PARCO劇場で上演中の、横山拓也作・小山ゆうな演出『ワタシタチはモノガタリ』を観てきました。

横山拓也さん特有の切なさや深みを伴うテンポのよい会話に、小山ゆうなさんの大胆で遊び心のある演出が加わって、カラフルでポップな作品に仕上がっていたのが斬新で、楽しめました。

 

基本は会話劇なので、劇場の大きさに負けないように工夫された映像、美術が新鮮でしたし、

中学時代の同級生を演じた江口のりこさんと松尾諭さんの関西弁でのかけあいや、千葉雄大さん、松岡茉優さんはじめ複数の役割を演じた俳優さん達の演じ分けも楽しく、みなさん活き活きと演じていたのが印象的でした。

 

以下、ネタバレありの感想ですので、未見の方は自己判断のもとお読みください!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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2024年9月16日(月)13時30分

PARCO劇場

作・横山拓也

演出・小山ゆうな

出演・江口のりこ 松岡茉優 千葉雄大 入野自由 富山えり子 尾方宣久 橋爪未萠里 松尾諭

 

 

 

 

 

中学時代に文芸部に所属していた富子(江口のりこ)と徳人(松尾諭)。

中学3年生の時に徳人が東京に引っ越した後、二人は15年もの間文通を続け、

「30歳になってどっちも独身だったら結婚しよう」という淡い約束も。

でも、一度も会うことはなく、30歳になった徳人は、別の女性(富山えり子)と結婚。

二人は徳人の結婚式で15年ぶりに再会します。

 

今でも小説家を目指している富子と、今は編集者になっている徳人。

結婚式に参列した富子と、徳人の15年ぶりの会話も微妙な揺らぎがあって、味わい深かった。

その日、富子は今まで自分が書いた手紙を徳人から全部返してもらいます。

ここも、へえ、返してもらうんだ?そして徳人も全部とってあったのね、と思いましたが、

 

10年後、富子は二人の手紙のやりとりを携帯小説としてSNSに連載ものとして投稿。

タイトルは、『これは愛である』(このビミョーにダサい感じも可笑しい)

徳人の手紙はそのまま使っていることから、ドキュメンタリー要素もある小説は大評判に。

出版業界からも注目され、女優の川見テイコ(松岡茉優)も大ファンで、恋人の映画監督(入野自由)と自分が主演の映画化の企画も。

 

手紙のやりとりを続ける中、富子は徳人への恋心を持ち続けていたようですが、長い年月の間、徳人の存在はもはやイマジナリーになっていて、それを小説に反映させていて、現実と想像が混在。

 

小説の中では徳人はリヒト、富子はミコと命名され、リヒトを千葉雄大さん、ミコを松岡茉優さんが劇中劇として演じるんですが、さらに富子はリヒトの顔を好きなアーティストのウンピョウ(千葉雄大)で妄想していて、ちょっとややこしい(笑)

 

変形した額縁のようなセットの中と手前で、小説の世界(富子の妄想)と現実が分けられているのも面白かったし、千葉さんと松岡さんが活き活きと可愛らしく演じているのが楽しかった。

 

携帯小説が評判になって書籍化や映画化の話が持ち上がり、ついに自分が世に認められる時が来た!と意気が揚がる富子ですが、

自分が書いた手紙がそのまま使われ、かつ事実ではないことを書かれていることを知った徳人は怒ります(そりゃそうだ)

けれど、富子は(自分の本当の気持ちを押し隠しつつ)これはあくまでも創作だ、と主張。

 

徳人が女優の川見テイコのファンであることを利用して、富子は何とか徳人を説得するんですが、川見は小説の結末を、読者のみんなが望むハッピーエンドにしてほしい、と言います。

 

ノンフィクションと創作とプライバシー、

作品は誰のためのものなのか?

富子は何のために小説を書くのか、売れるため?読者を満足させるため?

などなど、創作に携わる人の普遍的な葛藤が描かれているように思いましたが、

「私は売れたいのよ!」と言う富子。

 

徳人は、安易なハッピーエンドは富子の小説家としての本質にそぐわない、と言い出し、自分が編集者となるので、結末を一緒に考えよう、と言います。

 

徳人は、富子の手紙の文面から、彼女の才能、ほとばしるような文体の中に秘められた感情を自分はよくわかる、というようなことを言いますが、

ということは富子の恋心も読み取っていたということですよね、そのくせ自分の富子への気持ちは明確にしていないところがズルいなあ、と。

 

富子の才能を確信し、富子の小説の理解者であることは伝わってきましたが、すんなりと感情移入できる人物造形ではなく、でも松尾さんが演じるとなんというかある種の趣がありました。

 

女優と映画監督との関係や、映画化の際のリヒト役に抜擢されたウンピョウなどのサイドストーリーも加わって、

それぞれの人生の地点で「自分が本当にやりたいこと」「夢」「自分が求めているもの」などを探し求めている人生の途上者達の姿が描かれていました。

 

ミコとリヒトが妄想の世界から飛び出してきて、富子と徳人と直接のやりとりをするところの飛躍も面白かった。

 

結局、小説の結末がどうなるのかは明示されず、富子と徳人の関係も40歳としての自制感やもやもや感もあるラブコメディでしたが、そこにある種のリアリティもあり、

 

江口のりこさんの柔らかいけど時にズバッと核心に迫る台詞回しや、

松尾諭さんの偉そうでありながらの可愛らしさ、

千葉雄大さんはともかく可愛くて、この可愛らしさを引き出したのは女性演出家ならではかしら、と思ったり。ウンピョウとの演じ分けも見事でした。

 

松岡茉優さんのイマジナリー・リコの時の翔んだ演技と、女優テイコの時のリアリティのある演技の落差も魅力的。

映画監督役の入野自由さんもコミカルな言動の中に彼の鬱屈や夢が見えてきたのも良かった。

 

iakuでお馴染みの橋爪未萠里さんや、尾方宣久さんの誠実な演技、富山えり子さんのどこか包容力のある演技など、それぞれが演じた複数の役の演じ分けを楽しめました。

 

小山ゆうなさんの演出は、登場人物たちの可愛らしさを感じさせるもので、それぞれのキャラクターの魅力を引き出していたと思います。

 

富子の台詞で、正確には覚えていないんですが、

「人は事実のみで生きているのではなく、自分の物語を生きている。私達は物語なんだ」というようなのがあって、

 

確かに、人生の中で経験した悲しみや苦しみの過去も、やがては自分の物語になっている気がするし、まだ見ぬ未来への希望や不安も含めた物語を生きているとも言えるのかも、

と、

「ワタシタチ

ではなく、

「ワタシタチ」というタイトルの意味が胸に届いてきた気がしたのでした。