2012年の夏、最も注目されたビールといえば、キリンビールが発売した「一番搾り フローズン〈生〉」だろう。ソフトクリームを想像させるシャリシャリの泡を“食べて”、「これがビールの泡?」と驚いた人も多いのではないだろうか。
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若者のビール離れが叫ばれる中、SNS上でも注目された「フローズン〈生〉」はどのようにして開発されたのだろうか。またヒットの要因などを、マーケティング部の門田邦彦さんに話を聞いた。
※本記事は、9月20日に行われた新商品の発表会での発言をまとめたものです。
●開発の背景
――フローズン〈生〉が開発された背景を教えていただけますでしょうか?
門田:ビール市場は1995年をピークに減少傾向にあります。20~30代のライフスタイルに溶け込むようなビールを、私たちは開発できていなかったのでしょう。チューハイやハイボールなどの新商品がたくさん出てきましたが、ビールはその中のひとつになってしまいました。昔のように「とりあえずビール」という人が減ってきている中で、私たちは新しいビールを提案できていませんでした。
こうした背景があって、既存の枠にとらわれず、「本当にビールっていいよなあ」と思ってもらえるような“生ビールの現代化”を目指しました。
また開発にあたって、コーヒー業界の事例を参考にさせていただきました。昔のサラリーマンは喫茶店でコーヒーを飲む人が多かったのですが、今ではスターバックスやタリーズなど大手コーヒーチェーンの台頭により、飲用スタイルが“現代化”したと感じています。おしゃれな空間を提供したり、コーヒーを持ち運べるようにして、若い人たちの間でファンが増えていきました。
お酒で言えば、ハイボールの事例が“現代化”に成功したと考えています。もともと2杯目または2軒目以降のお酒としてウイスキーは飲まれてきましたが、ハイボールは1杯目から楽しめるようにジョッキで提供したり、若い人においしいと感じてもらえるようにアルコール度数を低くしました。その結果、ウイスキーといえばバーでゆっくり飲む人が多かったのですが、ソーダで割って居酒屋で飲む人が増えていきました。
こうした成功事例を受け、私たちは「生ビールの現代化」を目指していくことにしました。2010年秋から検討を開始して、2011年春にはプロジェクトチームを発足。チームは、技術開発部、パッケージング技術開発センター、調達部、営業部、マーケティング部からなる横断的なものでした。
そして開発にあたっては3つのポイントを意識してきました。(1)独自の技術による新しいおいしさ(2)「被写」を意識した商品設計とサービス(3)人に伝えたくなる体験型マーケティング――の3つですね。
●開発にあたっての注目点
――フローズン〈生〉を開発するにあたって、どのような点に注目されたのでしょうか?
門田:ビール市場の動向を見てみると、ここ3~4年、エクストラコールド(0~マイナス2度)など冷たいビールへの関心が高まっていました。またフローズンドリンクがブームになっていて、例えばフラペチーノやフローズンヨーグルトなどがヒットしていました。
さらに20~30代にとってお酒は酔うためのモノではなく、コミュニケーションツールになっています。「ビールはひと口目はおいしいけれど、チューハイやハイボールなどと違って氷が入っていないので、冷たさが続かない……」といった声がありました。
フローズン〈生〉を開発するにあたっては、こうした課題を意識して、3つの特徴を実現させることができました。1つめは「マイナス5度に凍ったフローズンの泡」、2つめが「シャリッとおいしい、はじめての食感」、3つめが「冷たさ30分キープ」ですね。
中ジョッキのビールを1杯飲み終わるのに、約20分と言われています(キリンビール調べ)。フローズン〈生〉は冷たさを30分間保つことができるので、最後のひと口までおいしく味わえることができると思っています。
●ヒットした要因
――ヒットした要因は、どのように分析されていますか?
門田:フローズン〈生〉はものすごい速さで認知が広がっていきました。SNS上では「泡がカワイイね」といったコメントが多く、Twitterでも6月以降は月に1万件を超えるツイートがありました。「冷たい」「シャリシャリしている」といった食感に関する声のほかに、写真をアップする人も多かったですね。
SNSによって認知度は向上していったのですが、実際に飲んだ人は20%ほど(首都圏のみ)。まだまだ飲まれていない人が多いのが特徴ですね。逆にいえば、まだの人に飲んでいただければ、フローズン〈生〉がさらに活性化するのではと見ています。
また商品の特徴でもあります、「冷たさ30分キープ」が高く評価されました。特に女性からの支持が高かったですね。屋外のビアガーデンでも「冷たい状態で長く飲めることができるので、うれしい」といった声がたくさんありました。ちなみに甲子園球場内にあるレストランでは、販売実績が前年比200%を超えました。
フローズン〈生〉がヒットしたことで、「一番搾り」(缶)の購入率が大きく上昇しました。2012年1~4月の販売数量は前年比でマイナスだったのですが、5~8月は反転して、3%前後のプラスになりましたね。
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