東京芸術劇場プレイハウスで上演された、岩井秀人作・演出『世界は一人』を観てきました。

ハイバイの作品はいくつか観ましたが、私にとっての岩井さんの作品は、味わうというよりも“オート分析モード”に入ってしまったり、防衛的になったり、立ち向かおうとしたりしてしまうという(笑)、これはひとえに公私にわたる個人的事情によるものなんですが、私にとってあまりのリアリズム演劇なので、楽しむこととの距離があるゆえ、もう観るのはやめようと思っていました。

 

が、今回、プレイハウスという大きな劇場で岩井さんがどんな作品を作るのか、また、タイトルに「世界」と入っていることから、今までの私小説的な作風から何か変化があるのかな、と興味を覚えたことと、キャストが魅力的だったことから、チケットをとりました。

 

今思い返してみると、不思議な余韻のある劇だったなあ、と思います。暗い海の波間や灰色の泥といったイメージの中に、様々なリアルが浮き上がってきて、それらは悲惨ともいえるものなのに、きらめいていたように思えるのはなぜかしら。

 

あと、今回は音楽劇で、そこはちょっと意外な気がしたんですが、前野健太さんの音楽もとてもよく、松尾スズキさんの味わいのある歌声や、松たか子さんや瑛太さんの歌声も綺麗で、「音楽劇」として純粋に楽しめました。

 

以下、ネタバレありの感想です。

 

 

 

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2019年3月10日(日)13時

東京芸術劇場プレイハウス

作・演出 岩井秀人

音楽 前野健太

出演 松尾スズキ 松たか子 瑛太 平田敦子 菅原永二 平原テツ 古川琴音

 

 

 

かつては炭鉱で栄えたけれど、今はさびれて閉塞感漂う、とある北九州の町で育った3人の同級生の人生。

小学校時代に起きた「おねしょ事件」がその後の3人の人生に絡みつつ、

 

お金はあるけれど母親の愛情に恵まれない女の子(松たか子)は絶望の末投身自殺を図り、

子供たちの間のボス的存在だった男の子(瑛太)は「おねしょ事件」の顛末からひきこもりになり、

仲のよい両親のもとで育った男の子(松尾スズキ)は東京に出てそれなりに成功をしたけれど、老いた母親は認知症になり・・・

 

松たか子は一命をとりとめ、東京で松尾スズキと再会し、幼い頃から密かに恋心を抱いていた二人は結婚し、故郷に帰ってくる。

この、二人が再会した場面の曲がとてもよくて、今も歌詞とメロディーが耳に残っています。

 

二人の間には娘(平田敦子)も生まれるけど、松たか子の子育てもどこか歪んでしまう。

そして、瑛太と再会した松尾は優越感から瑛太を家に招待したり、瑛太の方は二人に復讐しようとしていたり。

みんな、幸せになっていない。

 

小学校時代の描写も、子供が親や家庭の経済状況を選べない厳しさや、小学生といえども、支配する者、される者、傍観するしかできない者、プライドや恥や、罪をきせたり、きせられたり、と、人間の弱さや狡さがすでにあって、人間の本質とは、そうしたものかもなあと思わせられました。

その辺はシリアスで鋭い筆致だなあ、と思います。

 

今作品でも、ひきこもりや自助グループ(?)や認知症やアルコール依存や、家族関係のゆがみや、等が出てきて、やはり、岩井さんはその「窓」から世界を眺めているのかなあ、とも。

いや、私がどうしてもそこに目がいってしまうのか。

でも、誰でも、自分というものが形成されてきた中での自分の「窓」があるのかもしれないな、とも思います。

 

今回のタイトルが「世界に一人」ではなく、「世界は一人」なのはなぜかなあ?と思ったんですが、自分なりの理由を見つけることはできませんでした。

でも、登場人物それぞれは、他者と関わりながらも、やはり一人で、でもそれは「孤独」の哀しみを想起させるものではなく、「覚悟」のようなものが胸に浮かんできた気がします。

 

今回の作品では、プレイハウスの舞台上に鉄骨のようなものが組まれていて、それが時々回転して時代の移り変わりを示したり、ドアになったり、高い建物になったりしました。

また、何役も兼ねるキャストもいましたが、今回、私は2階のサイドの席だったんですが、あの劇場の大きさからすると、ちょっと厳しかった気がします。

 

小劇場であれば、役が入れ替わったり、装置を何かに見立てるとういうのも成立しやすいし、事実想像力が刺激されて私はとても好きなんですが、2階から観ていると時制の変化や役の入れ替わりのおもしろさが今ひとつ伝わりづらかった。

 

また、サイドの席だったので演奏場面が見えず、松尾さんが歌っているのか、前野さんが歌っているのかがわからなくてはじめは戸惑いました。

1階の座席で観ていたら、物語に対する印象が違ったのかな、と思いますので、大劇場の舞台を有効に使えていなかった部分はあるかな、と思います。

 

あと、瑛太が、松たか子と松尾スズキの子供に、両親の馴れ初めを語るシーンが繰り返されましたが、あれはどういうこと?瑛太の妄想?

正解を知る必要はないのかもしれないですが、「なんだったのかしら」という疑問が残りました。

それはともかく、俳優さん達それぞれはとても魅力的でしたし、なんだか不思議な劇だったな、と余韻を楽しむことにしようと思います。