パラドックス定数『蛇と天秤』2018年版感想 | ぽけっとにチケット~おきらく観劇日記~

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またしても、観劇してからものすごく日にちが経ってしまいましたが、シアター風姿花伝で上演された、パラドックス定数オーソドックス第4弾、野木萌葱作・演出『蛇と天秤』の感想を書きたいと思います。

 

今回は劇団員の出演はなく、すべてオーディションで選ばれた俳優さん達が演じていて、いつものパラドックス定数よりも軽いテイストの仕上がりに感じられました。笑い声もたくさんあがっていて。

といっても、内容は、現代版731とも言える恐ろしさを含んだもので、とある大学病院で、抗生剤の新薬を投与された患者が立て続けに死亡し、その責任の所在をめぐっての、医師と製薬会社の攻防から、やがて、ある事実が明るみに・・・というお話でしたが、

 

私、野木萌葱さんの描く、一見ドキュメンタリータッチでありながら、実は豊かな妄想に支えられた物語が好き、と何度か書いていますが、今回は、残念ながら、ところどころ、非現実的だなあ、とひっかかってしまい、物語に完全に没頭することができなかった気がします。

 

なので、途中から、これは戯画化したものだ、と自分で変換して観ていたようで、そうやって観てみると、保身やプライドやある種の狂気が見え隠れする彼らの議論もどこか滑稽にも見えてきて、私自身はブラックユーモアとして楽しんだ、ということになるのかもしれません。

 

以下、ネタバレありの感想です。

 

 

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2018年10月14日(土)18時

シアター風姿花伝

作・演出 野木萌葱

出演 横道毅 アフリカン寺越 菊川耕太郎 阿岐之将一 江刺家伸雄 宮崎吐夢

 

 

 

舞台には、真っ白いカーテンと真っ白い椅子が置かれ、まさに「病院」がもつ清潔で冷たいイメージ。

大学病院の准教授の大城(横道毅)が、「現代の結核」というタイトルで開かれる一般向けの公開講座のリハーサルをしている場面から始まりました。

 

そうそう、この作品、いつもの野木萌葱さんの前説がなくて、この准教授がリハーサルをしている台詞の中に携帯電話の注意などが織り込まれていて、あら、そう来たかー、と楽しく思いましたが、ちょっと物足りなくて、私、野木さんの温かくてユーモラスな前説をいつも楽しみにしているんだなあ、と改めて思いました(笑)

 

その部屋に、製薬会社のMRと研究者が入ってきて、大学病院側の助手と新人医師を交えた3人対3人の論戦が始まりました。

 

この製薬会社が開発した新薬の抗生剤を投与された8人の患者が死亡。准教授は、その原因に新薬の副作用があるとする論文を発表。この新薬の開発に中心的に携わった研究者の諸川(江刺家伸雄)は、他の病院では死亡例はない。薬ではなく、医師側に責任があると糾弾。

製薬会社の営業担当MRの月泉(阿岐之将一)は、論文のその部分を削除してほしいと言います。

もう一人の研究者の高遠(宮崎吐夢)は、時に二人をいさめ、落としどころを見つけようとしています。

 

が、准教授は明らかな証拠もないのに病院側の責任を認めることなどありえないと言い、論文の訂正にも応じない。

議論が平行線をたどる中で、大学病院の医師のヒエラルヒーや、営業担当の立場、研究者としてのプライドなどが入り混じる台詞の応酬は観ていてとても面白かった。

 

新人の医師の飛鳥井(菊川耕太郎)は、この患者たちの転帰に不信を抱いており、大城の助手の才原(アフリカン寺越)も実は同様で、上の者を糾弾するなど絶対にできない立場ながら、事実を究明したいという思いに逆らえず、自分の立場を危険にさらしながらもある仮説を検証していきます。

この、自分の立場や保身を越え、事実を追求したいという、医師としての?科学者としての?でしょうか、態度を示していくところは観ていて惹きつけられました。

 

患者たちは、実は結核に感染していたが、風邪と診断され、准教授の指示のもと、新薬の抗生剤を投与されていた。でも、新薬は抗結核薬ではないので当然、効かない。死亡した患者はすべて18歳の子供だった、という台詞には胸が痛くなりました。

 

やがて、准教授と、研究者の高遠が、故意に患者を結核に感染させ、抗生剤を連続投与したうえで結核菌を多剤耐性にし、高遠の開発した抗結核薬を投与していた、ということが明らかになります。(そしてその抗結核薬は効かなかった)

ここで、冒頭の、公開講座のテーマ、「現代の結核」で語られる、結核菌が耐性を帯びるために未だ人類は結核菌に打ち勝てていない、というところにリンクするのですが、

 

死亡した患者たちはむしろ医学の進歩に寄与したのだ、と言う准教授と、多剤耐性を帯びた結核菌に効く薬を自分が開発したいと功を焦る研究者の、患者の死に対してなんらの感情ももたないさま、

上の者の指示のもととはいえ、実際に自分でその薬を患者に投与してしまったことを知った新人医師の後悔と苦悩、

自分の会社の研究者がしでかしたことに対して、金銭で解決を図ろうとするMR、

 

その中で、「医師として間違っている」と憤るMRに対して、研究者の諸川が、「人間の命を、無条件に最上位に置くのは、それ常識じゃなくて人間の都合なんだ」という台詞が印象的で、こういうことを言わせてしまう野木さんの大胆さが好きなのよねえ、と思ったり。

 

准教授の態度には、『731』の中で関村俊介さんが演じた元幹部とだぶるものがありましたし、この後も731を扱った、劇団チョコレートケーキの『遺産』という作品を観ているのですが、非道な行為をしていたことを「知ってしまった」医師が、その後どういう道を選ぶのか、というところに差異があり、今作品の助手と新人医師が選んだ態度の中には、大学病院という組織の中で生きていくからには、というリアルさがあって、その部分はリアルに受け止めていた自分がいた気がします。

 

医師と製薬会社のパワーバランスや、もろもろの展開にひっかかるところがあったり、「戦争という狂気の時代」というエクスキューズの通用しない現代における人体実験まがいの話に少し距離を置きたくなりながら観ていた感じもありますが、

 

新薬や新しい治療法の確立の陰にはたくさんの患者の死があって、私達はその積み重ねの上に利益を享受しているという医療のもつ冷徹な現実にも思いをはせたりもしました。

 

准教授役の横道さんの、堂々たる煮ても焼いても食えないさま、いろいろな思いを抑え込んだ演技がとても良かった助手役のアフリカンさん、新人医師を演じた菊川さんは、その苦悩がとても伝わってきましたし、

研究者、諸川役の江刺家さんの不遜な態度には観ていてちょっとムカついたり(笑)、MR役の阿岐さんは営業マンらしさがあり、そしてもう一人の研究者の高遠役の宮崎さんは、カーテンから顔をだしただけで可笑しみがあって、宮崎さんの不思議な存在感が、この作品全体のムードに影響を与えていた気がします。

今回、オーディションで選ばれた俳優さん達のアンサンブルは、いつものパラドックス定数とは一味違う面白さがあって、新鮮な気持ちで楽しむことができました。

 

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