Simone Dinnerstein (p)
2005年録音
レーベル:Telarc
碧のゴルトベルク変奏曲
ジャケットに映るシモーヌ・ディナースタインの瞳のような色彩感覚がそのピアノの響きに感じられます。
緩急の差、強弱の差が大きい演奏と思いますが、そのどちらにも良い意味での女性らしい繊細さと程よい冷静さがあります。
しかしまるでロマン派の作曲家の楽曲かのように感じられるディナースタインのしっとりとした表現は、彼女ならではの個性ある優しさを内包している響きに乗り、また一つ、ゴルトベルク変奏曲の素晴らしくも新しい発見を私にもたらしてくれました。
アリアに代表される緩やかな楽曲はかなり遅めのテンポですが、冗長な印象は皆無。早い変奏での指の廻りの素晴らしさには感嘆しますが、そんな場面でも単にテクニックだけが立派なわけではない叙情的な印象がしっかりある演奏です。
演奏時間は1時間18分とかなり長い部類になるのかも知れませんが、ディナースタインの美しくも心地よい碧い響きに身を任せていると、そんなに長い演奏とは感じません。
リリースは2007年とかなり古いのですが、私は偶然にもSpotifyでバッハのインベンションの演奏を色々と聴いている中で彼女の演奏をごく最近知りました。(インベンションも近い内に手元に届くと思います)
やはり世界には未だ触れていない素晴らしい演奏がたくさんあるんですね。
豊かな残響成分が演奏に瑞々しさを与えながらも、ピアノの一音一音は極めて明瞭に響き、細かなニュアンスの変化も見事に伝えてくれる録音だと思います。
奥行き感はそう深くはないのですが、左右への広がりはピアノ独奏としてはごく自然に感じられ、バッハでは特に重要と思われる左右の手の動き、弾き分けも明瞭に聞き取れます。
暗騒音もほぼ感じられないので、目の前で弾いているかのような実在性はないのですが、録音にも現代感覚があると言えます。
実際にはピアノは1903年ハンブルグ・スタインウェイDなのですが、100年以上も前に製作されたとはとても思えない美しい「今風の」音色です。
しかしながら、変奏曲により強弱の差が激しく残響成分も多いので、再生するオーディオ機器の資質が問われるかも知れません。
強奏時に高域などがキツく響いたり、緩やかな場面で残響が支配的に聞こえたりするような再生装置であれば、ディナースタインの演奏も楽しめないかも知れません。
その意味で、私にとってオーディオ機器の資質を確認するチェック用のCDとしても新たな1枚が加わったと感じます。
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