安能務訳『封神演義』(講談社文庫、全3巻) | 文学どうでしょう

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安能務訳『封神演義』(講談社文庫、全3巻)を読みました。Amazonのリンクは上巻だけを貼っておきます。

今回もまた長くなりそうだったので、記事を3つに分けました。このページでは、『封神演義』そのものについて、物語の設定やマンガ化作品について紹介していきます。

あらすじで1ページ、それから、みなさんに好きな登場人物についてコメントしてもらおうと思って、また別に1ページ作ったので、じゃんじゃんコメントを残していってくださいな。

◆ 『封神演義』のあらすじ

◆ 『封神演義』で好きな登場人物は?

『封神演義』の時代背景


中国には、「易姓革命」(えきせいかくめい)という考えがあります。

国を治めている人物は、天命によってそれを治めているので、天命が尽きれば、別の人物が国を治めることになるというもの。

その考えがあると、王朝に反旗を翻して革命を起こして、自分が国を治めても、前の皇帝の天命が尽きたからだと、言い訳が出来るわけですね。

『封神演義』の舞台となるのは、中国古代王朝、殷(いん)の末期。

殷は遺跡もあるので、存在こそ確認されているものの、紀元前17世紀末から始まったと言われる、とにかく古い王朝なので、歴史と言うよりは、もはや伝説に近い感じです。

紀元前11世紀頃、殷の紂王(ちゅうおう)の「酒池肉林」(『史記』にある言葉)の語源となった淫蕩(いんとう。酒や女性に溺れること)ぶりで政治が乱れ、ついに反乱が起きました。

やがて殷は滅ぼされ、新しい王朝である周が作られることとなります。殷の天命が尽き、周に変わったんだという、そういう歴史というか伝説が元になった物語です。

『封神演義』が面白いのは、単なる歴史物語ではなく、そうした人間界の争いに、仙界の仙人たちが参加してしまうという、奇想天外の設定で書かれたものであること。

基本的には仙界は人間界とは関われないのですが、仙人も実は、自分たちの技だったり、何千年もかけて作り上げた秘密兵器、宝貝(パオペエ)の威力を試してみたくて仕方ないんですね。

そこで、人間界の争いに巻き込まれる形で仙人や道士たちも戦いをくり広げることとなり、様々な力を持つ宝貝同士が激突する、もうとんでもなくはちゃめちゃな争いが始まってしまうのです。

『封神演義』の評価と翻訳について


『封神演義』自体は、明の時代に成立したものとされていて、訳者の安能務は、前書きで中国「三大怪奇小説」の一つに数えています。

普通は、『三国志演義』『水滸伝』『西遊記』が「三大怪奇小説」、もしくはそこに『金瓶梅』を加えて「四大奇書」と呼ばれます。

安能務は、「怪奇」要素のない『水滸伝』を外し、儒学者によって不当に地位を貶められた『封神演義』を「三大怪奇小説」に加えるべきだと主張しているんですね。

しかし、『封神演義』の作者(許仲琳とも言われますが、よく分かっていません)は、典拠となる歴史の取扱い方が雑で、他の「四大奇書」の作者と比べると、教養として一段階落ちるという見方もあります。

それを指摘し、物語の評価としてはやはり「四大奇書」よりも、少し下になるということを、丁寧に検証しているのが、二階堂善弘『封神演義の世界 中国の戦う神々』(大修館書店)です。

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この本は、単なるキャラクター紹介の本とは一線を画していて、『封神演義』の中国文学史上の位置付けや、『封神演義』そのものについて詳しく書かれているので、おすすめですよ。

この本には、翻訳についても書かれていました。安能務訳は、完訳ではなくて、どうやら内容を変更したりしているらしく、結構厳しいことが書かれています。

 その後、安能務氏『封神演義』(講談社文庫)が出たが、これはいわば翻訳ではない。訳者が原作の話を変えているところがある。さらに例えば、「哪吒(ナタ)」を「ナタク」、「楊戩(ヨウセン)」を「ヨウゼン」、「聞仲(ブンチュウ)」を「モンチュウ」と読むなど、そもそも基本的な間違いが多すぎる。『封神演義』を広めた功績は評価したいが、これを原作そのままだと思ってしまう人もいて、その弊害も大きい。せめて「翻案」とでも称してほしい。

(二階堂善弘『封神演義の世界 中国の戦う神々』、197ページ)


次のトピックで触れますが、この安能務訳を原作にした少年マンガがブームになったため、哪吒と楊戩はそれぞれナタク、ヨウゼンで定着してしまった感もあります。

ちなみに、聞仲に関しては、マンガ版はブンチュウになっています。マンガの聞仲は、原作より光ってていいんですよねえ。敵役ですけども。

では、「翻案」とも言うべき安能務訳以外の、いい訳があるかというと、それがなかなかないというのが現状です。

光栄から一応完訳が出ているには出ていますが、詩句が省略されているなど、不十分な部分も多いらしく、それはまあともかくとして、本自体が手に入りづらいのが問題です。

全7巻の文庫版もありますが、そちらは、読みやすくするために手を加えすぎていて、完訳ではなくなっているという、まさかの展開。

というわけで、マンガからスムーズに入っていきやすいということもありますし、安能務訳はベストではないにしろ、全3巻と量的にもちょうどいいですし、読むならこれが一番いいだろうと思います。

マンガ版『封神演義』について


安能務や田中芳樹の編訳がある『隋唐演義』がいまだ日本に定着していないところを見ると、『封神演義』がこれほど知られるようになったのは、やはりマンガの力が大きいでしょう。

それは、1996年から2000年にかけて「週刊少年ジャンプ」で連載されていた、藤崎竜の『封神演義』。コミックスは全23巻、カラー原稿をカラーで収録した完全版は全18巻です。

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ぼくはまさにリアルタイムで読んでいましたし、今回折角なのでまた読み直してみました。原作の安能務訳『封神演義』とは、また違った面白さがありますね。

周の軍師をつとめ、殷に立ち向かう太公望(たいこうぼう)は、原作では72歳のおじいさんで、どちらかと言えば、真面目な堅物という感じです。

それが、マンガでは若くてそれなりにかっこよく、性格としてはとぼけた、実力があるんだかないんだか分からない、ひょうひょうとしたキャラクターになっているのが、何よりの魅力。

太公望の右腕、左腕とも言うべき哪吒と楊戩にも、それぞれマンガ独自の色がつけられていて、それがまたいいです。とにかくキャラクターに魅力のあるマンガですね。

全体の構成としてはバトルマンガになっていて、強力な武器である宝貝(パオペエ)を持つ敵キャラクターが現れて、その敵キャラクターと戦うという、そのくり返しです。

仲間キャラクターが激しい戦いの結果、命を落とす(正確には封神される)ことがあり、読者の涙を誘います。

最後の方は原作を離れた、古代文明と神々にまつわる、かなり驚きの展開になっているのですが、これはこれでまた面白いですね。

原作を読んだ方は、『封神演義』の一つの解釈としてマンガを楽しめますし、またマンガを読んだ方は、かなり色んな設定が違うので、今度はぜひ原作の方を読んで、比べてみてください。

»『封神演義』のあらすじへ

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