2月刊ためし読み第4弾!『初恋姫、蒼海を望む』 | コバルト編集部ブログ

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行きつけのカレー屋さんで「ライス半分」と頼んだら

半分どころか子どもの握りこぶし大くらいの少量が出てきて

涙にくれた編集(て)です。




本日のためし読みは話題の中華ラブロマン第2弾




編集(て)




『初恋姫、蒼海を望む』
(立夏里美 イラスト/椎名咲月)






「だめだろうか、あなたをわたしのものにしたいと思っては……」

 こんなにも愛されて、望まれて、求められて、瑛舜の気持ちは嬉しいばかりで、ほんの少し未知のことへの不安はあっても、それを乗りこえられない綾姫ではないのに――でも、まだ足りないものがある。

「ねえ、瑛舜……戻ってきてからでは、だめ? 奎州遠征を誰にも認められる形で終わらせて戻ってきたら、もう誰もわたしのこと、東宮妃にふさわしくないなんて、言わなくなるわ」
「綾姫……お気になさっていたのか……?」
「わたしは東海の小島の田舎娘よ、それは事実だからいいの。――いびられても、嘲られても、へっちゃらだけど、でも、瑛舜、あなたが困るでしょう?」

 皇帝でさえも、自らの家系の頼りなさを気にする。その国にあって、瑛舜はひとつもたしかなものを持っていない。

「わたしは役に立つわよ、絶対に。ただ家名だけの姫より、ずっと役に立つから……」

 誰にも文句を言わせない、さすがに瑛舜さまがお選びになっただけあると、誰もが納得する東宮妃――そうなるには綾姫はまだ足りない。

 これからなにをなすかが肝要なのだ。

「だから、ね、もう少し待って……。奎州戦が終わるころには、わたしは鳳華にとって、なくてはならい存在になっているから」
「あなたにお願いされると、結局わたしはかなわない。狡い人だ……」

 狡いといいながら、見つめる眸はやさしい。落ちてくる接吻は、ただただ甘い。

 何度も味わっているそれが、今夜はひどく胸を騒がせる。

 どくどく、と激しく激しく鼓動を乱す。

「でも、少しだけ……少しだけいいでしょう?」

 覚えておきたい、と瑛舜がささやきで、肌を撫でる器用な指先で伝えてくる。

「この手に覚えておきたい。わたしの戦う女仙……その肌はやはり女人のものなのだと、やわらかく、あたたかく、心地よいそれが、きっと修羅に変わろうとする瞬間に、わたしを引き止めてくれる……」

 男には必要なのだ、と瑛舜はやさしく訴える。

 燃える血潮が身体を戦いに駆りたてようとしたとき、ふと思い出せる愛おしい存在が。猛々しいばかりの情動を、やわらかく包みこんでくれるものが。

「だから、少しだけ……」

 綾姫の結いあげた髪をほどく指が、いけない悪戯を仕掛けてくる。

 こぼれ散る生花が、今夜はひどく甘ったるい芳香を放って、鼻孔を刺激する。

 ――その夜。

 綾姫は衣衾のなかで、触れあう肌のぬくもりを感じながら知ったのだ。

 目が眩むほどのあざやかさのなかで、どうしてこの世に女と男がいるのか。