「プレSE奔走す」を読んでいただいた皆さん、

ありがとうございました。


しばらくの間、「番外編」として短編を載します。


まずは、当時大きく騒がれた、2000年問題の当日の様子を描いた作品。

当のIT企業ではどんな様子だったが分かります。


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この時点でもうすることはなくなってしまった。


無駄口を叩く相手もいなければ、フロアにテレビやラジオがあるわけでもない。

この時期に取り立てて処理するべき資料も特になかった。

定時まで特にすることもなくぼんやりとすごすには時間がありすぎた。

社内ウェブの情報や2000年問題に関するサイトを一巡しても

たいした時間は潰せなかった。


「これが、三日間続くと思うと嫌になるよ。」

「湘南の方はどうなってるかな。」

日元アイシスの国府津にある小田原事業所、

湘南と呼ぶには多少海岸から離れすぎてはいるが、

通信本部があり、ネットワーク事業を遂行しているので、

いつものように稼動しているはずだ。

対外的な影響力の大きさからも2000年問題対策室の本部が設営されていた。

今日は、社長以下重役連中も小田原事業所に出ることになっていた。

公共本部は、山上本部長が出勤することになっていた。

「まあ、特に問題はないだろうし、セレモニー的なことが行われているんだろうな。」

御厨はずいぶん後まで知らなかったが、

実は幹部連中は2000年問題そっちのけだったらしい。

総務部の関係者からの伝聞だが、オフレコだとしてこんな話を聞いた。

元日、社長は10時過ぎに社有車で事業所に到着した。

大林専務や本部長たちが出迎えたそうだ。

大林専務は8時半には事業所についていて、

既に各部署を回って問題のないことを確認していたので、

それを社長に報告した。

まあ、これがセレモニーと言えばそうかもしれない。

社長は、総務部の奥にある事業所長室で一服した後、

幹部連中と一緒に近くの神社に参拝し、お祓いを受けた後、

事業所に戻ってあとは酒盛りだったらしい。

総務課長が湯沸し室で目刺しを焼いて出したそうだ。

酒盛りは小一時間続き、社長は昼過ぎに早々と事業所を離れた。

専務やそのほかの幹部も午後3時ごろにはそれぞれの家路についたそうだ。


社長や幹部連中が2000年の最初の日をこうやってのんびり過ごせたのも、

ある意味周到な準備の成果であったと言えるのだろうが、

何もなくても最低限定時の間、机に張り付いている御厨たちにとっては

たまったものではない。

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