スイスの銀行家が口を割るとき【2】 | PAGES D'ECRITURE

PAGES D'ECRITURE

フランス語の勉強のために、フランスの雑誌 Le Nouvel Observateur や新聞の記事を日本語に訳して掲載していました。たまには、フランス語の記事と関係ないことも書きます。


テーマ:
前回の スイスの銀行家が口を割るとき【1】 の続きです。

今回は原文 の Formés comme des agents secrets で始まる段落からです。


La Suisse est sens dessus dessous.

UBS
Quand les banquiers se mettent à table 


(つづき)

Formés comme des agents secrets

(秘密エージェントのように訓練され)

 この日から、米国内で資産運用を行うための免許さえ持たないUBSは、アメリカの法律の激怒を避けつつ新たな顧客を獲得することを目的とした本物のシステムを設置することになる。バーケンフェルドが司法にもたらした自白と証拠書類は、この組織を詳細に記述するアメリカ税務当局の報告書の中に記録されている。アメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)の査察官、ダニエル・リーヴスDaniel Reevesは、UBSが900のダミー会社を設立し、一方で32人の「顧問」が米国に派遣されていた、2004年に焦点を絞る。これらの「顧問」は平均して1ヶ月間米国に滞在し、それぞれ3800人近いアメリカ人顧客と接触していた。

 単なる観光ビザでやって来たこれらの顧問は、秘密エージェントのように訓練されていた。検査の時には、UBSが念入りに作成した無邪気なパワーポイントのプレゼンテーションで税関職員を煙に巻くこともできた。彼らは頻繁にホテルを変えなければならず、いかなる事情があろうとも注意を引くことがあってはならなかった。困難な場合に備えて、彼らに取るべき作業を示唆するために、UBSは年中無休で開いているホットラインを開設した。彼らは電話をすることも、ファックスやEメールを送ることも、米国内で文書を印刷することも禁止されている。そうした顧問の一人、「Dieter」は、NSA(アメリカ国家安全保障局)の盗聴システムの注意を引きつける可能性のあるキーワードを使わずに、自分のEメールを暗号化するための秘密の記号を考え出すことで、これらの禁止事項を回避していた。例えば、「orange」がユーロを意味し、「vert(緑)」はドルという意味だった。100万が「cygne(白鳥)」で、25万が「noix(くるみ)」だった。「私は今朝、2羽のオレンジの白鳥を放した」というのは、Dieterが200万ユーロを売ったという意味だった…

 顧問らは名高いイベント、テニスのツアーや帆船のレースなどを、新たな顧客を引きつけるために乗っ取った。アメリカの税務当局は、UBSもまたこの目的でイベントに資金援助し、さらには主催さえしたと疑っている。こうしてこの銀行は、国際的な最も有名な収集家の集まる、現代美術の見本市、マイアミのArt Baselの主要なスポンサーとなった。

 追跡されないように、顧客もまた、スパイ小説にふさわしい予防策を取るよう勧められていた。UBSの顧問と同じように、顧客は自らの「オフショア」の活動に結びつく書類を一切持っていてはいけなかった。自分の秘密口座に一切のアメリカ株を入れることも。彼らの金は、現金で、ジュネーブ、チューリヒやルガノにある銀行の金庫に預けるように強く勧められていた。注意を引かないでそれを利用するために、様々な解決策が提案されていた。例えば、現実に銀行が保有する総額に見合った、架空の貸出を顧客に与えることであった。あるいはアメリカ当局の注意をひきつけることなく買付けを実行できる、UBSのクレジットカードを利用したりすることだった。顧客が国外旅行をするときには、彼らのスイスの銀行の口座から引き出して、宝石、美術品や贅沢品を買うことを促されていた。もっと素朴な手法もあった。こうして、バーケンフェルドが歯磨きチューブに、彼の顧客の一人の金で買ったダイヤモンドを忍び込ませた。個人的にアメリカで顧客に引き渡すために!

 これらのどれも、UBSの最高経営幹部の支持がなければ不可能だった。二人の現在の経営者を含めて。取締役会長、ペーター・クルナーPeter Kurner(オスペルの後任)と、社長のマルセル・ローナーMarcel Rohnerである。リーヴスの報告書は、意図的にアメリカの法律を踏みにじったとして、この二人を非難している。アメリカの税務当局は、UBSが最初に300人の顧客の名前を明らかにすることを要求した。その中には、「政治指導者、興行界やスポーツのスター」もいると、その中の複数の人物の利害を擁護するアメリカの弁護士、ローレンス・ホーン Lawrence Horn は言う。第二次世界大戦以来、株式口座を保有する者もいるし、保有者がアメリカ合衆国に移住する前に開かれた口座もある。また、イラン、イラク、中国やインドから、恐らくは賄賂の成果によって資金提供されている口座もある。「本当の坩堝だ」、ローレンス・ホーンは要約する。


Le doigt dans l'engrenage

(厄介なこと)

 1934年に施行された、銀行の秘密を漏らした全ての銀行員を禁固刑に処するというスイスの法律にもかかわらず、UBSは譲歩した。強制されてやむを得ず。拒否した場合、免許を失う。米国での投資銀行事業を行うことなどできなくなるのだ。そのため、UBSは厄介ごとに巻き込まれた。なぜなら、最初の300人の名前が「天秤にかけられる」やいなや、米国の税務当局は他の52000人の名前を引き渡すことを要求したからだ。2000年から2007年までのUBSのアメリカ人顧客の名前である!アメリカの無理強いと、スキャンダルをもたらしたUBSに対するスイスのエスタブリッシュメントの怒りが起こる。連邦にとって、一つの地震となる。アメリカ人だけでなく、ドイツ人、フランス人さらには全ての国の「預金者」が自分の口座を閉鎖する。「2007年にスイスの口座に外国人が保有していた7450億ユーロのうち、4000億は申告されていなかった」、ミレ・ザキは説明する。

 今や異論の対象となっているのは全体としてのスイス銀行の秘密である。なぜなら、パリもベルリンも、ワシントンによって開けられた穴に殺到したからだ。G20の翌日、ニコラ・サルコジとアンゲラ・メルケルはそれを断念することを要求するために十分に厳しい言葉を持たなかった。スイス連邦政府は保証を与え、契約を増やした。納得させることはできずに。神聖不可侵な秘密の筆跡を消すのは難しい。「(ジュネーブ州の)およそ140の外国銀行には、留まる理由がなくなる」、有名なジュネーブの銀行家、イヴァン・ピケIvan Picquetは断言する。太鼓を叩く陽気な小妖精に変奏しても、UBSの元会長はもはや誰をも笑わせない。


AIRY ROUTIER



Marcel Ospel

2008年4月までUBSの「傲慢な」会長で、全面的な汚名の中で退職した、マルセル・オスペルMarcel Ospelは、この伝統的な銀行をゴールドマン・サックスやリーマン・ブラザーズの直接のライバルにすることを夢見ていた。その独断の元で、UBSは投機に没頭し、アメリカの脱税者に秘密を保証して、意図的に法を犯した。


Bradley Birkenfeld

アレクサンダー・アコスタAlexander Acosta検事はブラッドレイ・バーケンフェルドBradley Birkenfeldを不安でたまらなくさせた。43歳の元UBS従業員は、2001年から2007年にかけて、顧客に商品を売りつけ、税金逃れを助けるためにUBSから米国に送られた32人の「エージェント」の一人であった。その裁判は昨年6月、マイアミで始まった。5年の禁固刑を避けるために、彼は全てをさらけ出した。


Peter Kurer

マルセル・オスペルの後継としてUBSのトップになった、ペーター・クルナー Peter Kurnerは就任から1年足らずで辞任したところである。アメリカの司法は、彼もまた脱税を隠蔽したと疑っている。一方でスイスでは反対に・・・外国に対する銀行の秘密への違反による訴訟の対象になっている。彼はカスパール・ヴィリジェKaspar Villiger、元財務相で、銀行の秘密の強固な擁護者に取って代わられた。


Eveline Widmer-Schlumpf

スイス連邦の法相、エヴリーヌ・ウィドマー=シュルンプフEveline Widmar-Schlumpfは、アメリカ司法当局との摩擦を和らげるためにワシントンを訪問した。


Nicolas Hayek

スウォッチ・グループの会長、ニコラス・ハイエクNicolas Hayekは、サブプライム危機による破綻に陥るのを危惧して、UBSからもクレディ・スイスからも資産を引き出していたことを認めた。スイスの伝説的な口の堅さと断絶するこの告白は預金者を怯えさせ、資本の撤退を加速した。


John Kerry

上院議員でアメリカの元大統領候補、ジョン・ケリーはUBSスキャンダルによって名誉を汚されかねない。なぜなら、ブラッドレイ・バーケンフェルドが彼の選挙運動のために4300ドルを寄付していたからである。


Le Nouvel Observateur 2318 9-15 AVRIL 2009

http://hebdo.nouvelobs.com/hebdo/parution/p2318/articles/a398652-.html


スイスの「銀行家が口を割るとき」という記事は、これで終わりです。
と同時に、これまで何回か掲載してきた、「租税回避地」という問題に関する記事も、一旦終了となります。

さらに、当ブログも、ネタがないのでしばらくお休みすることになるかもしれません。


ついでながら、スイスに関連した過去のエントリー:

請求書上の死―スイスの安楽死援助団体【1】 2008年6月7日

請求書上の死―スイスの安楽死援助団体【2】 2008年6月8日



おまけ

黒いスイス (新潮新書)/福原 直樹
¥714
Amazon.co.jp

松本清張の『聖獣配列(上・下)』という小説が、「スイス銀行」の恐るべき秘密を描いていましたが、新潮文庫版は絶版になっています。

聖獣配列 (松本清張全集)/松本 清張
¥3,262
Amazon.co.jp

cm23671881さんをフォロー

ブログの更新情報が受け取れて、アクセスが簡単になります

Ameba人気のブログ

Amebaトピックス