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 ある時ふと窓の外を眺めて見ると、いつからか風に木々が揺れ、生い茂った葉や枝がざわめいていて、鳥の群れが羽ばたきながら、その風の中を飛んでいくのが見えたのでした。
  その見慣れた光景を見て思いました、そう、それこそが変わらないもの、自然はいつもずっと変わらずにそこに在る、美しくて優雅に、葉も羽根も鳥も時とともに落ち、また生まれ変わり、綿々と続いていく自然。人間も本当は自然の一部、生まれて、空気と水と光と世界をいっぱいに吸い込み、潤い、照り輝き、生きて、やがて生まれ変わる、ただそれだけ、その素晴らしいサイクルの中に安心して寄り添えばいい、大丈夫なのだと。
  人間じゃない自然じゃないものになろうとしなくていい、自分の感覚や心に素直に従い、ついていけばいい、だって体はもちろんのこと、自分の心だって何よりもこの自然世界の、「いのち」の大切な部分なんだから・・・。 
  この冬の初めに、なんとなく、そんなことを思ったのです。


 今年観た映画(ホラー映画は除いて)で一番好きだったのは、「奇跡の2000マイル」という映画でした。これは70年代に愛犬とラクダと共にたった一人でオーストラリアの砂漠を横断する計画を立て実行したロビン・デビッドソンという女性がその横断旅行を綴った著書「Tracks」を映画化したもの。オーストラリアの砂漠、アボリジニの人々、70年代のヒッピーカルチャー、ナショナルジオグラフィックのカメラマンなどの背景が個人的に大好きだし、厳しく美しい砂漠の風景の中での、このロビンという人のインディペンデントな姿勢と佇まいにとても共感し胸打たれたのでした。
 やはり実在のカメラマン、リック・スモランが当時横断中のロビンを撮影した数々の写真が映画の最後、タイトルバックに映し出されるんだけど、その写真も本当に美しくて素晴らしく、フォトジャーナリズムというものについても改めて考えさせられた映画でした。
 ほかの人からどんなにクレイジーに思われても自分のビジョンを追及すること、たとえその旅から恋愛というものをどんなに排除したとしてもなお浮かび上がってきてしまう女というもの男というもの、過去、幼少期のトラウマ、家族、友達、お金というもの、旅、大自然、アボリジニの人々の言葉、動物、子供たち、海、失敗というもの、経験というもの・・・このシンプルな映画の中にそういったすべてが表現されていて、あたかも砂漠で飲む一杯の水のようにそれらがすんなりと観ている人の中に入ってくる感じがしました。
 また普通はこういう映画を見ていると、「こんなすごい場面を撮ってやったぞ」「こんなすごいセリフ、演技、映像、どうだ?」という作り手の意図のようなものがどんなに隠してもきまってどこかしらに見え隠れしてしまうものなのだけど、なぜかこの映画にはそういうものが全然ないのでした。たぶん、この原作の自伝と実在する旅の写真をどこまで忠実に映像として再現できるかという割と純粋な精神で作られているからなのかなと思います。なので、この映画はよくあるハリウッド映画のような誇張された抑揚みたいなものはほとんどありません、理想化した人格の人物も出てこないし、ひどい人もひどいこともいっぱいだし、ただ単にリアリテイを追及しているっていう感じ。
 そう、だからやっぱり作り手の意図ってすごく重要、見えないと思っていても根っこなわけだから作品の枝葉になってしまうんですね。
 あと、この映画を観ながら、なんとなくベルトルッチ監督の「シェルタリング・スカイ」という映画の主人公の女性を思い出していました。「シェルタリング・スカイ」の主人公はモロッコの砂漠の街で身を隠して自分を消そうとしていたけれど、この映画のロビンからも同じ衝動を感じられるような気がしました。「シェルタリング・スカイ」という映画で描かれていたものは本当に絶望的なものだったけど、この映画は背景がヒッピーカルチャーの時代だからか基本的にハッピーな感じに包まれていて、やはり70年代は素晴らしい・・・とも思ったのです。

 この映画を観ていて、何よりも感じたのは、言葉とか都会の文化みたいなものから遠ざかりたい心境の時、というのがあるなあということ。
 言葉などいっさい使わず、ただ自分の感覚や気持ちだけを抱いて動物みたいに自然の中に寄り添って過ごしたいという強い衝動のようなものを感じる時ってある。
 この映画を観た時、まさに僕はそういう気持ちだったので、そういったことを丹念に描いてあるこの映画にとても癒されたのでした。
 

 さて今年の年末に買った物のひとつが、観逃していた大貫妙子さんのライブDVD「Gratefully yours」でした。大貫さんが20年間続けていたアコースティックライブの最後のステージを収めている本当に素晴らしいDVDなのだけど、一緒に収録されたインタビューがこれまた素晴らしく、ずっと長いこと大貫さんのファンでいる僕も初めて聴くお話しがたくさんあって、とても感激したのでした。
 中でも特に印象的なのが、90年代にアフリカ、南極、ガラパゴス諸島などの人のいないフィールドに続けざまに旅をした大貫さんが、「自分の毛穴の中に恐ろしい程そういったものが入ってしまったことに気づき、そちらに扉が開いてしまった」と話されていたこと。「だから都市で生活していてもその扉をいかに閉じないようにしておくかというのが今の自分の暮らし方で、何をしていても自然とのチャンネルをずっと切らないようにしています」と大貫さんは笑顔でおっしゃっていて、とても心に残りました・・・。

 たまたま同時期に観たこの「奇跡の2000マイル」という映画と、大貫さんのDVDは、奇しくも同じことを言っているような気がして、しばし自然というものについて深く考えさせられてしまったのでした。