行きつけのカレー屋さんで「ライス半分」と頼んだら
半分どころか子どもの握りこぶし大くらいの少量が出てきて
涙にくれた編集(て)です。
本日のためし読みは話題の中華ラブロマン第2弾
編集(て)
『初恋姫、蒼海を望む』
(立夏里美 イラスト/椎名咲月)
「だめだろうか、あなたをわたしのものにしたいと思っては……」
こんなにも愛されて、望まれて、求められて、瑛舜の気持ちは嬉しいばかりで、ほんの少し未知のことへの不安はあっても、それを乗りこえられない綾姫ではないのに――でも、まだ足りないものがある。
「ねえ、瑛舜……戻ってきてからでは、だめ? 奎州遠征を誰にも認められる形で終わらせて戻ってきたら、もう誰もわたしのこと、東宮妃にふさわしくないなんて、言わなくなるわ」
「綾姫……お気になさっていたのか……?」
「わたしは東海の小島の田舎娘よ、それは事実だからいいの。――いびられても、嘲られても、へっちゃらだけど、でも、瑛舜、あなたが困るでしょう?」
皇帝でさえも、自らの家系の頼りなさを気にする。その国にあって、瑛舜はひとつもたしかなものを持っていない。
「わたしは役に立つわよ、絶対に。ただ家名だけの姫より、ずっと役に立つから……」
誰にも文句を言わせない、さすがに瑛舜さまがお選びになっただけあると、誰もが納得する東宮妃――そうなるには綾姫はまだ足りない。
これからなにをなすかが肝要なのだ。
「だから、ね、もう少し待って……。奎州戦が終わるころには、わたしは鳳華にとって、なくてはならい存在になっているから」
「あなたにお願いされると、結局わたしはかなわない。狡い人だ……」
狡いといいながら、見つめる眸はやさしい。落ちてくる接吻は、ただただ甘い。
何度も味わっているそれが、今夜はひどく胸を騒がせる。
どくどく、と激しく激しく鼓動を乱す。
「でも、少しだけ……少しだけいいでしょう?」
覚えておきたい、と瑛舜がささやきで、肌を撫でる器用な指先で伝えてくる。
「この手に覚えておきたい。わたしの戦う女仙……その肌はやはり女人のものなのだと、やわらかく、あたたかく、心地よいそれが、きっと修羅に変わろうとする瞬間に、わたしを引き止めてくれる……」
男には必要なのだ、と瑛舜はやさしく訴える。
燃える血潮が身体を戦いに駆りたてようとしたとき、ふと思い出せる愛おしい存在が。猛々しいばかりの情動を、やわらかく包みこんでくれるものが。
「だから、少しだけ……」
綾姫の結いあげた髪をほどく指が、いけない悪戯を仕掛けてくる。
こぼれ散る生花が、今夜はひどく甘ったるい芳香を放って、鼻孔を刺激する。
――その夜。
綾姫は衣衾のなかで、触れあう肌のぬくもりを感じながら知ったのだ。
目が眩むほどのあざやかさのなかで、どうしてこの世に女と男がいるのか。