まだ興奮が冷めずまとまりのないままに昨日の『不滅の棘』観劇の感想を。
 
 
12時の公演で宝塚歌劇の生徒さんが何人かいらしたようですがいつものように誰かは分からず。
大劇場公演が休演日だった花組の生徒さんのようです。
宙組の愛月ひかるさんの主演公演で、個性的な役柄が続いていた愛月さんの二枚目な姿を楽しみにしていたのですが、良い意味で大きく裏切られる作品でした。
 
 
医師である父親が調合した秘薬の実験台となり、望まぬ不老不死の命を得てしまった少年エリィ。
300年という長い時を場所を変え名前を変えて生き続けたエリィは、人気歌手のエロールとしてプラハを訪れ、四代前から続く遺産相続訴訟を引き継いでいるフリーダという女性の前に現れる。
実はフリーダは過去にエリィが唯一心から愛した女性との間に生まれた男児の子孫なのです。
エロールは訴訟相手の邸に忍び込みフリーダが正式な相続人である証拠を盗みます。
更に300年かかって薬効が切れ始めて死が迫っている事を悟っていた彼は、邸に薬のレシピが保管されているのを確認し、一家の母娘を口説いてそれを奪いますが、最後はフリーダにレシピを託しそれが燃えていく事を喜び消滅していく。
ざっくり乱暴に説明するとそういうストーリーです。
 
 
衣装も装置もほぼ白の世界。
なのですが、白にもこんなに種類があるのかと驚く、美しい世界になっていました。
白一色の中で訴訟の証拠となる出産証明書の青色、レシピの封筒の緋色、それが燃やされる炎の赤色、流れる血潮の紅色などコレという色が印象に残って。
それから赤ちゃんの産着のような白に包まれるからこそ、登場人物それぞれの欲望や心の弱さ、愛への渇きなどが浮き彫りになって見えていたと思います。
主人公エロールも気の遠くなる時間を生きてきた虚無的で冷めた部分を浮き彫りにしているのですが。
その中に「命を返して」と叫んでいた少年エリィの心の欠片が残っているのを感じました。
 
 
愛月さんは久し振りの二枚目と思いきや今回も簡単には演じられない難役。
これをしっかり向き合って演じられているのが好感を持ちました。
滑舌や歌唱力などに対する意見も見掛けますが、愛月さんのお芝居はいつも繊細で、そういうマイナス面を私はあまり感じないのです…。
今回の作品も300年という長い時間をエリィがどう生きエロールという人物になっていったか、丁寧に構築されていると思います。
 
 
愛月さんのエロールはキザだけど嫌味ではなく、色気の中にも優しさや純な部分もあるような…。
只のプレイボーイというだけではない何かを感じるからこそ、周りの女性はことごとくエロールに惹かれ愛してしまうのではないでしょうか。
(そんなエロールに群がる女性たちも彼の年齢を知って幽霊でも見るような目で引いていく残酷さ…でも彼はそうなる事は誰よりも分かって生きてきたんですよねきっと)
人気歌手としての色気や華やかさ、不老不死の人間としての虚しさや哀しさ、エロールという人間を多面的に魅力的に演じられていました。
私は春野寿美礼さんの初演版は映像含めて未見ですが、この作品を愛月さん主演で観られた事は私にとって幸運でした。
 
 
ヒロイン役の遥羽ららさん。
過去にエリィが愛したフリーダと現在に生きるその子孫フリーダの二役をしっかり演じられていました。
「お金が欲しい」とキッパリ歌ってても可愛いので許される。
そのフリーダと相続を巡って争う男爵一家。
アルコール中毒で酒に溺れる息子ハンスを演じる留依蒔世さん。
酔って人生を見失っていることを表すダンスシーンは、彼が飲み込まれている闇の深さを感じ、どうしようもないダメ人間になっていました。
でも純矢ちとせさん演じる母親のタチアナもそうですが、目の前に莫大な財産があるのに訴訟のせいで制限がかかり思うように使えないとなれば、性格も生活も荒んでしまいそうな気はします。
だからこそ華妃まいあさんのクリスティーナの健気さや真面目さは、兄が言う通り「真っ直ぐだからこそ心配」な脆く危ういものだったんだなと。
(恋に失望したからといって何も命を絶たなくても…とは思いますが)
 
 
二幕目の冒頭、里咲しぐれさん・星月梨旺さん・朝日奈蒼さんがエロールの公演が終わった後の劇場を掃除する場面があるのですが、アドリブっぽいのが面白かったです。
花組の生徒さんが来られていたので、花組公演『ポーの一族』をネタにしていました。
木村信司さんの作品と言えば印象的な歌が多いのですが。
この『不滅の棘』も頭の中で「バンバンババン」が繰り返されております。