アガリスクエンターテイメント『わが家の最終的解決』再演版 感想 | ぽけっとにチケット~おきらく観劇日記~

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恵比寿・エコー劇場で上演された、冨坂友作・演出・アガリスクエンターテイメント『わが家の最終的解決』を観てきました。

初演は2016年5月で、私は初演版も観ていますが(初演版の感想はここに)、再演とはいっても初演とはかなり変えてきていて、初演版を観た人でもまた新鮮な気持ちで楽しめたのではないかと思います。

そして、始めてこの作品を観た人は、シリアスな設定なのに、こんなに笑えてしまうなんて!と衝撃を受けたのではないでしょうか。

(でもこの設定をエンターテイメントに仕立て上げられるのは、そうそういない)

 

その衝撃はそのままに、初演よりも脚本、演技、演出もブラッシュアップされていて、この2年半の間に劇団員のみなさんが経験されてきたことが活かされていたんだろうな、と嬉しくなりました。

なにより驚いたのは、当日のパンフレットの主宰の文章に、「愛」という文字が躍っていたこと。

アガリスクエンターテイメントが真っ向から愛を語るなんて!

でも、それ、嫌いじゃない(笑)

 

以下、ネタバレありの感想です。

 

 

IMG_3840.jpg

2019年1月27日(日)

恵比寿・エコー劇場

作・演出 冨坂友

出演 斉藤コータ 熊谷有芳 矢吹ジャンプ 藤田慶輔 前田綾香 津和野諒 鹿島ゆきこ 伊藤圭太 高木健 榎並夕起 中田顕史郎 前田友里子 山田健太郎 山岡三四郎 浅越岳人

 

 

 

 

今回の劇場は恵比寿・エコー劇場でしたが、まず、この劇場の雰囲気が作品によく合っていると思いました。そして、美術も、リアルな重厚さがあって、この作品の一面を現わす一方で、コメディとしてのわかりやすさを観客に提供する作りがとてもよく、人物像をより浮き立たせる衣装や、シリアスなシーンとの対比を明確にしていた照明など、すごく攻めているなあ、と思いました。

 

1942年のオランダ・アムステルダムで、ゲシュタポであることをユダヤ人の恋人に隠しながらかくまい、周りには恋人がユダヤ人であることを隠している青年。そこから巻き起こる右往左往、そしてついに何もかもがばれてしまった時、恋人たちの運命は・・・?

 

私が今まで観てきたアガリスクエンターテイメントの作品は、独特のリズムや間合い、笑いをとるためのパーツとしての機能が重視されていた登場人物など、「システムとしてのコメディ」だった気がします。

が、この再演版では、ドラマ性が強くなっていて、かつ、登場人物の肉付けも厚くなり、ドラマとコメディが両立している点で、今までにない印象を受けました。

(本来、コメディとドラマは対立関係にあるものなのか?という疑問はともかく)

 

そして、初演版では、ホロコーストを題材にした作品で、どこまで観客を笑わせることができるか、という実験だったのが、再演版では、ホロコーストを扱うことの覚悟のようなものをもって臨んだようにも見えました。

その分、シリアスな部分が明確になったことで、ユダヤ人を虐殺しながらユダヤ人を恋人にもつ、というところの重さを私は感じてしまったんですが、そういう意味で、この主人公の青年、ハンスは難しい役だと思います。

 

初演では甲田守さんが演じたハンスを、斉藤コータさんが演じる、と知った時、斉藤さんの今までのにぎやかなイメージからはちょっと想像がつかなかったんですが、

ハンスの言う、

「だって、好きだから」

人種や、敵味方や、どんな状況下にあっても関係がない、人が人を好きになるという、

「だって、好きだから」ということのゆるぎなさ、尊さのようなものを斉藤さんの演じるハンスから感じ取ることができて、そこは観客の胸に届いていたのではないかと思います。

 

今回は、「誰もが誰かを愛してる」状態で、その愛のベクトルのややこしさがシチュエーションコメディとしてのおもしろさを増幅させていたし、初演でもハンスの友人だったルドルフを、実は同性愛者でハンスに惚れている、という設定にしたことでおこる笑いと、でも考えてみると・・という、そこからくる複雑さもあり、

また、隣人のヘルマン夫妻のキャラクターを明確にした改変もとても良かったと思います。

 

ハンスの恋人のエヴァと、ハンスに恋をしているリーゼも、初演よりもパワーアップ。

ハンスの上司のゲルトナーの存在感がよりヒヤヒヤ感を助長し、新しく登場した人物のハンスの大家が、事態の解決を導く役割を担うところも、なるほど!と思いました。

そして、ハンスの使用人や、エヴァの元カレも、コメディ要素をしっかりと下支えしていました。

 

エヴァの手記をとりにくる男も、いつもの屁理屈連発の浅越さんとは違う姿が可愛く、こういう役も似合うなあ、と思いました。ただ、初演でのレジスタンスの男という設定をはずしてしまったのは、残念な気がします。エヴァが原稿を書く意味合いという点では残しておいた方が良かったのでは?

 

ハンスがユダヤ人をかくまっていたことが上司にばれてしまった後、周りの協力のもと、二人は何とか逃げおおせるんですが、終幕では、結局、二人は結ばれなかったことがわかります。

このラストは、ちょっと苦みがありますが、やはり、恋人がゲシュタポだった、ということを知ってしまったからには、そうなるだろうなあ、と、この点は私は納得がいく感じです。

 

はじめから矛盾を内包していたり、ある種の危険性をはらんだ設定を、「愛」というキーワードでコメディに昇華するというのをやってのけるのは、さすが、アガリスクエンターテイメントだな、と思いました。少し、「愛」が記号的に扱われている感じはしましたが、心を揺さぶられた、という感想も多かったようなので、観客は、それぞれの受け取り方で受け取っていたのだと思います。

 

2時間40分という長さながら、観客は、笑ったり、ヒヤヒヤしたり、ゾッとしたり、と大忙しで、時間の長さを全く感じさせず、この、ジェットコースターのような観劇体験は、一度体験したら病みつきに(笑)

この再演版を観て、新たにアガリスクエンターテイメントのファンになった方も多いのではないでしょうか。

 

そして、数年前からのアガリスクエンターテイメントファンの私としては、観客を笑いでねじ伏せるためではなく、また、何らかの証明のためではなく、「挑戦」や「実験」を超えた、さらにその先に行ってほしいなあ、と勝手ながら、期待しているのです。

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