水槽が完全に立ち上がってしばらく経った後、やんごとなき問題が露見しつつありました。魚たちも毎日元気に泳いでおり、水質検査も問題なし。水が濁ったり変な臭いを発したりすることもなく、いい状態をキープできているようですが、次第に水槽の壁にぽつぽつとグリーンの点々が目立ち始めました。「コケ」です。「魚や水草がちゃんと生きていける環境は、コケも普通に生きていける」ということなので、コケはどうやっても発生してしまうもの。まぁ別にコケが生えたからと言って魚が病気になりやすくなるなどの害があるわけではないのですけど、水槽の壁面にコケがびっしりついていると見栄えよくないですし、そうなると中の魚が見えにくくなって「何飼ってるのこの水槽?」なんてことになってしまいます。一応、あまり富栄養化しないようにするなどである程度抑えることができるようですが、それでも完全に予防することはできないらしいです。
 まぁコケが付いたなら取ればいいだけの話であり、そのための用具なんかも売ってたりするんですが、人間というのはものぐさなものでしてね。あとからあとから生えてくるコケを掃除するのはめんどくさいわけですよ。「コケ除去薬」みたいなのもあるんですけど、薬は出来れば使いたくないですからね。で、例の如く先人たちはどのように対策をしてるのかと調べてみたところ、「コケを食べる生物」を水槽に入れて、コケを片っ端から食べてもらう場合が多いようです。言ってみれば対コケ用生体兵器ってところですね。生体が増えればその分水質管理も難しくなるはずなんですが、コケ掃除よりは水替えの手間のほうがよっぽど楽ということなんでしょう。実際、水槽の大きさにもよりますけど水替えなんて大した手間ではないですし、コケの有無にかかわらず水替えは必要なことですからね。

 で、具体的にどういう生き物がコケに有効なのかを調べてみたら、魚ではオトシンクルスやブラックモーリー、エビではヤマトヌマエビやビーシュリンプ、貝類では石巻貝やレッドラムズホーンといったところが有名どころの「対コケ用特殊部隊」のようです。ふむ。
 世間ではナマズの仲間であるオトシンクルスが人気のようですが、アカヒレの反省もあり異種混泳はなるべく避けたいので魚は除外。エビも水質変化に弱く、金魚が食べてしまったりするそうなのです。となると残るは貝。とはいえ、レッドラムズホーンなどの外来種は爆発的に繁殖するそうです。それはちょっと困る。その点、石巻貝の場合は淡水では繁殖しない(繁殖は汽水、つまり海水と淡水が入り交じった水)上、コケ取り能力も高いそうです。貝類共通の弱点として酸性に弱い(殻が溶けてしまうから)というのがあるのですが、うちの水槽は弱アルカリ性。問題なし。石巻貝ならこの間地元の観賞魚屋さんで売ってるのを見た。オッケー、ならばすぐにでも貝を買いに行かないかい(キメ顔)? と娘を連れて観賞魚屋さんへ。

 定休日でした。

 ガ━━(゚Д゚;)━━━ン!!

 さぁ困った。このお店、店主が趣味でやってるようなモンだから(本業は近くにあるお花屋さん)、閉まるのも早くて、会社から帰ってくる時間だと間に合わないんだよな。かといって池袋まで出るのも面倒だし…。まぁ明日会社帰りにデパートに寄って買ってくればいいだけの話なんだけど、自分は性格的に「思い立ったが吉日」なのです。今日買わなければいけない気持ち。ふむ、じゃあ近くの別の観賞魚屋さんを探そう!

 じゃーん! ナビウォーク~(のぶ代版ドラえもん口調で)

 本当に便利な世の中になりましたよね。ささっと観賞魚屋さんを探すと、ほほう、隣の駅の商店街にあるっぽいぞ。早速行ってみると、うちの地元の店よりも広めの店内に、けっこうな種類の魚が売られていました。へえ、水泡眼までいるんだここ。
 しかし、肝心の石巻貝さんの姿がありません。「ここでお店をやってもう50年になります」くらいのおじいさん店主に「石巻貝ありませんか?」と訊くと、「石巻貝はないねぇ。石巻はねぇ、すぐ死んじゃうからねぇ」との返事。なぜそんなはかない命を憐れむような言い方を。別にいいけど。そうか、じゃあやっぱ明日以降、地元の店で買うしかないかと思っていると、「タニシならいるけどどうだい?」と店主。「タニシもコケ食べます?」と訊くと、食べるとのことなので、ならばと6匹ほど適当なのを見繕ってもらいました。で、おいくらまんえん?

 「200円でいいや」

 いいのか、それで。 

 まぁそんなわけで帰宅して、金魚水槽、アカヒレ部屋、メダカ部屋に2匹ずつ投入。しばらく放っておくと活動を開始したようで、ガラスにひっついて口をパクパクさせています。おお、食べてる食べてる。この分だとけっこうな早さでコケなくなるかな? と思っていたのですが、それから数日が経過しても、ガラス面の緑の斑点はいっこうに減る気配はありません。
 タニシが仕事をしてないわけじゃないのですよ。現に、水槽に入れてた珊瑚や貝殻もところどころ緑色や茶色になってたんですけど、それは綺麗になくなっていましたし。なのにガラス面の斑点は残ったまま。「ひょっとして、食べられないのではないか?」と思い調べてみると、やはりこのガラス面に斑点状につく「スポットコケ」というコケはかなり吸着力が高く、しかも時間とともに固くなっていくんだそうです。仕方がないのでゴムヘラのついた水槽用のスポンジを買ってきてヘラでひっかいてみましたが、全然取れる気配なし。スポンジ部分を使っても相当力を入れてようやく少し取れたかな? という程度。なるほど、これじゃタニシさんも苦労するはずだわ。
 結局、スポットコケに一番有効なのは台所で使うメラミンスポンジらしく、試しに家にあったのを使ってみたらウソみたいに楽にコケが取れました。最初からそうしろって話ですよね…。とはいえ、それからしばらく経ちましたがスポットコケは出てこなくなったので、タニシさんたちがちゃんとお仕事をしているのは間違いなさそうです。

 そんなわけで、タニシが仲間に加わりました。