■利休七則その5 | 小早川護 公式ブログ(更新休止中)

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今回は、思った以上に皆さんから反響を頂いている利休七則シリーズの第5回です。


第1回「茶は服の良きように点て」

第2回「炭は湯の沸くように置き」

第3回「花は野にあるように」

第4回「夏は涼しく冬暖かに」


と来まして、第5回目の今回は…


「降らずとも雨の用意」


をお送りします。




「降らずとも雨の用意」

言葉通り捉えると、極めて単純。

傘を用意しておけって話です。


でも、それだけで済んでも良いのでしょうか…?

降るであろう雨は、本当の雨だけなのでしょうか?

「雨」と言う言葉は、「解決すべき課題」を意味する、と捉えても良いのかもしれません。


置き換えてこの一句を読み直してみると

「たとえ発生しなくても課題に対処する用意をせよ」

と言う事になりますね。




では、どういう事が課題と考えられるでしょうか。


たとえば、実際に雨が降る、これは重要な課題です。

百貨店の場合、雨の日はビニール袋を紙袋にかぶせてくれますよね。

あれは正に「降らずとも雨の用意」を地でいっている、といえます。


お客さんが怪我をする、と言うのはどうでしょう。

もしくは、怪我をしたお客さんが助けを求めてやってくる。

そんなとき、簡単なものでも良いので、救急セットぐらいあっても良いのではないでしょうか。

できれば、スタッフ全員が消防署や赤十字の簡単な「救急講習」ぐらい受けていても良いかもしれません。

最近ではAEDの講習なんかが、結構あっちこっちで見かけられますよね。


お客さんが想像も付かないような要望をしてくる場合もあります。

その時は、こんどはスタッフ側の対応能力が問われてきます。

スタッフの対応能力もまた、「雨の用意」と考えても良いでしょう。

対応能力が高いと言うことは、つまり様々な知識を身に付けており、

どのような状況であってもすぐに知恵を働かせる事が出来る、と言う事を意味します。


子供さんが迷子になっているケースもあります。

そんなとき役に立つのが、マニュアルですね。

迷子になった子供さんを保護したとき、どのような対処をすべきなのか。

そういう事について、商業施設内ならばちゃんとその施設のマニュアルを読んでおく必要があります。


万引きが発生したときの対処方法もそうです。

スタッフが女性ばっかりで、大柄な男性が万引きをし、それを発見したとき。

どのように対処するのかを、特に路面店舗の場合はしっかり検討しておく必要があります。

商業施設によっては、放置しておきなさい、逮捕や通報をしてはいけません、

なんてふざけた事を言うところもあるようです。

そういった商業施設は、生きる資格ありませんよね。


突然のめまいに襲われ、倒れてしまうお客さんもいることでしょう。

そういった場合、当然の如く119番をするべきですが、

怪我の場合と同じで症状によってはすぐに応急処置を施すべきですね。

そのためにも、本当に応急処置ぐらいは学んでおいた方が良いと思います。




過去、非常に腹立たしいことがありました。

私が飛び込み営業をしていた頃の話なのですが、ある日いつも通り飛び込み営業のために

街を歩いていると、突如10m先を歩いていたサラリーマン風の中年男性が

口から泡を吹いて倒れ、全身を痙攣させはじめました。


応急処置の知識があった私は、とりあえずすぐに持っていた鞄を頭の下にひき、

頭をアスファルトに打ち付けない処置をしました。

見たところ、てんかん発作の症状だと判断できたので、

全身痙攣のはずみで舌を噛まないように、自分のベルトを外し、

二重に折りたたんで口にかませました。


舌根が落ち込んだときの窒息予防のために、

周りを歩いていた人に傘を借り、首の下に敷き、気道を確保しました。


周囲の方に携帯で119番通報をしてもらい、

救急車が到着するまでその方の介護にあたりました。

「大丈夫ですよ、今救急車を呼びましたから。聞こえていたら、私の手を握って下さい!」

と耳元で声をかけ、痙攣する中でも僅かながら自分の手が握られた事を覚えています。

つまり、本人は意識があったんですね。


「一緒に呼吸しましょう。大きく吸ってください、はい、吐いて~」

と言い、救急車が到着するまでずっと一緒に呼吸をしていました。

そのおかげか、1分少々したころには随分と落ち着きが見え始めていました。

とは言え、口からはまだ泡が出続けています。


5~6分もしたころ、救急車がようやく到着しました。

何時何分に倒れ、どのような処置をしたのかを全て救急隊員に報告し、

救急車で搬送されていった姿を見て、ホッと一息。


その時です。

その場にやってきていた警官が、私に声を掛けてきました。

「いや、ありがとう。すごい対応能力やね!俺ら赤十字の講習受けた事はあるけど、何の役にも立たんな~」


この一言に、非常に強い怒りを感じました。

何のための警官なのか。

街の安全を守っていれば、それで良いのか、と。


知識を勉強していても、それを使う事が出来ないのであれば、何も勉強していないのと一緒です。

もしあの時、私がそういった最低限の知識を持っていなければ、

あの男性はどうなっていたのでしょうか?




降らずとも雨の用意、とは正にこういう事です。

万一のために自らの知識を研鑚し、万一が発生したとき、

すぐに対処出来るような心構えを常に持ち続ける。

心構えを持つだけでなく、すぐに対処できるよう、その場で何を使えば良いのかを判断出来るようにしておく。

これこそが、正に「降らずとも雨の用意」です。


漫画「へうげもの」に面白い一節があります。

千利休が徳川家康を茶室に招いたときの話です。

茶室には躙口(にじりぐち、60cm四方ぐらいの非常に小さな入口)があり、そこから入るわけですが

家康は慣れていないために頭を扉の上で打ち付けてしまいました。

その刹那、利休は茶巾(ちゃきん、茶碗を清めるために湿らせてある布)を家康にさしだし、

「これで頭を冷やして下さい」

と言います。


茶巾は通常、茶碗を清めるための布なのですが、

利休の機転で瞬時に茶巾は頭を冷やし痛みを抑える道具に変わりました。

その場にあるものでいかに対処するか、

つまり「降らずとも雨の用意」を上手に表現した1シーンです。




その場にあるものを有効に使い、発生した事象に柔軟に対応していく。

その場にある物で対処できないと予測される場合、対処するための用具を備えておく。

そして、いざ発生したときのために、ちゃんとそれら用具の使い方などの知識を身に付け、

常にそれが発動できるような心構えをしておく。


事故や急患だけでなく、お客さんからの様々な要望にしっかりと対処するためには

それだけ膨大な知識と知恵が必要になります。

そしてそれが、もてなしの一部を形成する力になるのです。




以前の更新でも書いておりますが、

ホスピタリティともてなしには明確な違いがあります。

飲食、販売、サービス業におけるホスピタリティとは、学が無くても出来る、

つまり社会の底辺にいる人々の仕事。

もてなしとは、知識をふんだんに蓄え、高い志と対応能力が無くては出来ない仕事。


海外のサービスと日本のサービスの差は、ここにあります。

確かにアパレルにしろ飲食にしろサービスにしろ、ほとんど誰でも働く事ができます。


ですが、そもそも「もてなし」の体系たる「茶道」は、

社会的ステータスや知識、教養面でもトップクラスの人々が生み出した文化。

つまり、本当の意味で「もてなし=接客」を成立させるには、

それだけ膨大な知識や高い教養が必要なのです。

そして、日本国民は無意識にそれを接客者に求めています。


社会的ステータスは、今の世の中あまり関係ありません。

必要なのは知識と教養。

これは何歳になっても、学歴がどうであっても、その気になればいつでも身に付ける事が出来るもの。


常に学ぶ事を忘れず、「降らずとも雨の用意」を怠らない環境を作って下さい。