Mさんはデイサービスを開所して3人目のご利用者でした。
末期の癌を患っていらっしゃいました。
物静かで知性的な80歳代の男性でした。以前は教職に就かれていたと思います。いつも奥さんがデイサービスに同行されていましたが、見るからに相当疲れておられました。
末期の癌ですので得意のリハビリテーションは行えず、私はなにをすればよいのか悩んでいました。ただ取り留めの無い話をして、次第に頻回に襲ってくることになる痛みのあるときは背中をさすったり、習ったばかりの足ツボ刺激でリラクゼーションを図るのが精一杯でした。
それでもMさんは利楽のことをとても気に入ってくれました。利楽には猫の額ほどの小さな庭があるのですが、その庭が実家の庭にとても良く似ていたそうです。小さな庭の小さな出来事、例えば小鳥が遊びにやってきたとか今日はいい風が吹いているとか、些細なことを大事そうに穏やかに笑って過ごされました。
治療のためにその実家を離れ、四角い空しか見えない息子さんのマンションで暮らしていらっしゃいました。それでも息子さんの好意に背く事にならないようにじっと耐えていらっしゃったのです。
ソファに身体を預けて、Mさんは当然のように自分の死期をわかっていて、小さな小さな生命の集合体を愛でるように眺めていらっしゃいました。
そして最後の最後まで利楽の庭を眺めに来られました。
後日、半年ほどたったとき、奥様からお手紙を頂きMさんが他界されたのを知りました。
介護疲れで限界に近かったあの奥さんの文章とは思えない、丁寧で穏やかなまるでMさん夫婦の子どもにでもなったかと思えるようなやさしい言葉が溢れていました。
私は一番大事なことを教えていただきました。
リハビリテーションケア デイサービス利楽
代表 小森晋吾