次回以降の方針と治療方法について、診察で医師と話すことができた。まず、前回同様、一周期卵巣を休めた上で再び採卵したいことを伝えたところ、「一周期休むのは(卵巣の状態から見ても)良いと思う。」とのこと。
その上で次回の採卵について、治療細部についても話し合った。医師も、今回のデータを見て、採卵2日前に10ミリを越した卵胞の数が多いわりに採卵で取れる卵子の数が少ないことが気になったようだった。そこでトリガーの方法を変え、注射と点鼻薬の両方をトリガーとして使ってみようと提案してくれた。
私があらかじめ伝えたかったことの結論と全く同じ内容を先に提案してくれたので、他院での採卵データや過去の卵巣刺激のKPIの共有はもう不要かもしれないとも思った。しかし存在する私個人の治療データはなるべく緻密に共有したほうが、今後の治療においての判断の精度も高まると判断し、準備していたものを予定通り見てもらうことにした。医師は、ちゃんと資料を手に取り、目を通し、耳も傾けてくれた。
クリニックに行く数日前から、これを持っていくかどうかは散々迷った。胃が痛くなるほどに。私にとってはKPIが評価ツールとして身近なものだったとしても(息子を産む前は会計畑の人間だったから)、他院での治療結果との比較を含む評価データを患者側から共有する行為は、医師の気を悪くする可能性もあると思った。しかし、共有する決断に至った理由は大きく二つある。
一つは、この不妊治療がどんな結末を迎えたとしても、その結果を背負って生きていかなければならないのは他ならぬ私であるし、不妊治療のリミットの迫った40代患者にとって、時間は最も貴重な資源であり、そのかけがえのない時間やお金を今ここに投じているのは他ならぬ私だからだ。
もちろん、医師の知恵を頼ってここに来ている。医師の知恵とは、論文で示される類の不妊治療業界全体に共有される集合知だけでなく、診療現場を中心に日々蓄積されていくデータをベースにクリニック内部に独自に蓄積している集合知までを広く指す。この知恵に敬意を払いながら、そして頼りながら、しかし患者の側も主体性を持ったほうが、不妊治療が結末を迎えた時の後悔が少ないと思った。
二つめは、医師と話せる診療時間を効率よく使うため。医師は限られた時間の中で大量の患者を捌いており、短い時間で治療の方針から細かい治療方法までを決定しなければならない。前クリニックでの細かい治療データをここに持って来る時に工夫をするほど、医師はデータの整理に時間を割かずに済むし、そのぶん判断に時間を割けるはずだ。効率の面でも、KPIで端的にわかりやすく共有する意義はあると思った。
結果的に、一周期開けてからの次回の採卵がより楽しみになった。このクリニックに来て良かった。
