『福女』
あるデパートへ行くと、入り口でいきなり
「おめでとうございます!あなたが今年の”福女”です!」と言われた。
どうやら松の内の期間中にやっているものらしい。
いくつかの粗品をもらい、今年は幸先がいいと上機嫌だった。
寄り道したお店でくじを引くと1等があたり、クッキーの詰め合わせを貰い、
帰って来た夫がお花を買って来てくれた!
やっぱり”福女”になったからなのか、イイ事がたくさん起こる。
私はこれからの毎日がバラ色に感じられた。
その後は特にこれといったことも無く数日が過ぎた。
ある日、仕事を終えて帰ろうとした時に、隣の部署のAさんに声をかけられた。
「○○さん、悪いんだけど手伝ってもらえないだろうか。
二人も休んでて、明日配る資料が間に合わないんだよ」
今日は夫が休みなので、外食する約束をしていた。
楽しみにしていたが、人手が足りないのであれば仕方がない。
夫に連絡をしてから手伝いに向かった。
行くと、そこにはAさんと、新人のB子さんがいた。
B子さんは私を見ると走り寄って来て、
「先輩!ありがとうございます!先輩は福の神です!」と言った。
(えぇぇ?)
B子さんの口から出た”福の神”に違和感を覚えた。
帰り道、前を歩いていた若者4人組の一人が、小さなクマのマスコットを落とした。
みんな派手な格好をしていて、声をかけるのをためらったが、意を決した。
落とした女性は目を見開いて驚いていたが、
「これ、大事なお守りなんです!ありがとうございます!あなたは福の神です!」と言った。
(えっ!?何で福の神?)
私はまたしても違和感を覚えた。
(”福女”だから福の神って言われるの??)
勿論悪い気はしないけど、なんだかモヤモヤする。
歩いて行くと、今度は松葉杖をついた男性がドアを開けようとしていた。
私が開けてあげると、
「ありがとうございます!いや~あなたは福の神です!」と言われた。
私はその瞬間に悟った。
良い事がやって来るから”福女”ではなくて、
誰かのためになる事が”福女”だったんだ。