ダイニングテーブルに座って絵を描いていた息子に「毎日、アイブロウペンシルで眉毛の足りないところを描くのって面倒くさいんだよね。時短にもなるから眉のアートメイクでもしようかなー。一度入れると一年から三年持つんだって。」と呟いてみた。息子は興味が無さそうに「ふーん。」と相槌を打った。

そのあとパソコンを開いて何か調べているなぁと思ったら、パソコンを閉じたあと、こんなことを言ってきた。


「アートメイクって表皮の部分に色素を入れるものらしいんだけど、死んでいる角質細胞の部分よりは深く入れると思うんだよね。角質細胞なら、1ヶ月くらいで入れ替わるけど、ママはアートメイクは一年から三年持つって言ってたじゃん?つまり、アートメイクで色を入れるのは、真皮ほど深くはないけれど、皮膚表面の死んだ細胞にとどまらず、内部の生きた細胞が傷つけられるという点ではタトゥと同じ。つまり、インクが体内に入ってくる。と同時にどんなに清潔に道具を管理したとしても、わずかにバクテリアも体内に侵入する。アートメイクをやる人が杜撰ならば、バクテリアは大量に侵入する。

バクテリアに対しては、白血球が自らの中に取り込んで酵素を出して溶かそうとする。しかし、バクテリアも中から毒素を出して対抗しようとすることもある。一方、インクは免疫細胞も溶かすことができない。インクに毒性が強くても毒性が弱くても、身体にとっては異物なので、免疫細胞は反応する。免疫細胞は、インクを囲ってその場所にとどまらせようとする。つまり、これ以上内部に侵入させない様に、インクのまわりを囲って外部化しようとする。しかし、その免疫細胞は世代交代をするので、その時にインクが囲った場所から少しずつ体内に漏れ出してくる。漏れ出したインクの毒性が強ければ全身の臓器にダメージを与える。このインクの漏れ出しによって、アートメイクは時間経過とともにぼやけてくる。

つまり、アートメイクは少しずつぼやけて綺麗じゃなくなるし、あ、経年によってすこーしずつボヤけるのはタトゥも同じなんだけどね、アートメイクを入れた時は説明した様な免疫の働きによって腫れるし、長期的に免疫システムに負荷をかけるからやるべきじゃないよ。」

言い終えたあと、何もなかったかの様に絵の続きを描き始めた。


「ありがとう。。ママが浅はかだったわ。。。」

母はアートメイクは諦め、毎日眉毛はメイクで描き足し続けることを誓った。

最近、塾に息子を迎えに行き、たまには講師にひとこと挨拶でもしようかと教室まで行くと、息子は嫌そーうな顔をするし、外では手を繋いでくれないし、つれない態度をとることが多い。しかし、この説得には小さな頃と変わらぬ真っ直ぐな愛を感じてしまい、口元がにやけてしまうのを抑えきれなかった。慌てて紅茶のマグカップで口元を隠す母であった。