K病院のトイレ

わたしがデイサービスを始めようと思ったきっかけは、当時勤めていたK病院の外来用トイレにありました。もう12年も前の事です。

 

その頃、わたしは病院デイケア(通所リハビリテーション)の主任をしていました。

ある日の昼下がり、ご利用者のYさんがおなかが痛いと言われはじめました。

 

このYさんは当時87歳の強面の元軍人で、認知症があるご利用者様でした。

突然怒り出したと思えばとてもやさしい面もあり、ユーモアのセンスも抜群な方でわたしはYさんが結構好きでした。

 

おなかを押さえて座り込むYさんに、「理事長先生に診てもらいましょうね」と声をかけ、外来診察室の理事長先生にお願いに行きました。

 

理事長先生はなんだかちょっとご機嫌斜め。事務職員を叱って(怒鳴って)います。

遠慮しながらもYさんの状況を報告すると「すぐに連れてきて」とのこと。

 

ところが、Yさんはトイレに行きたいと言われはじめました。診察室の隣にある外来用トイレに誘導しました。理事長には「ちょっと待ってください!」と。

 

次第にイライラしてくる理事長、焦るわたし。

Yさんは個室に入ってうんうん唸っている。「大丈夫ですか?」と声をかける。

「まだなのか?」と理事長、「すみません!」とわたし。

 

Yさんは便はなんとか出た様子ですが、わたしが急がせるので後始末の仕方がわからなくなってしまったようです。さらに焦るわたし。

 

この時(Yさんのお尻を拭きながら)わたしは自分自身に大きく失望しました。

ご利用者の支援を行っているつもりが、いつの間にか理事長の顔色を窺う仕事をしていたのです。もっと認められたい、もっと給料や役職もほしい。そんなことを考えていた自分が惨めで情けなく感じました。

 

これからも、ずっと上役のほうに顔を向けて生きていくのか?

そう考えてすぐに、わたしは独立を決意しました。

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