しばらく、短編を掲載します。
プレSEの本業ではないが、若い社員の退職のシーン。
***
翌日、三時少し前。御厨に電話が入った。加藤だった。
「もしもし、加藤ですが。
立川課長に言われまして、近くまで来ました。」
「ああ、加藤君。久し振りだね、今どこにいるの。」
「分室の近くのトヨタのショウルームの前の
公衆から掛けてます。」
「ああ、そこか。
じゃあ、そのすぐ傍に果物屋があるでしょ。
その脇に階段があって二階がサテンになっているから、
そこへ入ってくれる。すぐ行くよ。」
「あ、はい。判りました。
それじゃ、お待ちしてます。」
御厨は電話を切ると、
上着を着て手帳を持って立ち上がった。
彼は課長席のすぐ傍の係長にちょっと出てくるといって、
件の喫茶店に向かった。
喫茶店は事務所から一、二分のところにあり、
そこには加藤がコーヒーを前に神妙に座っていた。
「おーう。久し振りだね。」
「あ、すみません。
わざわざありがとうございます。」
加藤は立ち上がって本当に済まなさそうに礼をした。
「何言ってんの。
こちらこそ、わざわざ来てもらって悪かったね。
ここは外から見えにくくてね、
サボるのに丁度良いんだ。
果物屋がやってるからジュースがうまいんだよ。
すみません、ミックスジュース。」
御厨は座りながらやや大きな声でオーダーをすると、
加藤に向き直って話を始めた。
「辞めるんだって。」
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