パラドックス定数『5seconds』2018年版感想 | ぽけっとにチケット~おきらく観劇日記~

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シアター風姿花伝で上演された、野木萌葱作・演出・パラドックス定数第41項『5seconds』を観てきました。シアター風姿花伝プロミシングカンパニー公演の3作目。

今回は、劇団員の小野ゆたかさんと、井内勇希さんの二人芝居で、1999年の初演から数えて4回目の上演だそうです。

1982年におきた日本航空350便羽田沖墜落事故を題材に、事故を起こした機長と、機長に接見する弁護士の緊迫感あふれる会話劇で、もはや格闘技とも言える台詞の応酬に痺れました。

 

乗員乗客合わせて24名の死者を出したあの事故がおきたのはもう36年も前になるんですね。

機長が手動操縦に切り替えてから5秒後に、滑走路の手前で機体は羽田沖に墜落。後の調査で、機長の操縦によるものと判明し、当時、「逆噴射」とか、副操縦士が叫んだ「機長、やめてください!」という言葉が流行語になったり、「心身症」という言葉が新聞やテレビを賑わせていたのを覚えています。

 

事実をもとにした作品を観る時、もし自分が何らかの関係者だったら絶対に観ることはできないだろうな、とか、むしろ憎しみすら覚えるだろうな、と思うことがあって、私達って、ある種残酷な事をしているな・・と思うことがあるんですが、でも、「作品は、あくまでフィクションだから」というところに自分の落としどころを見つけていて、そういう意味では野木さんの作品は徹底してフィクションであるところが私は好きです。

 

観終わってから、この作品は野木さんが21歳の時に書いたものだと知って、

「これを21歳で書けてしまうのか!ちょっと、もう、太刀打ちできないな・・」と、(私が思うのもヘンなんですが)、衝撃に襲われました。

そして、この脚本をきっちりと体現する二人の俳優さんの力量もすごいなあ、と思います。

 

以下、ネタバレありの感想です。

 

 

 

 

IMG_3075.JPG

2018年8月18日(土)18時

シアター風姿花伝

作・演出・野木萌葱

出演・井内勇希 小野ゆたか

 

 

 

 

舞台上には、机をはさんで椅子が二脚。机の上には一台の電話機。

舞台奥にも机と椅子があり、水差しなどが置いてありました。(水差しにちょっと違和感を覚えましたが、後でその訳がわかりました)

 

事故の後、機長(小野ゆたか)が入院している病院に、弁護士(井内勇希)が接見に来ます。

冒頭、少し不安げに上の方を見上げている弁護士。

後から機長が入ってきますが、手には手錠がかけられている。

 

弁護士は、5人いる弁護団のうちの一番下っ端で、まだ新米といった様子。

「墜落までの5秒間に何があったのか?」という弁護士の問いかけに、機長の言葉は現実と幻想を行ったり来たりしていて、その答えは得られません。

また、時に機長はビデオカメラの向こうで見ている上司に頼っているのか、などと弁護士を挑発し、機長に翻弄されて感情的になってしまうところは、弁護士の経験の浅さがよく出ていると思いました。

 

二人の会話は迷走飛行を続けながらも、時折、日本航空という一流企業で機長として空を飛んでいるのだ、というプライドや、

弁護団として何としても無罪を勝ち取らなければならないという使命感など、

それぞれの職業的矜持が垣間見えたりしつつ、

 

一方では、上からの命令のもと、機長から何とか証言を引き出そうとしている弁護士の努力も、上層部から無下に扱われたり、

日本航空側が保身を図っているさまなど、

機長も弁護士も「組織の論理」の前では一個の歯車でしかないという側面も見えたりしました。

 

この物語で面白く感じたのは、機長が、自分が飛行機を墜落させたのだから、「事故の責任をとりたい」と言っているのに、弁護団としては、心神喪失で責任能力はなかったとする刑法39条の適用を目指していて、そのために、診断名が、妄想型分裂病と書き換えられたのではないか、と弁護士自らが疑う場面があったこと。

 

警察と日本航空と弁護団が、事故の適当な置き場所を求めて、どこで手をうつべきか、三つ巴になってもめている、という弁護士の台詞は、とても的を射ている気がしますし、

罪を認め、責任をとる、と言っている機長に対して、「あなたを守るためには責任能力がなかったことにする必要がある」という矛盾。

いったい弁護士は何を守ろうとしているのか、弁護士自身もわからなくなっていたように見えました。

 

が、一方で、機長は、罪を償った後には、再びまた乗務につけると思っていて、その認識に、ああ、やはり、この人は私達とは違う精神世界に住んでいるのだなあ、と、絶望的な気持ちにもなりました。

 

そんな中、機長と弁護士は、4回の接見の中で、ある種の真剣さで向き合っていったともいえて、弁護士が機長にはっきりとした現実(解雇され、もう二度と空を飛べないという)を突き付けた後、

ふいに、機長が話し始めます。

 

あの日のことを話し始めたのだ、と察知した弁護士は、自分も350便に乗り込むと告げ、機長の操縦の記憶をともにたどり始めます。

二人の会話からなるこのフライトの過程が、とてもスピーディでリアルな迫力があり、その時、私自身もその飛行機に乗り込み、墜落前の5秒間を体験するに至りました。

ここは本当にすごかった!

 

あの5秒間、何があったか、何を考えていたのか、ついに、機長の口から語られたそれは、私達にも馴染みのある感情で、向こう岸の世界にいっていると思う人と自分とがクロスする瞬間でもありました。

すべてを話終えたあと、機長は弁護士を拒絶しますが、そう簡単にはいかない関係性がリアルだと思いましたし、最後に機長から拒絶されて一人立つ弁護士は、もう、何を守るべきかを理解しているように見えました。

 

この物語は4場からなっていて、1場ごとの終わりに、機長と弁護士が奥の机に行き、水差しから水を飲んだり、眼鏡を拭いたりしていて、はじめは少し戸惑いましたが、試合中のインターバルのようで、面白かった。また、ずっと緊張が続く芝居なので、私達観客も、ほっと息をつけました。

 

機体が乱高下するがごとく、現実と妄想、プライドと恐れ、希望と絶望、など次から次へと変化する機長を演じきった小野ゆたかさん、素晴らしかったです。

接見の途中で、弁護士がインクブロットを見えて何に見えるかと問う場面があったんですが、機長が、「青空」と言った時の声と表情を忘れることができません。

その時、私にも青空が見えたし、この人は空を飛ぶとき、純粋に幸せだった時があったんだろうな、と確信しました。

 

また、弁護士を演じた井内勇希さんの、機長に翻弄され、上層部からはいいように扱われ、悩み、迷いながらも、弁護士としての使命とプライドを賭けて機長に挑んでいくさまも素晴らしかった。

はじめに部屋に入ってきた時と、最後に部屋を出ていく時、何気ない立ち姿でその間の時間と経験の経過を示すのって難しいと思うんですが、私にはとてもよく伝わってきました。

井内さんは、こういう、イノセントな役がとてもよく似合いますよね。

あと、インターバルで眼鏡を拭いていた姿と、唇にリップクリームを塗っていた姿がなぜか忘れられません・・・

 

パラドックス定数の作品を観た後って、その時の情景が頭から離れなくて、なかなか寝つけなくなっちゃうんですよね(笑)

この作品もそうでしたし、

翌週に観た、劇団員の植村宏司さんと西原誠吾さんの二人芝居『Nf3Nf6』もやはりそうで、また眠れぬ夜を過ごしたのでした。

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