今思えば、長いこと夫の自己愛性人格障害が表に出ることはなかった。

怒りの沸点がわかりづらく、怒ると酷い怒り方をすることはあった。

喧嘩になると彼の自己愛性人格障害が分かりやすく表に出ていたんだろうな。と今思う。

 

当時は、いつも優しく楽しい人だったので、喧嘩の時や不機嫌な時は

彼の悪い部分が出てきてしまっている。そう思って、彼の普段のいい部分だけを見ていた。

 

彼の人格障害が前面的に出たのは、離婚を切り出してから。

でも、そのずっと前にこの障害が徐々に普段から出始めるきっかけがあったことを

思い出した。

 

それは、2016年の大統領選。

トランプ対ヒラリー。

 

誰もがヒラリーが勝つと思っていた。

夫は、夜遅くまで開票の様子をソファーに座って見守っていた。

テレビのアナウンサーやコメンテーターの表情が時間と共にどんどん引き攣り

終いには放送事故なんじゃないか?と思うほど、皆んながトランプが勝ち進んでいく

現実に言葉を失っていた。

 

ソファーに座っていた夫も、顔がどんどん青くなっていき信じられない。と

絶句していた。

 

アメリカ中が大騒ぎしていたその選挙に、私はもう少し能天気に構えていて

当選の結果に翌日から嘆き悲しむ人々に、そんな大袈裟な。と思っていた。

 

が、その日から夫は鬱になってしまった。

なぜ???

 

まだトランプは、大統領の仕事を始めていないのに、何を評価してそんなに落ち込む必要が

あるのだろう?あまりに落ち込む夫に、

「まだ分からないじゃない?いい仕事するかもしれないよ?」

慰めのために言った。

 

ただ慰めただけなのに、もの凄く軽蔑の目で見られ

「お前みたいな奴がいるから、こんな奴が当選するんだ!いいか!歴史を見てみろ!ドイツでヒトラーが大統領になった経緯を知っているのかっ!」

そして、30分以上続く罵声と説教。

 

それから、毎日毎日トランプの話ばかりになった。

何度か、「トランプが言っていたこの部分は、私は賛成だけど?」

「この部分は、いいんじゃない?」そんなことを最初の頃は、慰めのつもりで言っていたけど、そんなことを言う度に酷くけなされ罵声と共に、そんな思考を持っている私がどれだけ

世間知らずの無知で危険な思考を持っているのかを、毎回30分以上もかけて叱られた。

 

それから彼は、毎日毎日トランプの言動を執念深く追った。

執念深く追っては、今日、トランプはこんな発言をした。あんなことをした。

日に何度も聞かされるトランプの言動。

 

怒りと軽蔑に満ち溢れた彼のトランプに関する日々の報告は、異常だった。

話しながら怒りに震え、彼がどれだけ非常識でばかなのかを怒りを込めて説明し

それに関してきちんと反応しなければ、怒りがこちらに向かう。

 

デモにも参加させられ、まだ小さくデモに参加するのを嫌がる子供達にキレ、

嫌がる子供達に寄り添う私に更にキレ、思ったね。

 

オマエ ソノモノガ トランプ ジャネエカ?

 

個人的な関わりもないのに、よくも飽きずに大統領就任中の4年間+その後も含め

同じ熱量で追跡できるなと思った。

その熱意たるものは、まるで親を殺され復讐に満ちている子供のようだった。

 

夫は、何故そこまで大っ嫌いなトランプに執着したのか?

ストレスになるのが分かっていてもトランプを見ずに追わずにいられなかったのか?

 

 それは↑ここでも書いた自分の見たくない認めたくない自分を他人を通して見てしまうから。

 

夫は、トランプのように自己主張をしてくるタイプの自己愛性人格障害ではないが、自尊心が異常に低く、それを満たすらめに他人を馬鹿にし、どれだけ自分が正しく有能かを見せずにいられないその部分が同じだったのだろう。

 

自分が絶対に正しい。科学で証明されたものだけを信じ、自分ルールがまるで社会のルールであると信じている夫。そして、そのルールを自分で作ったのも忘れ、ルール通りに生きる正しい自分を誇らしく思い、そのルール通りに生きない人を軽蔑する夫。

 

方やトランプは科学に興味はないようだが、自分が正しい事を疑わず、自分ルールが世間の常識のように生き、それに反対する人達を小馬鹿にする。

 

信じるものが違うだけで、思考と低い自尊心を満たす方法は一緒。

自分と根本が似ていると言うのに、トランプの考え方がどれだけ馬鹿げて間違っているかを、毎日飽きずに私に説明していた。

 

トランプが現れたことで、夫の中に眠っていた人格障害が刺激された。

刺激され、自分の中にあった見たくない自分を嫌というほど見せつけられた。

 

彼の中にある認めたくない自尊心の低さと、自分と正反対の意見を堂々と正しいと主張されることで眠っていた人格障害が目覚めてしまった。

 

毎日飽きずに報告するトランプの言動に闘志に満ちたていたが、

同時に彼を酷く鬱にさせた。

 

あなたが死ぬほど嫌いなトランプは、あなたの中に眠っている自分の姿なんだよ。

それを受け入れたくなくって鬱になってしまっているけど、あなたが戦う相手は、

ブラウン管の中の彼ではなく、あなたの中に眠っている自分なんだよ。

 

戦うんじゃなくて、受け入れるの。

認めてあげて、そんな自分も自分の一部なんだって。

そうすれば、完璧じゃないが故に無視された自分が目を覚ますから。

 

そこを気づいて認めてあげない限り、何度でもそんな自分を認めて欲しくて、

次なるトランプが現れるだろう。

完璧ではない自分を赦し受け入れることが自分の自尊心を高めることでもあるのにね。


敵は、自分の中にあり。