MCR新旧作品集「毒づくも徒然」、ラストに観たのは『あの世界』

こちらは、私の知らない世界、プロレスのお話でした。

といっても、試合前の控室で繰り広げられた会話バトル。

シンクロ少女の3人に、佐藤有里子さんを加えた4人のやりとりは、まさに控室というリング上の戦いで、笑いと、熱量がたっぷりで、そしてどこか哀愁もありました。

 

 

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2018年12月2日(日)16時

作・演出 櫻井智也

出演・泉政宏 横手慎太郎 中田麦平 佐藤有里子

 

 

 

チャンピオンシップが行われようとしている後楽園ホールの控室。

地味な中年プロレスラーの泉(泉政宏)が、メインイベントの舞台に立つことになり、「本気でチャンピオンを倒しにいく」とマスコミに宣言。

それを受けて、かつてコンビを組んでいたけれど、怪我がもとで引退した横手(横手慎太郎)がセコンドにつくことになりましたが、試合直前になって、泉が「この試合はガチではなくプロレスでいく」と言い出します。

 

どうやら、所属団体の社長から、「ブック」でいくように、と言われたようで、契約更新やら、好きな女性ができたことやら、が理由の様子。

そんな泉の腑抜けた態度にいらつき、「ガチでいけ」「本当は強いことを証明しろ!」と迫る横手。

でも、そんな横手は自分の果たせなかった夢を泉に押し付けているとも言えて。

 

「ガチ」とか、「ブック」とか、プロレス用語(?)は知らなくても、なんとなく私なりに勝手に解釈して観ていたんですが、二人のやりとりを聞いていると、プロレス論を聞いているようでもあり、やがて人生の半ばを過ぎた者たちの人生論のようにも思えてきました。

 

意地や、プライドや、友情や、確執や、打算や、いろいろなものが入り混じって醜く言い争う二人に、

泉がお金で歓心を買っている(これがまた哀しい)アニータ(佐藤有里子)が、時々鋭いツッコミをいれる中、そんな二人のやりとりをあきれて見ているプロレス記者の中田(中田麦平)。

 

でも、実は、このプロレス記者は、かつてコンビを組んでいた二人の大ファンだった・・

かつての泉と横手は、すごく地味であまり人気もなかったけれど、矜持をもって「プロレス」をしていた。

「この二人は、本当はすごく強いんだろうな」と思わせてくれた、そんな二人の大ファンだった、とプロレス記者が語るところから、物語は一段と熱さを帯びて、なんとなく私にもかつての二人の姿が見えるような気持になりました。

 

そして、「ガチ」でいくのか、「プロレス」でいくのか、すったもんだのあげく、結局は「~流れで」ということになるんですが、控室を出ていく二人に音楽と歓声がかぶさって、観客の期待の中、リングに向かう泉の背中が見えたような気がして、なんだか泣きたくなりました。

 

自分の人生の中でも、「ガチ」だったり、時に「プロレス」だったり、あるいは「ブック」に従わざるを得なかったり、「流れで」いくこともあるのかも。自分も、時々のリングでいろいろな戦い方をしているのかもね・・なんてね、そんなことを思っちゃいましたよ、櫻井さん!

とげとげしくも可笑しいやりとりの連続なのに、そういうところ、魅力的な脚本だなあ、と思います。

 

シンクロ少女の3人の役どころも、この脚本にとても合っていたと思います。

中年レスラーの悲哀を感じさせながらも、どこかつかみどころのない愛嬌があって、でも、本当は強いのかも?と思わせる泉さん、

終始ハイテンションで突っ走りつつ、複雑な想いがよく伝わってきた横手さん、

冷静なツッコミを入れつつ、プロレスへの熱い想いを秘めているプロレス記者の中田さんもよかった。

そして、「金がすべて」というゆるぎない価値観を体現する佐藤さんのクールさもまたピカイチで。

 

『親展』、『リフラブレイン』、『櫻井さん』、『あの世界』と、

それぞれに個性の強いMCR新旧作品集の4作品を観ることができて、幸せなMCR強化月間でした。