢い。 

 

くれぐれも、気をつけて過ごしましょうね。

 

*柏市の「高島野十郎展」、

今でも

「なんとか行けたらいいのになあ」

と思っています。

(でも、難しいかな、やっぱり・・・)