さいたま芸術劇場で上演された、シェイクスピア作・吉田鋼太郎演出『ヘンリー五世』を観てきました。

私は2013年に蜷川幸雄さん演出で上演された『ヘンリー四世』を観ていないので、舞台に立つ松坂桃李さんを観るのははじめて。また、鵜山仁さん演出版『ヘンリー五世』も観なかったので、ほとんど知識のないまま観に行きました。

 

芝居によっては、事前の知識があった方が楽しめる場合もありますが、鋼太郎さん演出の場合は、「詳しいこと知らなくても楽しめるよ。楽しもうよ。」と言われている気がして、(勝手にですが)今回も気楽な気持ちで観に行きました。

 

オープニングは、そうくるのか!とちょっと驚きましたが、これは蜷川版『ヘンリー四世』の続きなのだ、ということを明確に表していて、このシェイクスピアシリーズは、鋼太郎さんが蜷川さんの遺志を受け継いでいるものなのだなあ、と改めて感じました。

といって、オマージュはあっても模倣ではなく、大胆さと繊細さ、小劇場を思わせるブっとんだ演出などもあって、鋼太郎さんならではの作品になっていたと思います。

 

そして何より、ヘンリー五世の松坂桃李さんをはじめ、出演者の方々がとても魅力的でしたし、コーラス(説明役)の鋼太郎さんの凛とした佇まいと、観客をぎゅっと惹きつける口上に導かれながら楽しめたひとときでした。

 

以下、ネタバレありの感想ですので、未見の方は自己判断のもと、お読みください!

 

 

 

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2019年2月11日(月)

作・W・シェイクスピア

翻訳・松岡和子

演出・吉田鋼太郎

出演・松坂桃李 吉田鋼太郎 溝端淳平 横田栄司 中河内雅貴 河内大和他

 

 

 

皇太子時代には、フォルスタッフやピストルといった仲間とつるんで放蕩三昧だったハル王子は、ヘンリー四世の死後、ヘンリー五世として即位してからは、立派な一国の王に・・・というところから始まるこのお話、フランスとの戦争でイングランド軍を勝利に導いた若き王の武勇伝、と思いきや、為政者としての迷いや孤独や、王に対する批判を言わせるシーンがあったりと、多彩な描かれ方をしているんですね。

 

今作品では、松坂桃李さん演じるヘンリー五世の、かつての遊び仲間や自分を裏切った者たちに、王としての非情な決断をしなければならない時の胸のうちに隠した戸惑いや悲しみなど、王の繊細な心情が迫ってくるところが印象的でした。

 

一方、その非情な決断の場面では、鋼太郎さんの演出は容赦がなくてシリアス。

今回、この作品では、「戦争というもの」が描かれている、と強く感じました。

戦闘場面も、いわゆる立ち回りを超えた、生存を賭けた戦い、という迫力があって、“遠い国の大昔のお話”にとどまらず、

 

戦いを導く者、戦いに駆り出される者、奪う者、奪われる者、国と国との間で、戦争がどんな風に始まって、何をもたらすのか・・・

「戦争というもの」の普遍的な姿がくっきりと目の前に現れていたように思えて、シェイクスピアを観てそんな風に感じたのは初めてかも。

この点は、演出家の意図を強く感じたところです。

 

そうそう、戦闘場面で、蜷川さんの舞台でよく聞いた、機関銃の音やヘリの音が入っていた気がするんですが、これは蜷川さんへのオマージュだな、と思いましたが、私の空耳でしょうか?

(蜷川さんの遺志を継ぐものとしてこの作品があるとすれば、それはあり、だと私は納得)

 

イングランド軍は快進撃を続けていたものの、やがて病気や飢餓で疲弊していき、そしてイングランド軍の5倍の兵力を有するフランス軍とのアジンコート城での戦いの前に、ヘンリー五世は兵士たちを鼓舞するために演説をするんですが、

鋼太郎さん演出版では、最大の見せ場である「アジンコートの演説」の場面をカットしているとのことで、それが話題になっているようです。

 

脚本を読んでいたら、私も物足りないな、と思ったかもしれませんが、脚本も読まず、ノー勉で行った私は、そこは気にならずに見てしまえました。

なぜそこをカットしたのか、演出家の意図はわからないですが、私自身は、朗々と演説をしなくても、そこに至るまでの苦悩し、恐れ、逡巡しながらも自らを奮い立たせる姿の中に、王としての成長を自然と見ていたような気がします。

 

ただ、戦いの後、フランス王の娘のキャサリンに求婚する場面は、ずいぶん長いなー、と思ってしまいましたし、それまでのヘンリー五世のキャラと違う感じがして、ちょっととまどう感じにもなりました。

でも、あの時代の結婚は政略結婚だった、と常識的に考えてしまうところ、ヘンリーは純粋に恋をした、とするならば、戦争という行為を(それが人類の愚かな所業だとしても)為政者として遂行する一方で、人はまた人を愛することもできるという救いにもなるのかもしれません。

いや、救いというよりは、願い、かな。

そう考えると、あのシーンの祝祭感には、素直に幸せを感じてもいいのかもしれないな、とも思います。

 

そして最後の場面、ヘンリー五世とコーラスが瞳を交わすところは、コーラスの姿に前作で鋼太郎さんが演じたフォルスタッフの姿が自然と思い浮かんで、じ~んとしました。

そこには、若き王への「慈愛」があって、それを現わす演出は、もはや神の視座で、すごく大胆だな、と思いましたし、演出家って、ある意味神なんだな、となぜかそんなことを思ったりもしました(笑)

 

観る人によっては、時に過剰と感じるかもしれない演出もあって、そこは好みが別れるかもしれませんが、小劇場好きな私にはむしろ楽しかった。

 

フランス皇太子を演じた溝端淳平さんと松坂桃李さんが並ぶ姿はとても美しかったし、フランス王役の横田栄司さんの威厳と気品、ピストル役の中河内雅貴さんの身のこなしのかっこよさ、笑いをとりながらもさすがの演技の河内大和さんと、俳優さん達の確かな演技力と魅力が満載で、シリアスさと慈愛のある吉田鋼太郎版『ヘンリー五世』、満喫しました。

 

リラックスしながら観れて、ワクワクする楽しさのある鋼太郎さん演出のシェイクスピアシリーズ、次の作品も楽しみです。