2月19日のマール・オベロンの生誕113周年を記念して、彼女の代表作品をご紹介します。
(1911年2月19日生誕 - 1979年11月23日死没)
マール・オベロン Merle Oberon
- インド/ボンベイ生まれ
- 父はインド駐在のイギリス軍人。母はインド人。本人はタスマニア島と偽っていた。
- ロンドンに戻り、カフェの女給仕をしていたが、17歳でエキストラでデビュー。
- 1933年にロンドンフィルムのアレクサンダー・コルダにより、『ヘンリー八世の私生活』で抜擢される。
- コルダと結婚するも、レスリー・ハワードと不倫関係にあったと言われる。
『嵐が丘』(1939)
監督 ウィリアム・ワイラー
共演 ローレンス・オリヴィエ、デヴィッド・ニーヴン
撮影 グレッグ・トーランド ※アカデミー賞白黒撮影賞
【あらすじ】
寒風が肌を刺す荒地に建つ邸“嵐が丘”の当主は町で拾った男の子をヒースクリフと名付けて養子にした。
当主の娘キャシーはあたたかく受け入れるが、息子は彼を憎み、父の死後は虐待した。
愛するキャシーは他人に嫁いでしまった。
愛憎にさいなまれたヒースクリフは執念に燃えて3年後に舞い戻り、“嵐が丘"を買い取って主人になる。
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マール・オベロンの代表作です。
マール・オベロンは、彼女自身もスターではあるのですが、豪華な相手役に恵まれていることが多い女優です。
(不倫相手のレスリー・ハワードや、この作品でのローレンス・オリヴィエだけでなく、エミール・ヤニング、ダグラス・フェアバンクス、ゲーリー・クーパー、マーロン・ブランドなど)
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この『嵐が丘』では、当時飛ぶ鳥を落とす勢いのサミュエル・ゴールドウインが、『牧童と貴婦人』に続き、彼女を抜擢しました。
英国人エミリー・ブロンテの、かの名作『嵐が丘』の主演男優に、英国の名優ローレンス・オリヴィエ、デヴィッド・ニーヴンをあてがい、ハリウッドへ呼びました。
そして、1936年に『孔雀夫人』という傑作を撮りあげたばかりのウィリアム・ワイラーに監督を任せるのです。
(ワイラーは、この作品の12年後に『ローマの休日』を演出します)
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1940年前後=ハリウッド最盛期にふさわしい素晴らしい作品になっております。
文芸作品の映画化と言って馬鹿にしたものではないと思います。
(なお、オリヴィエは態度が傲慢だっため、ワイラーに𠮟責されたという逸話があります。
それほど、オリヴィエはミスキャストのようで、それがこの映画の弱点であるように思います。
もし、これがレスリー・ハワードあたりだったら、掛け値なしに賞賛したいのですが・・・)
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マール・オベロンの黒い髪と黒い瞳が、キャシーという情熱的なアイコンにふさわしく、画面に映えています。
マール・オベロンは、決して名女優というような存在ではないのですが、映画とは不思議なもので、そんな彼女でも、この映画では、英国演劇界の名優ローレンス・オリヴィエに拮抗できているのです。
(なお、ローレンス・オリヴィエの妻ヴィヴィアン・リーは、キャシー役を演じたかったようですが、映画会社UAから、イザベル役をオファーされ、断ったそうです。)
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あまり衒学的なことは書きたくはないのですが、どうしても触れないとならないことは、この映画の撮影監督が、グレッグ・トーランドであることです。
この作品で、彼は、彼にとって唯一のアカデミー賞最優秀撮影監督賞を受賞しています。
(驚くべきことに『市民ケーン』で受賞していないのです)
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じっさい、ここでのグレッグ・トーランドの、陰影にとんだ硬質でシャープな映像は、ハリウッド最盛期の素晴らしさを実感させるものです。
(このあと、トーランドとワイラーは、ベティ・デイヴィス主演で『偽りの花園』を撮ります)
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嵐が丘で、ヒースを胸いっぱいに抱えたマール・オベロンと、ローレンス・オリヴィエがキスをするシーン。
素晴らしい硬質な仕上がりです。
やや仰角で、空と雲を大きく背景にとり、膝から上の2人の巧みにキャメラに収めています。
(4:3というスタンダードサイズで、立っている2人を収めるのには、工夫が要るのですが、それをうまく実現しています。
ふと、デンマークの映画作家カール・ドライヤーを思い出させます。)
キスするところで、溶暗になるのも、実に優雅で上品な演出です。
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ウィリアム・ワイラー得意の縦の構図で、階段にいるマール・オベロンと、その夫をフルショットで捉えたシーン。
ヒースクリフ(ローレンス・オリヴィエ)が、復讐の一環で、マール・オベロンの義妹と結婚することを知ったマール・オベロンが、階段で夫に怒りをぶつけ、絶望して夫の足元に倒れこむシーン。
やや俯瞰気味に、マール・オベロンの顔が撮られ、そのまま自然に、俯瞰で倒れる彼女の頭部を映し出しているのも、滑らかな映像処理です。
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あるいは、長い間の放浪の末、嵐が丘に戻ってきたローレンス・オリヴィエと、すでに結婚し幸せな生活を築いているマール・オベロンが対面するシーン。こちらも見事な構図です。
顔を合わせない/合わしたくない2人を同時に見せているのです。
また、マール・オベロンが嵐の夜、「ヒースクリフは私の命。彼は私自身なの。」と、ヒースクリフへの愛を召使いへ宣言するシーンの稲光。
キャメラは動かないのですが、窓の外が一瞬光り、マール・オベロンが逆光となります。その大胆さ。
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グレッグ・トーランドという映画史上に残る撮影監督が、マール・オベロン=キャシーという存在を、いかに文学コンプレックスから離れたところで、映像化したかをぜひ味わっていただきたいと思います。
Amazon Prime で無料で視聴可能です。
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全くの余談ですが、「嵐が丘」と言えば、ポップミュージック界ではケイト・ブッシュです。
マール・オベロンの『嵐が丘』から39年後に、キャシーは甦るのです。
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