パラドックス定数『Nf3Nf6』2018年版 感想 | ぽけっとにチケット~おきらく観劇日記~

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シアター風姿花伝で上演された、野木萌葱作・演出・パラドックス定数第42項『Nf3Nf6』を観てきました。シアター風姿花伝プロミシングカンパニー公演の4公演目で、『5seconds』と同じく劇団員の二人芝居。今回は西原誠吾さんと、植村宏司さんが出演されました。

こちらも、いくつかの場面が目に焼き付いて、なかなか寝付けなくなりました。

 

野木さんによれば、パラドックス定数の中では数少ない「赤毛もの」とのこと。

ナチス・ドイツの収容所の一室で、看守である将校と、ユダヤ人の囚人の、複雑で、残酷で、危険で、哀しく美しい物語が繰り広げられました。

そう、そして、とてもエロティックでもありました。

 

以下、ネタバレありの感想です。

 

 

 

IMG_3091.JPG

2018年8月25日(土)18時

シアター風姿花伝

作・演出 野木萌葱

出演 西原誠吾 植村宏司

 

 

 

 

 

劇場に入ると、左側に壁があり、壁の前に机と二脚の椅子。机の上にはチェスが置いてありました。

冒頭、ナチスの将校(西原誠吾)が、目隠しをされた囚人(植村宏司)を伴って入ってきて、暴力と支配と死の気配が漂う中、やがて囚人に向かって、チェスの対局を促しました。

「Nf3Nf6」(ナイトエフスリーナイトエフシックス)というのは、チェスのオープニングの型のことで、劇中、しばしばチェスの対局が行われつつ、二人の関係が明らかになっていきました。

 

二人は、かつては同じ大学で数学を研究していた数学者で、共同論文も執筆していましたが、戦争がはじまり、一人はナチスの将校に、そしてもう一人は連合国側で暗号の解読チームに入り、と敵同士に。

そして、ナチス・ドイツが用いていた暗号機(エニグマのことだと思われ)を開発したのがこの将校で、それを解読したのが囚人。

 

かつて、互いを尊敬しあい、ライバルでもあった二人が、敵同士として、海を隔ててなお競いあっていた・・・

劣勢に立たされているドイツ軍部の中にあって、数学者だからと暗号の解読を要求され、一人、部屋にこもる将校。

 

一方、連合国側で暗号の解読に携わっていた囚人(脚本では数学者とあるので、以降数学者と記します)は、ある時から収容所に収容されており、ある日戯れに殺されそうになっていたところを将校が助けて部屋に連れてきて、暗号の解読を手伝わせるのですが、

数式を壁に書きなぐりながら、二人で暗号を解いていくシーンは、まるで大学の研究室にいるよう。

 

私、大人になってよかったなー、と思うことのひとつに、数学をやらなくていい、というのがあるんですが(笑)、ともかく理数系が苦手で、数学の授業の前の憂鬱な気持ちを今でも思い出します。

逆に、数式に何かを見出していく人達って、すごいと思うし、この劇の中で、

「(数学は)その人が世界をどう見ているのかを、数字と記号を使って語る学問です」と語った数学者の台詞や、

数式を前に、「美しい」「静かだ」等という台詞からは、

私には到底知りえない世界だけれども、きっとそこは美しい世界なのだろうな、と、胸に憧憬の想いが広がりました。

 

けれど、

二人がいるのは研究室ではなく、一歩外に出れば殺戮が繰り返されている世界。

今、人間としての自由も尊厳も奪われているのが数学者で、数学者の生殺与奪の権利を握っているのは将校だという状況は揺るぎようがない。

一方で、この戦争の終焉について、ドイツの、そして将校の運命について、二人ともにわかっていることを、チェスの駒に語らせる二人。

 

そして、実は、数学者は、連合国側を裏切っており、密かに将校に協力していたことが明かされました。さらに、数学者がいた連合国側の暗号チームには、将校の兄がいて、裏切者と疑われていたこと。暗号機を開発したのはあなたの弟だと数学者が告げた後に兄は自殺したこと。

 

収容所では、ユダヤ人を獲物と称してゲームのように殺していて、数学者の前に殺されたのは、数学者の弟だったこと。そのゲームを傍観し、死体を始末したのは将校だったこと。

将校と数学者は、互いの兄弟の死に手をかけてしまっていたこと。

 

数学者が裏切っていたことに脅えもし、兄の祖国への裏切りと死にショックを受け、本当は人を殴れないような自分が一体何人殺してきたのか、これから何人殺すのか、と混乱する将校を、数学者が時に追い詰め、時に感情を吐き出させ、ひとときのまどろみを与えるところは、冒頭の二人の関係が逆転していきましたが、この、関係性の変化が、二人芝居のおもしろさのひとつでもありますね。

 

ひたむきに数学を研究していたはずの二人が、一人はナチス・ドイツの、一人は連合国側の頭脳となり、その頭脳で戦争を裏側から操る存在となっていったこと。

そこには己の頭脳への驕りと、学問への過信もあったのかもしれないけれど、

「数学」はただそこにあるだけなのに、

 

戦争に加担していく学問、

学問を利用する戦争、

それによって生まれるこの二人の、そして人類の悲劇。

それは、決して過去のものではなくて。

 

この作品は、直接的な表現をしていなくても、「反戦もの」だと思いました。

静かに、胸に訴えてくる、「反戦もの」。

 

一方、戦争がはじまる前に、数学者にこの国を出ろと言った将校。

数学者は将校を死なせたくなくて連合国側を裏切り、

将校は数学者をいつでも探せるためにナチス・ドイツの制服をまとった・・。

二人が、暗号文をめぐって互いに競いあっていたことの他に、私には、もっと強い感情があったように思えました。

姿の見えない相手を求め続け、海を越えて暗号文に相手への想いを乗せていたのは、これは、もう、愛ではないかしら?

そう考えると、二人の台詞は時にセクシーで、ロマンティックに響いてきて、私には、愛しあう二人の悲劇の物語とも思えるのでした。

 

将校を演じた西原誠吾さんの、冒頭の威圧感、壁に数式を書きなぐる時のカッコ良さ、数学者への想いを思わず吐露してしまうところ(と私には思えた)、事実が明らかになっていく時の動揺、最後に数学者に人間としての感情をぶつけるところ、その変化と表情がとても印象に残っています。

 

そして、数学者を演じた植村宏司さんの、「人間あつかいしないでください。」と言った時の、絞り出すような声が忘れられない。また、数式に向かっている時、彼の頭の中に美しい風景が広がっているのが私にも見えた気がしました。今回、私は側面の座席に座ったので、最後の方は数学者の表情がよく見えなかったのですが、最後に、将校に向かっていく時の力強さと悲しみが、背中から伝わってきました。

 

できれば、正面の席からもう一度観たかったなあ、と思いますが、もともと会話劇が大好物の私は、今回も、二人芝居の濃厚な会話劇を堪能しました。

息をするのも忘れて観ていた『5seconds』と『Nf3Nf6』は、暑い暑い今年の夏のよき思い出となりました。

劇団員4人の組み合わせをシャッフルしたら、また印象の違った舞台になるんだろうな、と思うと、いつか、観ることができたらいいな、と思います。

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