サンモールスタジオで上演された、アガリスクエンターテイメント第22回公演を観てきました。

今回は、2015年のコメディフェスティバルのグランプリ受賞作『七人の語らい/ワイフ・ゴーズ・オン』の再演と、新作の二人芝居『笑いの太字』の二本立て。


「愛が痛むところまで愛しなさい。」と言ったのはマザー・テレサだけど、コメディを愛しすぎた彼らはその痛みから(?)ついに「コメディそのものを斬るコメディ」を作ってしまったもよう。

でもそれは、衝撃的で、挑発的で、エキサイティングなものでした!

なんといっても、際どいところを攻めながらの屁理屈満載のやりとりなのに、観客を爆笑に導くのが、アガリスクエンターテイメントのすごいところだと思います。


以下、ネタバレありの感想ですので、未見の方はご注意ください!




『七人の語らい(ワイフ・ゴーズ・オン)』



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2016年8月31日(水)、9月3日(土)、9月4日(日)

サンモールスタジオ

脚本・演出 冨坂友

出演 矢吹ジャンプ 斉藤コータ 鹿島ゆきこ 沈ゆうこ 津和野諒 塩原俊之 淺越岳人


今回、二人芝居の『笑いの太字』が4チームあり、私は全部観たため、『七人の語らい(ワイフ・ゴーズ・オン』)も、4回観ることになりました。


ロンドン在住のデイヴィッド・スミス(矢吹ジャンプ)には、二人の妻があり、双方の家庭を行き来する二重生活を送っていたが、ある日、二人の妻がはち合わせ。はたしてばれずにいられるか・・・というシチュエーションコメディ『ワイフ・ゴーズ・オン』を演じる七人の男女。

が、俳優達がそれぞれ演出に疑問を呈し、「これってあり得ない」「こうするべき」と勝手な主張をするものだから、どんどん形が変わっていってしまい、もはや芝居はめちゃくちゃに・・・


2015年に開催された黄金のコメディフェスティバルでこの作品を観た時、すごくおもしろい!と思って、グランプリを獲った時は私も嬉しかった!

初演時の感想はここに


今回の再演版の初日を観て、やっぱり、そのおもしろさは鉄板!と思いました。

が、初演版が、コメディフェスティバルという場でコメディの欺瞞を糾弾し、ついには解体してしまう話をやるという暴挙に出て、かつ、それが観客にうけてしまう、という衝撃があったのに比べると、今回は、ちょっとパンチに欠けるかなあ、という気もしたんですが、


3日後に2回目を観に行くと、ずいぶんパワーアップしていて、テンポもよくなり、笑いもたくさんとれていました。

そして、「コメディなんだから、ともかくおもしろくなくてはダメ。ギャグでもなんでもいいからうけることが大事!」という思想を持つジョン(斉藤コータ)という人登場人物が、途中からおかしな動作をし続けるんですが、

これがコメディフェスティバルの時よりもさらにしつこくなっていて、

「シチュエーションコメディは単なるギャグで笑わせるものではない」とのセオリーを破壊しているのに客席の爆笑を呼んでいる。


このジョン、もはややり過ぎといってもよく、共演者も笑ってしまうし、この劇自体を破壊する勢いに、

「舞台荒らし??(白目)」と思って、

2回目、3回目を観た時は、なんか、ムカついて、劇を破壊しようとするジョンと心の中で戦っていました。


そして他の方の感想を読んだりして思ったのは、初演版では、シチュエーションコメディを破壊していく彼らを笑うことで、共犯関係になってはいたけど、あくまでも舞台上の彼らを客観的に観ていたのに対し、

今回は、私も巻き込まれていたのだな、と。


千秋楽では、さらに暴挙に出たジョンに対して、必死で笑いをこらえている共演者を見て、もともと私は俳優が舞台上で素で笑うのは好きじゃないのに、

「みんな、がんばれ!」と心の中で声援を送ったりしてました。


あの時は、舞台上の登場人物と観客とが、シチュエーションコメディを破壊する者と守ろうとする者との戦い、というシチュエーションコメディの枠組みに入っちゃっていたのかなあ、なんて思うと、彼らにしてやられた感じもして、ちょっと口惜しい(笑)


でもこれは一歩間違えば悲惨なことになる危険球で、スレスレのところで成立させているのはジョンを演じた斉藤コータさんのセンスなのだろうな、と思います。

いずれにしてもとてもおもしろい体験だったんですが、この『七人の語らい(ワイフ・ゴーズ・オン)』を観た後では、自然と、コメディに対する構造的理解や、批判的視点ができちゃったみたいで、これからコメディを観る時に、ハードルが高くなりそう。

「何も知らなかったあの頃の私に戻してほしい」と言いたい気持ちも、ちょっぴりあります(笑)




『笑いの太字』



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脚本・演出 冨坂友

出演 

Aチーム 学生・熊谷有芳 教員・前田友里子

Bチーム 学生・甲田守  教員・津和野諒

Cチーム 学生・淺越岳人 教員・塩原俊之

Dチーム 学生・沈ゆうこ 教員・鹿島ゆきこ


(あらすじ)

大学の演劇学科の創作コース。

とある学生により卒業制作として提出された戯曲は、某有名傑作二人芝居の丸パクリだった・・!

盗作を指摘し、認めない指導教官。屁理屈で反論し、認めさせたい学生。

両者の闘いは、次第に“問題の二人芝居”さながらの展開を見せ始める・・!!



初日にこの作品を観た時の衝撃と興奮は、これからも忘れられないと思います。観終わった後は、

「ヤバい・・ヤバすぎる・・・」という言葉しか浮かばなくて、心の中でうわごとのようにくり返していました。


45分間、ハイスピードの丁々発止の会話劇。

劇中、三谷幸喜の名前が何度も宙を飛び、

「えええ~、そこまで言うか?!」と驚きつつも爆笑し、

「さすがにそれは・・でも確かに一理ある、よし、もっと言っちゃって!!」と、観ている私もエキサイト。

話の展開も、だんだん『笑いの大学』に寄っていって、『笑いの大学』を観ていなくても楽しめますが、観ているとより楽しめる作品でした。


題名を変えただけなのに、オリジナルだと言い張る学生と、それは認められない教員とのバトルの中で、

オリジナリティとは?

パクリとオマージュの違いとは?

新しい価値とは?アートとは?

などの言葉が飛び交います。


そして、なぜ、頑なにこれをオリジナルと言って提出しようとするのか、と問われた学生の答えは、戯曲や上演許可に対する三谷幸喜の姿勢にありました。


この『笑いの太字』は、アガリスクエンターテイメントの劇団員全員で、エチュードをくり返すなどして創りあげたもののようで、もともと三谷幸喜に憧れてこの劇団を立ち上げた彼らの、名作を生で観る機会を奪われていることの悔しさとともに、三谷氏への尊敬と愛憎(?)も相まって、


演劇作品は、誰のものなのか?

演劇作品が継承されるということはどういうことか?

などの問題提起と、

「演劇は、上演されてこそ価値がある」という彼らの主張が込められていたように思います。


私は4チーム全部を観たので、それぞれの俳優さんの個性と魅力を満喫し、同じ脚本でもこんなに違うものができるんだ!と、その違いを楽しめました。

でも、こんなに固有名詞を連呼しちゃって、バレたら怒られちゃうんではないでしょうか??もしかしたら、二度と上演できないかも?

そういう意味では、すごくレアな観劇体験かもしれないですね。


9月9日(金)~9月11日(日)まで、in→dependent theatre 1stという劇場で、

アガリスクエンターテイメント初の大阪公演があるので、関西方面にお住まいの方は、行ってみたらいかがでしょうか!


それにしても、彼らのコメディ理論と技術をもってすれば、万人うけするコメディを創れそうな気がしますが、これからもニッチな題材を選んだり、観客に負荷をかけるような試みをするような気がします。

そういう意味では、観客を選んでしまう部分もあると思うけど、現状に甘んじることなく、破壊と創造をくり返していくのかなあ、と。

でも、やっぱり、コメディへの愛情と信頼は、他にひけをとらないと思うし、


なんて、




「めんどくさい劇団」!(笑)




そんな彼らが、来年3月には、ついに、演劇の聖地下北沢の、駅前劇場に進出する、とのことなので、これからも楽しみに追いかけていきたいと思います!