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ライマン・フランク・ボーム(宮本菜穂子訳)『オズのふしぎな魔法使い』(松柏社)を読みました。「アメリカ古典大衆小説コレクション」の一冊です。
今回紹介するのはみなさんきっとご存知の作品。いわゆる『オズの魔法使い』です。ドロシーとトト、かかし、ブリキの木こり、ライオンがエメラルドの都に住む、オズの魔法使いに会いに行く物語ですね。
ではいつ頃発表された作品かはご存知でしょうか。もう、すぐに正解を書いてしまいますが、発表されたのは1900年です。意外と古いと感じる方もいれば、思ったより新しいと感じる方もいるでしょう。
100年以上前の作品ですから原典はもうパブリック・ドメイン(著作権切れ)になっています。なので『オズの魔法使い』をめぐっては色々面白い動きがあります。まずは、翻訳がたくさん出ていること。
同じく、日本でパブリック・ドメインになっているサン=テグジュペリの『星の王子さま』の訳が多くの出版社から出版されたように『オズの魔法使い』も多くの出版社から色々な形態で出版されています。
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定番はハヤカワ文庫NVの佐藤高子訳。新装版が出て手に入りやすくなっているのでおすすめ。新訳では新潮文庫から河野万里子訳、角川文庫から柴田元幸訳、小学館から単行本で江國香織訳が出ています。
他にも色々な訳が出ているので、関心のある方は読み比べてみてください。パブリック・ドメインの小説を集めた「Project Gutenberg」というサイトなどで英語の原文も簡単に手に入れることが出来ます。
ちなみに今回紹介する宮本菜穂子訳の売りはウィリアム・ウォレス・デンズロウによる初版の原画が挿し絵として使われていることと、巽孝之による『オズの魔法使い』の丁寧な解説がつけられていること。
文庫本などに比べて、値段は少し高めですが、オズファンにとっては必読の書ですよ。イラストは、なんだかちょっとシュールな感じで面白く、巽孝之の解説も目から鱗な感じで、とても興味深かったです。
『オズの魔法使い』をめぐる面白い動きをもう一つあげると、原典をベースにした新たな物語が生み出されていること。魔女側から『オズの魔法使い』を描く斬新な視点のミュージカルが、「ウィキッド」。
そして最近話題になったのが、前日譚にあたる映画の『オズ はじまりの戦い』。厳密に言うと繋がっていない部分が多いパラレルな作品ですが、映像がとても美しくオズファンにはたまらない作品でした。
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発表から100年以上経った現在でも、新訳が出たり、原作をベースにした新たな物語が生み出されたりしているオズ。それは今なおオズが、読者や観客の心を魅了してやまないという証明に他なりません。
なんとなく知っているけれどちゃんと読んだことがない方や昔読んだけれどはっきり覚えていないという方は色んな訳が出ていますので、好きな訳者や出版社の本を選んで、読んでみてはいかがでしょうか。
作品のあらすじ
滅多に笑うことがない農夫のヘンリーおじさんとエムおばさんと暮らしている少女ドロシー。ペンキがはがれた家も、戸口に立って辺りを見回して目に映るはてしなく広がる大草原も、すべてが灰色でした。
唯一いきいきとしているのはドロシーが飼っている真っ黒で長いつやつやした毛並みの小さな犬、トト。ある時、突然たつまきがやって来て、ドロシーとトトは家ごとたつまきに吹き飛ばされてしまいます。
気が付くとドロシーの家は美しい花々が咲き、色とりどりの鳥が飛びかう場所に落ちていました。小柄な人々が歓声をあげドロシーを迎え入れます。ドロシーを偉大な魔術師だと思い込んでいるようでした。
何故かというと、ドロシーの家は東の悪い魔女を押しつぶし、小柄な人々マンチキンを自由の身にしたからです。しかしドロシーはそれを喜ぶ気にはなれませんでした。おうちに帰りたいと思っていたから。
北の魔女がドロシーの暮らしていたカンザスに帰るための方法を知っているのは黄色いレンガがしきつめられた道の先にあるエメラルドの都にいる偉大な魔法使いオズさましかいないと、教えてくれました。
東の悪い魔女が履いていた銀の靴をドロシーに渡した北の魔女は、ドロシーを守るよう、ひたいにお祈りのキスをしてくれます。そうしてドロシーとトトは、エメラルドの都を目指して歩き始めたのでした。
ドロシーとトトが最初に出会ったのはかかし。オズの魔法使いの話を聞くと脳ミソがほしいと思っていたかかしも旅の仲間に加わります。途中で休憩しますが、かかしはパンを食べようとはしませんでした。
「ぼくはおなかが減ったりしないので、けっこうです」とかかしは言いました。「それに、これでよかったと思っていますよ、ぼくの口はペンキで描かれているだけですから、そこに切り込みを入れてしまうと、つめたわらが飛び出してしまい、せっかくの頭が変形してしまいますからね」
ドロシーはそれに納得すると、うなずいて、自分の口にパンを運びました。
「あなたの国の話を聞かせてくれませんか?」かかしは、ドロシーの食事が終わると言いました。そこでドロシーは、カンザスのこと、そこにあるものすべてが灰色であること、そして、たつまきがこの奇妙なオズの国に彼女を運んできたことを話しました。かかしは熱心にこの話を聞き、こう言いました。
「あなたがどうしてこの美しい国から、その乾いた灰色のカンザスというところに戻りたいのか、ぼくにはまったく理解できませんよ」
「それは、あなたに脳ミソがないからだわ」少女は答えました。「そこがどんなにわびしくて、灰色にくすんでいても、血の通った人間ならどんなに美しい国よりも、自分の故郷に住みたいと思うわ。何といってもおうちがいちばん」(33ページ)
ドロシー、トト、かかしが旅を続けているとうめき声が聞こえます。体がさびついてしまったせいで、身動きのとれなくなったブリキの木こりの声でした。油さしで油をさして、動けるようにしてやります。
ドロシーから願いを叶えてくれるというオズの魔法使いの話を聞いたブリキの木こりは、恋する気持ちを取り戻したいから心臓が欲しいと言います。そうしてブリキの木こりも旅の仲間に加わったのでした。
やがて、一行にライオンが襲いかかります。しかし痛みを感じないかかしは何をされても平気ですし、ブリキの木こりも爪を立てられても大丈夫。そしてトトが吠えるとライオンは怯えてしまったのでした。
ライオンは、強くたくましい百獣の王になりたいと願っているのですが、臆病な性格で悩んでいたのです。ドロシーからオズの魔法使いの話を聞いたライオンは勇気をもらうために旅の仲間に加わりました。
エメラルドの都を目指す一行には様々な困難が降りかかりますが、みんなで知恵を出し協力しあってなんとかエメラルドの都にたどり着くことが出来ます。門番は入国前にめがねをかけるように言いました。
「どうして?」ドロシーは聞きました。
「なぜならこのめがねをかけないと、エメラルドの都のまぶしさと繁栄がそなたたちの目をつぶしてしまうからだ。この都の住む住民も、朝夕問わず、ずっとめがねをかけていなければならないのだ。オズさまがこの都をつくられたとき、すべてのめがねをカギで固定するよう命じられ、我が輩だけがめがねをはずすカギを持っておる」
門番は大きな箱をあけ、ドロシーがのぞくと、その中には、大きさや形がさまざまなめがねが入っており、どれにも緑色のレンズがついています。門番は、ドロシーにちょうどよいサイズのめがねを取り出し、彼女にかけました。それには金色のベルトがついており、それを頭のうしろに回して、そこでカギをかけるようになっています。門番は、首から下げた鎖につけてある小さなカギで、ドロシーのめがねにカギをかけました。いったんカギがかけられると、はずしたいと思っても、けっしてはずせなくなりました。しかし、エメラルドの都のまぶしい光で目が見えなくなってしまうのもいやだったので、ドロシーは何も言いませんでした。
(98~99ページ)
すべてのものが緑色に輝くエメラルドの都。その美しさに心奪われながら宮殿に向かった一行は、一人一人オズの魔法使いと面会します。不思議なことに、それぞれが見たオズの魔法使いの姿は違いました。
ドロシーが見たのは巨大な丸坊主の首、かかしが見たのは美しい貴婦人、ブリキの木こりが見たのは目が五つもあるサイのような怪物、ライオンが見たのは火の玉でした。みんなそれぞれ願いごとをします。
ところがオズの魔法使いは、何かを手に入れるためには代償をはらわなければならない、願いを叶えてほしければ、西の悪い魔女を倒して来いと言ったのでした。ドロシーたちはすっかり困ってしまいます。
遠くを見ることのできる片目を持つ西の悪い魔女はドロシーたちが自分を狙っていると知り、オオカミ、カラス、ハチなど刺客を送り込みます。しかしドロシーたちは、一致団結して立ち向かったのでした。
業を煮やした西の悪い魔女は、魔法の帽子で翼の生えたサルを呼び出します。空飛ぶサルは、高い所から落としてブリキの木こりをぼこぼこにし、かかしの体を引き裂いて、わらを全部出してしまいました。
そうしてついにドロシーとライオンは西の悪い魔女に捕まってしまったのです。仲間を奪われこきつかわれる苦しい日々が始まって……。
はたして、ドロシーは西の魔女を倒し、カンザスに帰れるのか!?
とまあそんなお話です。児童文学やファンタジーの中でもぼくがとりわけ好きなのがこの作品。みんなそれぞれ、完璧じゃないのがいいんですよね。物語の初めから終わりまで、わくわくしっぱなしの一冊。
脳ミソが欲しいかかし、心臓が欲しいブリキの木こり、勇気が欲しいライオン、それぞれのエピソードも、考えさせられることが多いですが、印象に残るのがドロシーの「何といってもおうちがいちばん」。
故郷カンザスで待っているのは灰色な世界であり、美しい世界が広がるオズに比べて、魅力的でないことは明らかです。それでもドロシーは、故郷カンザスに帰りたいと思うのでした。深いテーマですよね。
個性的なキャラクターに魅力があるだけでなくそうした何気ない台詞や何気ない出来事に思わずはっとさせられる作品でもあります。まだ読んだことがない方、忘れてしまった方はぜひ読んでみてください。
じゃじゃーん! 折角なので『オズの魔法使い』クイズを三問出しておきます。分からなかった方は、もう読みなおすしかないですよ!!
【第一問】
「ぼくがこわいのはひとつだけです」と、かかしはドロシーに打ち明け、「あなたをつくってくれたマンチキンさん?」とドロシーが聞くと、首を横に振りました。かかしがこわいものとはなんでしょう?
【第二問】
ブリキの木こりは、実は元々ブリキの木こりではありませんでした。では一体どうして、ブリキの木こりになってしまったのでしょう?
【第三問】
朱色のケシの花畑で眠り込んでしまったドロシーとライオン。かかしとブリキの木こりが力をあわせて、ドロシーはなんとか助けられましたが、ライオンは、重くて運べませんでした。絶体絶命の危機に陥ったライオンを助けてくれたのは、一体どんな生き物だったでしょう?
そうですね、一応正解はコメント欄に書いておきますね。オズファンの方は、クイズの答え合わせをしたついでに、好きなキャラクターや好きなエピソードなどをぜひ、気軽にコメントしていってください。
次回も「アメリカ古典大衆小説コレクション」から、『女水兵ルーシー・ブルーアの冒険』を紹介する予定です。