映画祭は、コンペティションを中心とした上映作品の質、映画マーケットでの売買取引額の多寡、そしてセミナーでは影響力ある登壇者によるトレンドの形成によって、主催者は内容を競っている。しかし、映画祭のレポートは、コンペ作品を中心とした上映作品に集中しがちだ。


キネマ旬報映画総合研究所 掛尾のシネマレポート

審査委員長 ニール・ジョーダン

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根岸吉太郎監督

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新藤兼人監督

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クロージング・セレモニー


 東京国際映画祭でも、ユニジャパン・エンタテインメント・フォーラムでくくられた多数のセミナーをはじめ、様々なイヴェントが開催された。しかし、TIFFのレポートでは、上映作品、また高齢でコンペティションに参加した新藤兼人監督についての記事がほとんどであった。確かに、根岸吉太郎監督が、新藤兼人監督への授与を誇りに思うと語ったときは、熱くなるものがあった。


コンペ作品については、いろいろ既に紹介されているので、このレポートではセミナーについて触れてみたい。まず、これだけにセミナーが開催されながら、開催時間がほとんど、平日の日中ということから、わたしの印象だが、来場者が限定されていたように見える。かなりのセミナーに参加したが、出席者はけっこうレギュラー化していたようだ。関係者に話しを聞くと、フォーラム開催の決定が直前だったことから、広報が遅れたという。せっかくのセミナーを開催しながら、広い参加者に伝わらなかったことは残念だ。


 もうひとつ提案したいことがある。現在、東京周辺の大学には、多くの映画、映像、メディアの学部、学科がある。しかし、セミナー会場には、ほとんど学生の姿が見当たらなかった。わたしも、ときどき大学で話す機会があるので、知り合いの学生に聞くと、ほとんどの学生は、授業と重なるので参加できないという。韓国で、プサン国際映画祭に参加したとき、授業や教授によっては、欠席扱いにならないと聞いた。国内外から、これだけに登壇者が集まった話しを聞く機会は多くない。日本のある大学関係者に聞いたところ、欠席扱いにしないことは難しいとのことだ。それから、セミナーの内容が、4年生の大学生にも高度すぎるという指摘も聞いたが、わたしはそんなことはないと思っている。この欠席どうこうということは、もっと早い段階で、高いレベルの関係者で調整してもらいたいところだ。こえrから、わたしが参加セミナーでいくつか興味深いと感じたものを紹介したい。




 東京国際映画祭でも、ユニジャパン・エンタテインメント・フォーラムでくくられた多数のセミナーをはじめ、様々なイヴェントが開催された。しかし、TIFFのレポートでは、上映作品、また高齢でコンペティションに参加した新藤兼人監督についての記事がほとんどであった。確かに、根岸吉太郎監督が、新藤兼人監督への授与を誇りに思うと語ったときは、熱くなるものがあった。



「中国・香港―その映画ビジネス戦略」2010年10月26日10:30~12:00
主催 経済産業省(METI)
公益財団法人 ユニジャパン
パネラー
ケルヴィン・ウー(オレンジ・スカイ・ゴールデンハーベストCEO)
クリフォード・クーナン(VARIETY中国在住記者)
モデレーター 関口裕子(バラエティ・ジャパン編集長)


 アジア映画ビジネス、アジア内共同製作をテーマにしたセミナーは、香港フィルマート、プサン国際映画祭でもひんぱんに取り上げられ、わたしも、できる限り参加している。このセミナーはパネラーが外国人だったことから、日本人にとってというより、客観的な視点から語られる内容に新鮮さを感じた。それは、今年のフィルマートで、ローラ・ティーさんがモデレーターを勤めた、香港人若手監督たちによる香港・中国の共同製作についてのパネル・ディスカッション(「映画ビジネスデータブック2010~2011」〈キネ旬総研刊〉に収録)でも感じられたが、我々がもっているスタンダードとは異なる基準で海外との対応を考えているからだ。


 このセミナーでは、パネラーふたりから、今後の中国市場の急成長について語られる一方、クーナン氏からは、中国の政治的リスクについても指摘された。TIFFが尖閣諸島事件直後だったこともあり、中国とのビジネスは、常にリスクが伴うという指摘はその通りだ。ジャーナリストのクーナン氏はその立場にいられるが、中国と映画ビジネスに取り組もうとする知人のプロデューサーは、では、どうしたらいいのか、もう少し踏み込んでもらいたかったと話した。


 また、中国の外国映画輸入枠について、20本と説明されていたが、これはロイヤリティ契約の本数で、他に買取枠、約30本があるが、これについては触れられていなかった。買取については、ビジネスと計算されていないのか、その理解についてどう捉えているかも説明がほしかった。つまり、利益にならなくとも、上映されることで、文化的な理解を広げられるということも我々は重要視するが、国際スタンダードから見れば意味ないことなのかということだ。


 最後に、香港・中国の共同製作の成功事例として、ハリウッド20世紀フォックス、香港、中国による「ホット・サマー・デイズ」という作品が今年の旧正月に公開され大ヒットしたことが紹介された。現在、パート2が製作中とのことだが、こうした成功事例を、どう日本い応用できるか、そういった議論を深めてほしかった。
 限られた時間でこの大きなテーマを語るには限界があったが、情報量の多いセミナーだった。やはり、この席に若い世代の参加者がいれば、大きな刺激を受けたと思う。そう考えると、残念である。



キネマ旬報映画総合研究所 掛尾のシネマレポート
関口裕子氏、ケルヴィン・ウー氏、クリフォード・クーナン氏(左から)