先日よりスタートした、利休七則に学ぶ接客シリーズ、第2回です。
今日のテーマは、「炭は湯の沸くように置き」。
炉(ろ)はみなさんご存じかと思います。
床を四角形に切って、灰を仕込んで炭や薪をくべて火を燃やす場所。
時代劇の民家でよく見られますよね。
茶室の炉は、半畳の畳を更に四分の一ぐらいに切り、
細かい灰を仕込んで、炭を燃やします。
薪をくべて火を焚くと、茶釜がすぐにダメになってしまうので
必ず炭でなくてはいけません。
その炉に置く炭は、配置一つ間違えるだけで火が弱くなってしまったり
もしくは、全く火がおこらないこともあります。
逆に早く炭が燃え尽きてしまい、お客さんがお茶を頂かれる前に
せっかく湧いていたお湯がぬるくなってしまう事も有りえます。
そのため、炭をタイミング良く、お湯が沸かせられるように置くのは
かなり高度な技術が必要になります。
たくさんある茶道のお点前の中には、炭点前と呼ばれる点前があるほどです。
点前なわけですから、お客さんに見える場所でやります。
お客さんの目の前で「楽だから」と言って、トングを使うわけにもいきません。
そこで登場するのが火箸。
鉄で出来た、炭をつまむ為のお箸なのですが、
これの扱いが難しい。
上手にしっかり持たないと、炭がすべるんです。
お客さんにお見せする作法ですから、その所作も美しくなくてはいけない。
配置にも気を遣い、タイミングにも気を遣い、しかも滑り落ちないようにしなくてはいけない。
そうしなくては、ちゃんと湯が沸かないのです。
だから、炭点前はかなり習熟しないと習うことは出来ません。
そのためか、炭の配置はどの形の炭をどこに置く、など定まっています。
科学的に考えても極めて効率の良い配置なので、
昔の人は本当によく物事を研究していたのだろうな、と真剣に思わされます。
さて、それを接客の世界に落とし込むと何が読めてくるのでしょうか。
アパレルの場合、売場のレイアウトやディスプレイ(特にVMD)でしょうね。
飲食店の場合、椅子やテーブルの形や配置がその内に入ると思います。
まずアパレルの場合。
お客さんの心の湯を効率よく沸かさなくては、
お客さんは購買には至ってくれません。
その為に気にしなくてはいけないのが、接客は勿論ですが、
それ以上に売場レイアウトとディスプレイです。
皆さんは商品を見やすい導線やディスプレイを研究した事がありますか?
ディスプレイについては色々と研究している事でしょうが、
導線まで研究した事はありますでしょうか。
ほとんどの方が「考えたこともない」とお答えになると思います。
しかも、お客さんの心と言うのは炭とは違い、一概に
「こうすればよく火がおこる」
という言い方は出来ません。
ですが、全体で統計を採ってみると、大まかには
「こう配置した方が多くの方が手にとって下さる」
程度の配置は存在します。
ディスプレイに関しても同じ事。
どこに配置するのか、どういう配置をするのか。
マネキンは常に店の外を向いていなくてはいけないのか、
PPやIPは常に店内だけで表現すべきなのか。
その辺もしっかり考察してみると、
意外と奥深い事が判ってくるとおもいます。
さて、飲食店の場合はどうでしょう。
飲食店の場合、お客さんのプライベート空間をいかに保つかが
そのお店の繁盛に繋がります。
明らかにプライベート空間が無くなってしまうテーブルレイアウトだと、
多くのお客さんは嫌がってお店から逃げてしまいます。
カウンター席があまり好まれないのは、そういう理由からですね。
座りにくいと言う理由もありますが、やはりカウンター席は
自分のプライベート空間が無くなってしまいがちなので、
敬遠される傾向にあります。
飲食店の場合、他にもテーブルの大きさや椅子の固さなども大切です。
経営側として、お客さんの回転効率、つまり客単価より客数で勝負したい場合、
やはり椅子を固めにしてテーブルも小さめにしておいが方が良い。
なぜなら、敢えてプライベート空間を、短時間で座って居づらくなる環境を
仕掛けることで、長居するお客さんを出来るだけ少なくしておくことが出来るからです。
つまり、同じ「湧かしたい」お客さんの心も、湧きすぎてしまっては良くないと言う事。
お店の経営スタンスに応じて、仕掛ける炭の配置や大きさも
それに併せた物にしなくてはいけません。
共通する事項として、服装があります。
店員と言うのは原則として清潔感に溢れる状態でいなくてはいけません。
服装もまた、お客さんの心に火を灯す大切な要素です。
会話技術もそう。
会話技術がある程度優れていなくては、
お客さんの心に灯が点ることは無いでしょう。
細やかな所作も然り。
こういった一つ一つの「炭」を上手に組合わせる事で
火のおこりは随分と開きが出てきます。
丁度良い火のおこりによってこそ、始めてお客さんの心を
最も良い状態で動かすことが出来るようになります。
良い状態で心を動かすことが出来なくては、
お客さんはリピートに繋がりにくくなります。
「炭は湯の沸くように置き」
恐ろしく単純な一言ですが、
こんなに難しい事は無いんじゃないかな、と思う次第です。
みなさんのお店はいかがですか?
「炭が湯の沸くように」ちゃんとしつらえてありますか?