どうせなら
私の代わりに仕事してよ、こはるちゃん。
さてつづきです。
自分のさせられていることが妊娠するということに繋がるかも知れない。
妊娠なんて小学生にしてみたら、人生のずっとずっと先に経験するはずの出来事だ。
恋愛も結婚もすっ飛ばして、そもそも家族である義理兄が相手で妊娠??
もはや現実の世界とはかけ離れ過ぎていて、想像もつかず動転するのみだった。
畏怖。
自分がそんな状況に置かれるかも知れないという恐怖。
また、いくら口止めされていたとは言え、このことを今まで親に隠していたことへの焦りと罪悪感。
こんなものを抱えて過ごすのは、小学校高学年には重すぎた。
でもその頃の私には、誰も相談する人がいなかった。
恐ろしい。逃げたい。
この感情が生まれたのはこの時が初めてだった。
逃げられる時は、出来る限り逃げよう。
子供の頃からおとなしくて、内向的で恥ずかしがりやで
すぐ上の(実の)兄にさえも逆らえなかった私にしては、強い決断をした。
義理兄が家にいる時につかまったら逃げようがないから。
逃げられる時というのは、義理兄が外から帰ってきた時だ。
隙をみて逃げ出せばいい。
二階の窓からは、義理兄の茶色いセダンが家の前に停まるのが見える。
車のドアを閉める音も聞こえる。
そしたら逃げるのだ、気付かれずに二階から。
サッシを開けてベランダの手すりをまたいで乗り越え、ブロック塀の上に飛び降りて。
家の横の空き地側からなら、義理兄に気付かれず出ていける。
靴は、玄関から無くなっていたら母に変に思われるから、
もう履かなくなった学校用の古い上履きを用意した。
ズボンのポケットには100円玉を入れておく。
走って逃げて、のどが乾いたらジュースを飲めるように。
子供の頭で、一生懸命逃亡手段を考えた。
そしてほどなく、その計画を実行に移す機会がやってきた。

