大きくてあたたかい

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満員電車もきらいですが、通勤ラッシュの時間帯の駅の雰囲気がどうしても苦手です。


 大きなアタッシュケースとかでバーンとぶつかってきても、何も言わずにそのまま怖い顔で

 去っていくおじさんとかがものすご~くいっぱいいるので、歩いていると何だかそれだけでトホホ・・・というカナシイ感じになってしまうことが多々あるんです・・・。


 いろいろみんな大変で忙しいのは当然なのだけど、あのおじさんたちの「知らない人たちなんか関係ない」という感じの傍若無人な態度。
 とっても怖いし、よくわからない・・・。不思議です。


 ところで、こないだ、いつもように朝の通勤電車に乗っていたら、ドアのところに深々とお辞儀をするような格好のままじっと動かない人影があったので、思わずビクッとしてそちらを見ると、朝帰りでひどく酔っ払っているらしいサラリーマン男子が、お辞儀姿勢のまま眠っている様子。
 
 そのうちドサッと音がしてその場に突っ伏すように倒れてしまうのが目に映りました。


 うつ伏せの格好のままピクリとも動かなくなってしまったその男子を見た中年女性が、見かねたように駆け寄ってしゃがみこむと、相手の肩を揺り動かしながら
「あなた大丈夫? もしもーし、おーい大丈夫?ねえ 眠ってるの?」と心配そうに何度も呼びかけ始めました。

 少し間があってから、やっと「・・・うん・・・」いう返事のような声が聞こえてきたので、僕も内心ちょっとホッとしたその時、女の人が、周りの人に手伝ってもらいサラリーマン男子をすぐ前のちょうど空いていた席に座らせながら、こう言ったのでした。


「ねえ、だったら、ちゃんと席に座って眠ろうよ、地べたになんか寝てちゃだめだよ」



 その何気ない言葉にハッとしてしまいました。

 そして、昔、おじいちゃんやおばあちゃんやがよく、「床に落ちた食べ物は食べちゃダメだ」とか、
 「親が寝ているのを跨いだりしちゃいけない」などと、毎日の暮らしの中で
 その都度言っていた色々な言葉を思いだしたのでした。


 時には優しく、時には厳しかったそういう言葉たちは、今考えると、人としてやってはいけないことや、人間としての自尊心を、守っていくためのごく基本的な規律みたいなものだったんじゃないのかなあと改めて思いました。


 自由という思想のもとに何をしてもいいみたいな世の中にいつの間にかなってしまったけれど、
 本当はそうじゃないし、人としてやってはいけないことって、きっとあるんですよね。


 本当は何でもかんでもやっていいわけじゃないんです。


 それは、たぶん誰もが本来持って生まれてきているはずの「人としての素晴らしさ」をちゃんと守るために。


 「地べたになんか寝たら、あなたが可哀想よ」


 見ず知らずの男子に向けられたあの女の人の言葉は、昔の人が普通に持っていたような
 人間の優しさみたいなもの、尊厳みたいなものが、今でもちゃんとどこかに生きていることを
 そっと教えてくれたような気がしました。


 酔っ払ってぐうぐう眠っていた兄ちゃんは、あの女の人のかけてくれた優しさなど
 全然覚えてないだろうなあと思うと他人事ながら切ない! もったいない!


 だって、朝の電車の中であの人がかけてくれたものは、すごく大きくてあたたかかったから。