ぽけっとにチケット~おきらく観劇日記~

お芝居大好き。今日もぽけっとにチケットを入れて劇場へ。
小劇場からシェイクスピアまで、観てきたお芝居の感想をつづります。
基本、ネタばれしていますので、未見の方はご注意ください。


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東京芸術劇場シアターイーストで上演中の、松尾スズキ作・演出『業音』を観てきました。2002年に荻野目慶子さん主演で上演された作品の、15年ぶりの再演です。

私は大人計画の、というか松尾スズキさんの作品は劇場ではあまり観たことはないんですが、今回、チャレンジしてみよう!と思って、行ってきました。


劇場に入ると、一面乳白色のセットがどこか神々しい感じもして、冒頭の登場人物達を見たとたん、

「ああ、この人達、狂ってる・・・けど、素敵に狂ってるなあ」と、むしろ心地よくその狂いっぷりに乗れたのが、自分でも意外でした。


ところどころ入る踊り子の動きや登場人物達のダンスもとても良くて、ステージングが洗練されていて美しい、と感じました。

出てくる人物達はみんないびつだし、悲惨な出来事や不幸だらけなのに、悲劇も不幸も、私の上をサラサラと流れていった感じがして、むしろ優しいなにかに包まれたような気がするのはなぜかしら。


そして、いろいろと振り切れているところがなんかもう見事だなあ、と思ったし、俳優さん達の、出し惜しみをしない激しい演技のエネルギーも十分楽しむことができました。


以下、ネタバレありの感想ですので、未見の方は自己判断のもと、お読みください!





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2017年8月10日(木)19時

東京芸術劇場シアターイースト

作・演出 松尾スズキ

出演 松尾スズキ 平岩紙 池津祥子 伊勢志摩 宍戸美和公 宮崎吐夢 皆川猿時 村杉蝉之介 エリザベス・マリー






元アイドルで今は落ちぶれている歌手の土屋みどり(平岩紙)は、母親の介護をネタにした演歌歌手になって再起をはかろうとしていますが、借金を返すためにマネージャーの末井明(皆川猿時)を乗せて車を運転していた時に、杏子(伊勢志摩)という女性をはねてしまいます。杏子は、脳を損傷し、植物状態に・・・


冒頭、杏子が、頭から血を流してボンネットの上に仰向けになりながら、

「さっき、神はいる、ということを簡単に説明できるとひらめいた。」と言います。

(それは私もぜひ聞いてみたい)

それを夫に説明しようとしていた時に事故にあってしまったので、結局杏子の口からその説明は聞けなかったんですが、「神はいるのか」という問いが、この作品の中にずっと流れていたと思います。


杏子の夫の堂本こういち(松尾スズキ)は、みどりに責任をとるように迫ります。そして、みどりをこういちの自宅に拉致し、罪を償うためとして、強制的にみどりと結婚します。


みどりが事故を起こしたのは、運転中に携帯でメールをしていたからなんですが、その相手は、宇都宮からスターになることを夢見て上京したもののうまくいかず、今や売春をして生きている兄妹の克夫(宮崎吐夢)とぽんた(池津祥子)で、みどりと出会った二人は、みどりが売れることで自分たちの夢を叶えようと、みどりにお金を貸していました。


こういちは、自殺癖のある男で、ある時、杏子がこういちの自殺を止めたのがきっかけで二人は結婚し、杏子は、財前という老婆(宍戸美和公)と、丈太郎というゲイの男(村杉蝉之介)を雇って、こういちが自殺しないように見張らせていました。


やがて、みどりは子供を産み、(みどりはマネージャーの末井とも関係をもっていたので、正確にはどちらの子かわからないんですが)、こういちとみどりはつかの間の幸福に浸ります。


ところが、そこに、病院で植物状態になっているはずの杏子が帰ってきます。

杏子は、みどりに、責任をとって、自分が事故の前にひらめいた、「神はいる、という説明をしろ」と言い残し、病院に帰ります。

が、実は、この杏子は、本物の杏子ではなく、財前が頼んだ杏子のふりをしている末井でした。

このへんは、ややこしいんですが、財前と丈太郎がそれぞれの思惑で暗躍することで、事態がよけい複雑になっていました。


事故の前、杏子は、肉体関係による愛情には興味はないと言い、「肉体ではなく、私の情報を愛せ」とこういちに命じていて、こういちは杏子に支配されていたとも言えるけど、いったん杏子から解放された時は、みどりを支配する側に回り、でも子供が生まれるとそれはそれで幸福になり、でも、杏子が戻ってくると、「もう終わりだ」とみどりに言う。

ずるくて、弱い。けど、松尾さんが演じると、どこか憎めない。


支配的な杏子を演じた伊勢志摩さん、とてもカッコいい、と思っちゃいました。同時に、すごく母性も感じさせて、そういえば、松尾さんの描く女性って、母性を感じることが多い気がします。


それにしても、このみどりという女、実は母親は死んでいるのにそれがばれると介護ネタでデビューできなくなるためにそれを隠していたり、借金はするは、体は売るは、男との関係にもゆるくて、とてもだらしない女なんですが、でも、実際に母親の介護をするためにアイドルを続けられなくなったという事情はあるし、赤ちゃんを抱いている姿はとても幸せそうで、演じる平岩紙さんの透明感もあって、どこか聖女のようでもありました。

(平岩紙さん、本当に魅力的でした。将来は、白石加代子さんのようになるんじゃないかなあ)


みどりはこういちと別れることを決心し、最後に15分間でいいから「デート」をしてくれ、と切望します。その姿はとても健気で、その女心を愚かだと嗤う気にはなれませんでした。


そして、みどりが病院に行って杏子を見つけると、意識を取り戻していた本物の杏子は、なんと、便器になっていました。

四肢麻痺になり、体が動かないことで肉体の制約を超えた自分は、食物連鎖の頂点に立つために、便器になった、と言う杏子。

この飛躍!もう、よくわからない!!(笑)

でも、その“解放”と“決意”には、「ともかく、あっぱれ!」という気持ちになりました。


「神はいる」を説明できないみどりに、杏子は「お前の一番大切なものを奪う」と言って、みどりの産んだ子供を殺してしまいます。


茫然自失となったみどりがこういちのもとに戻ると、こういちはバスタブの中で手首を切っていました。

子供が死んでも、こういちが手首から血を流していても、「15分のデート」に固執するみどりは、バスタブの中に入ってこういちとの時間を過ごそうとします。

そして、みどりは、杏子から聞いた、「神はいる」という真理を言葉で説明することができないけれど、それを聞いた自分の肉体の中からなら、伝えることができるかもしれない、と言い、自分の肛門から、それを聞いてほしい、と言います。


バスタブの中のこういちに肛門を見せるみどり。

すると、肛門からは音楽が流れ・・・

こうして書いてみるとどう理解すればよいのやら、という感じですが(笑)、このシーンはとてもドラマチックに感じました。

みどりの体の中から聞こえた音は、人間のどうしようもない哀しさを含んだ業音という不協和音だったのでしょうか。

でも、もしかしたら、それは賛美歌のような音色だったのではないか、という気にもなりました。


母親が死んでいるのに介護していることにして金をもうけようとしたり、

子供のことよりも自分のことを優先したり、

アイドルを夢見て上京した若者をだましたり、

エイズにかかっているのに売春を続けて、いっそ多くの人に感染させようとしたり、

老婆の財前はついに認知症が悪化してしまったり、

と、人間のひどさや不幸がてんこ盛り、な展開でしたが、


でも、私は、それらって、人が人である以上、そういう面もあるわけで、しょうがないよね、だって、「にんげんだもの」という気持ちになっていて、それは、このお話しが、人の弱さや必死さを責め立ててはいないと感じたからかも。

結局、どうしたって、肉体存在である人間は、それゆえの過ちをくり返したりするわけで、だからこそ、四肢の呪縛を越えた存在になった杏子に、突き抜けたものを感じたのかもしれません。


あと、振り切っているなあ、と思ったのは、ゲイの丈太郎が、この世にゲイを増やすために、自分のコピーを作っていくところ。まずは宇都宮から来た克夫を、デビューさせてやると騙して、自分そっくりにしていく。

これ、ゲイの人権うんぬん・・・という運動をするのではなくて、コピーを作ってしまう、というところの発想が振り切れているし、ちょっと、ネットの拡散を連想したりもしました。


でもまた、一方では、私自身、人間が巻き起こす悲劇に、鈍感になっているのかなあ、という気もします。初演では、9.11の映像が流れたそうですが、松尾さんはどんな意図でそれを流したのでしょう。そこに究極の人間の業を見たのでしょうか。

今回は、その映像はありませんでしたが、悲劇に鈍感になっている私達は、実はそれ自体が悲劇であって、それゆえある日ものすごい悲劇に見舞われることもあるんではないか、という予感もどこかにあったりします。


「神はいる」のか。

演劇作品にも、いろいろな形で「神」は出てくるし、人によってその答えは違ってくると思いますが、このどうしようもない「業」を有する存在である私達が、それらを越えた存在を希求する、その渇望に思いをはせたりしたのでした。

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