当直明けの10/18水曜日は代休のため、いくつかの展覧会を観てきました。
雨つづきでしたが久々の晴天で、お出かけ日和でした。
で、訪れたのは世田谷文学館で開催中の『澁澤龍彦 ドラコニアの地平』展です。没後30年の関連イベントの掉尾を飾る大きな展覧会です。平日の午前中でしたのでほとんど人はおらず、ゆったりと鑑賞できました。
ドラコニアとは、ご自身の名前である「龍」=「ドラゴン」に掛けた、澁澤龍彦的世界あるいは宇宙といったイメージでしょうか。自著『ドラコニア綺譚集』によれば、龍彦の領土。小さな書斎のようなもの、とのこと。ただし、小さいけれど伸縮自在と書かれています。
そんな澁澤さんの書斎が引っ越してきたような展覧会です。龍子さんが、「ほとんどうちから持ってったものなのよ」とおっしゃっていましたが、まさにそんな感じです。
文学館での開催とあって、展示のメインは自筆原稿、蔵書などです。
全体の章立ては、
Prologue: 球体、円環への志向
Chapter 1: 精神のスタイル
Chapter 2: 創作のスタイル
Chapter 3: 生きることのスタイル
Chapter 4: 高丘親王航海記
となっています。
澁澤さんは球体が大好きで、その象徴は地球儀。毎日くるくる回していたとのこと。そして、円環構造をもつ作品が、最晩年に完成させた『高丘親王航海記』です。
ラストの部分の自筆原稿が展示されています。
澁澤さんは海外の書物など読み込み、そんな中から自身のスタイルを作っていきました。とりわけ文学や絵画などに関しての造詣は深く、はじめは近現代の作家や画家が中心でしたが、その後題材は広がっていきました。澁澤さんの創作は大きく分けて、「エッセイ」「小説」「翻訳」の三本柱です。
翻訳とエッセイの両輪で執筆活動をしていた澁澤さんは、エッセイの延長のようなフィクションにはじまり、やがて『高丘親王航海記』に辿りつきました。
龍子さんによると、澁澤さんはスランプが無かったそうで、いつも書きたいものがあって、あいだに翻訳を挟むことによって気分転換もできていたそうです。
『澁澤龍彦全集』と『澁澤龍彦翻訳全集』のヴォリュームが拮抗していることからも、なるほど納得がいきました。
澁澤さんは書斎の人のイメージがあるのですが、かなり旅にも出ていたようです。しかし以前のブログにも書いたように、1人では出かけられない人だったそうで、いつも誰かが一緒でないとダメだったと。
特に70年代以降は旅のことや自分の回想などを綴ったエッセイなども増えていき、読書も広がったとのことです。
そしてこういった様々な執筆活動が、晩年に『高丘親王航海記』として結実します。
病に倒れたあとも力を振り絞って書き続け連載を完結させました。
単行本のための決定稿を仕上げたのは病室で、亡くなる約1ヶ月前でした。
この作品で幕を閉じる展覧会は、また振り出しの終結部の自筆原稿へと繋がり、展覧会そのものも円環構造になっているという、なかなか凝った構成になっています。
澁澤ワールドにどっぷり浸かれる展覧会でした。
『高丘親王航海記』も文庫が新装版になって再発されています。
12月17日まで開催されていますので、少しでも興味のある方にはオススメです。