武満徹さんの初録音の管弦楽曲《For Lenny’s Birthday》、登場です! | cookieの雑記帳

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先日のブログでも取り上げましたが、今年はレナード・バーンスタインの生誕100年のメモリアルイヤーです。
指揮者としての活動の方がクローズアップされがちですが、作曲家としても多くの素晴らしい作品を残しています。
かつてはマーラーのように、指揮者で作曲家という音楽家は珍しくなかったのでしょうが、20世紀後半以降で両方とも成功した例はほとんど無く、バーンスタインは稀有な例と言えるでしょう。
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このタイミングに合わせてリリースされたのが、バーンスタインの教え子である女性指揮者オールソップによるバーンスタイン作品集です。
もともと作曲家本人が自作の録音に積極的だったため、本人指揮による決定盤のような作品選集がSonyとGrammophonからリリースされており、他の指揮者による単品のディスクはあっても、なかなかまとまった録音はありませんでした。
この作品集はCD8枚とDVD1枚の9枚組で、3曲の交響曲を中心にシアターピースの『ミサ』や、バレエ・ミュージカルからの演奏会用組曲など、これまでのNAXOSへの録音が収められていますが、今回新たにCD2枚分の録音が追加されました。
初録音となるピアノ曲からの編曲作品『Anniversary for Orchestra』や『CBS Music』と併せて、なんとバーンスタイン70歳のお祝いに8人の作曲家が合作した『A Bernstein Birthday Bouquet』も初収録されました。この中に武満徹さんの作品『For Lenny’s Birthday』が含まれているのです。
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私がこの曲を初めて聴いたのは、80年代の終わりか90年代はじめにFM YOKOHAMAで日曜早朝にon airされていたクラシック音楽のライブ番組で、ジョン・ウィリアム指揮ボストン・ポップス管弦楽曲の演奏会でした。まさかボストン・ポップスの演奏会で武満さんを取り上げるとは思わないので不意打ちを食らった感じでした。
第一印象は、この曲、何だろう? でした。それまで音源化された武満作品は聴き漁ってきたので、知らない管弦楽曲が流れたのに驚きました。幸いにもたまたまエアチェックしていたので音が手元に残ることとなりました。後期の武満トーン全開の繊細な響きの約90秒の作品。
もちろんこの時は詳しいことはわからず、一緒に演奏されたウィリアムス自作の『To Lenny! To Lenny!』ともども、70歳の誕生日のお祝いで演奏された曲ということは英語の曲紹介でわかりましたが、それ以上の解説もなく、当時はインターネットもない時代でしたので、作品表に載っていない未出版のこの曲に関する情報は皆無でした。

その後インターネットが普及してから、武満徹さんのファンサイトに質問を投げかけたりしましたが、結局は詳細不明でした。
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そしてわからないまま何年も経ち、武満さんが亡くなられるという衝撃があり、その後小学館から『武満徹全集』の出版がアナウンスされました。パンフレットに掲載されている作品名にもこの曲は見当たらず、待っていた「第1巻 管弦楽曲」が届いてすかさずチェックしましたが、やはり収録されていなかったので、編集部宛に質問メールを送ったところ、現在調査中とのこと。エアチェック音源を送り、何度かのやりとりの後、権利関係がクリアできれば、第5巻に収録予定とのお返事。
どうなるのかと楽しみに待っていましたが、かなり遅れて刊行された第5巻にも結局音源収録はなりませんでした。解説にも初演時の録音はあったが著作権の関係で収録できなかったと但し書きが付いていました。新発見のピアノ曲などは新たに録音されましたが、やはりオーケストラ曲はお金がかかるので難しかったのでしょうか。
書籍の方には曲の概要と初演当時の模様について美山良夫さんがN響の「フィルハーモニー」に寄稿した文章が収録されました。
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バーンスタインと武満さんの出会いは小澤征爾さんの仲介のよるもので、60年代中頃のことと思いますが、当時邦楽器の作品などを書き始めていた武満さんのことをバーンスタインに話したところ興味を示し、当時音楽監督を務めていたニューヨークフィルの創設125周年の委嘱作品にと白羽の矢を立てました。その期待に応えたのが琵琶と尺八をフィーチャーした『November Steps』になります。この曲の成功で一躍世界的にその名を知らしめた武満さんの活躍は皆のよく知るところです。ニューヨークフィルは創設150周年の時も武満さんに新曲を委嘱し、『系図 Family Tree』が生まれました。
今回のプロジェクトに武満さんが選ばれたのも、作曲家仲間として深い絆があったのだと思います。
というわけで、70歳のお祝いのライブのために、ミュージカル『On the Town』の中の「New York, New York」に基づく変奏曲という注文に、8人の作曲家がそれぞれ持ち味を発揮して仕上げてきた作品を纏めたのが件の『A Bernstein Birthday Bouquet』です。初演は小澤征爾指揮のボストン交響楽団。多くの作曲家がお祭りっぽい感覚でアプローチしている中で、武満さんの音楽はちょっと異質でした。当時のニューヨークタイムズ紙で「静謐で印象派的」と評され、決して通俗的にならず、とても上質な肌触り。エンディング付近でWest Side Storyの「Maria」の旋律が残像のように響くのも、ニヤリとさせられます。わずか17小節の小さな宝石といった感じです。きっと武満さん、楽しんで書いたんだろうな、と想像しています。

音源収録がなかった代わりなのか、解説本には自筆譜の1ページ目が掲載され、いちおう全集の面目は保った感じでした。
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およそ30年待って、ようやく正式に音源がリリースされたのは、とても喜ばしいことです。長年の懸案事項がこれで1つ解決しました。

興味を持たれた方は、是非聴いてみて下さい!