福井県の昔話

むかし、ある村に九右衛門辻子(くえもんずし)という小さな道があった。この道は2つの寺のある大きな森の中を通っており、森の中には道を横切る小川があった。小川には半分朽ちかけた土橋が架かっており、辺りは浄泉寺のこんもりとした竹やぶ、その奥は良覚寺の墓場となっていた。そこは昼間でも薄暗く気味が悪いので、大の大人でも九右衛門辻子を通るのを避けていた。

 

しかし、全く通らないという訳にもいかず、ここに二人の男が村の寄り合いで遅くなったため、雨の中、夜の九右衛門辻子を急いでいる。二人が小川に架かる土橋のところまで来ると、小川から赤く光る目がのぞき、怪しい声が聞こえる。「下駄貸そか~~~、傘貸そか~~~」二人は震え上がり、大慌てでその場から走り去る。

 

 

それからしばらくして、彦三郎という男が親戚の招きで隣村まで行くことになった。隣村に行くためにはどうしても九右衛門辻子を通らねばならない。この彦三郎という男、臆病者であったが酒には目がなく、親戚の集まりで振舞われる酒のことなど考えながら九右衛門辻子を通って行った。彦三郎は親戚の家で勧められるままに酒を飲み、グテングテンに酔っ払ってしまう。

 

彦三郎が半ば追い出されるように親戚の家を出た時には、あたりは真っ暗になっており、おまけに黒い雲まで立ち込めていた。彦三郎が千鳥足になりながら九右衛門辻子を通る頃、とうとう雨が降り出した。彦三郎はそれでも上機嫌で鼻歌を歌いながら土橋のところまで来る。すると風が吹き始め、小川の中から赤い目が光る。そしてどこからともなく怪しい声が聞こえる。

 

「下駄貸そか~~~、 傘貸そか~~~。」酒が入っていた彦三郎はさほど怖いとも感じず、ちょうど雨に降られ濡れていたので、「下駄も傘も貸してくれ~~~!!」と怪しい声に答えた。すると竹やぶの中から傘と下駄が飛び出し、彦三郎の前にやって来た。彦三郎は、これで濡れなくて済むと思い、「化け物、明日返すぞ~~」と言って家に帰って行った。

 

翌朝、酔いから覚めた彦三郎は自分のしたことが怖くなってしまい、嫁さんと二人で化け物から借りた下駄と傘を恐る恐る見てみる。すると土間には馬の骨と馬用のわらじが転がっているだけだった。

 

 

これを聞いた村人は、雨に降られて難儀している彦三郎をみかねて、カワウソが助けてくれたのだろうと言った。それから九右衛門辻子の化け物の噂は消えて、周りに人家なども建つようになったという話だ。(カワウソが小川から顔をのぞかせる)

 

「出典:日本昔話データベース」