前編から引き続いて登場するのは、主人公シッダールタともう一人(前作のネタバレになりかねないので伏せます)のみで、前作同様独特の世界観を保ちつつも、前作以上に“命”という重いテーマを真正面から挑んだ、力作です。
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ヒウナージャンから帰還したシッダールタは、訪れたギラトゥの街中で、蛇魔(ヴリトラ)の神像を探すラダと名乗る老人と出会い、共に神像を探す旅をすることになった。
一方、マーサーカ国では、前国王アクスが持ち帰ったというヴリトラの神像が盗まれる事件が発覚した。盗んだのは、首を切られても死なないという特殊な能力を持つアガシャ。彼らは、異形の妖術使い陳夢龍(ちんむりゅう)ら伴い、不死の王が統べるといわれている国、ザラへと向かっていた。
マーサーカ国の剣士アゴンは、国王の命により、アガシャらを追うが、その途中、シッダールタらと出会い、そして、アガシャを守るために残った陳夢龍とも出会う。
そこで初めて、ラダから、ある秘密が語られ始めた。
35年前、ラダと陳夢龍、そしてアクスは、アムリタを求め、ザラに潜入していたのだという。
ヴリトラの神像は、アクスらがザラから持ち出したものだった。
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涅槃の果実編と比べると、ストーリーも人間関係もかなり複雑になっていて、ページ数が5倍以上という長さもさることながら、物語に厚みと深みも大幅に増し、読み応え充分な作品です。
展開も、宝探し的だった前編とは異なり、どちらかというと三国志 を彷彿とさせます。
物語の中心となるザラ国内では、ザラ王の存在を巡って対立した、僧院派のマハムトを首領とするザリウスと、士族派のグルカ率いるディアウスからなる二大勢力に対し、第三の勢力ウリウスが加わり、絶妙のバランスを保った状態にある、ザラ内紛の緊張感が堪りません。
そして、各小国内での利権争い、裏切り、内通、禍根、差別といった血に塗れた争いに、愛、誇り、義侠が複雑に、しかし絶妙に絡み合い、更には、大国の王家に仕える者達の忠誠と憤怒、そして哀しみといった心理作用の表現が加わり、夢枕獏 氏ならではの独特の世界へと引きずり込んで行きます。
さらにこの世界で、蛟族を始めとする魔族、魔族と人間とハーフ、目無しの一族、巨大な蛭(ひる)、飢蟇(がこ)といった人間とは異なる種族や生き物に加え、首を切っても死なない特殊な能力を持った人間や、剣を弾くほどに筋肉を一瞬硬くする技を持つ者、幻術使いといった定番キャラクターたちが、脇を固めるだけでなく、主役を脅かすほど重要な役割を持って物語を推し進めているのです。
むろん、命題である、真理を探すという点における描写も絶妙です。
シッダールタの目的は、あくまで真理を探す事にあります。そこがあってこその涅槃の王です。
物語の中核であるがゆえ、真理を語るシーンは随所に現れますが、その最大の見せ場とも言えるのが、中盤から後半に差し掛かるあたりで繰り広げられる、シッダールタとマハムトとの真理問答の章です。
主に体と命との結び付きについて、マハムトが問い、シッダールタが答えるという問答のシーンなのですが、この章に、挙動の説明はなく、台詞だけで綴られています。
それだけに、余計な思案に惑わされること無く、言葉の意味を深く考えることができます。初めて読んだ時ならず、背中にゾクリとする物を感じます。
そして終盤、夢枕獏 氏が『逃げずに書いた』という、シッダールタの覚醒、つまり真理を発見する描写は、私の能力では表現できません。圧巻、の一言に尽きてしまいます。
果たして、
ザラ王は存在するのか。
不老不死は得ることができるのか。
永遠に生きるとはどういうことなのか。
そして、仏陀の悟りとは。
少し長めですが、私の、最も推奨できる一冊(四冊ですが)です。
# ただ惜しむらくは、最終章で、たぶん誤植と思しき表現があります。
# どう考えても、いる筈の無い人が、あるところにいてしまうのです。
# 先ほど、出版社にメールしました。
今日は、ここまで。
涅槃の王(2)[夢枕獏]
涅槃の王(3)[夢枕獏]
涅槃の王(4)[夢枕獏]