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昨年「かくれんぼ」と同様550万人を集めて大ヒット、ハ・ジョンウが渾身の演技を見せる、テロ・サスペンスの傑作、「ザ・テロ・ライブ」。

月曜日、ソウルの朝。交通情報は、大統領演説のため国会周辺の道路閉鎖に注意を呼びかけている。9時31分、ヨイド(汝矣島)にそびえ立ち漢江を見下ろすSNC放送局本社ビル、ユン・ヨンファは朝の報道ラジオ番組「デイリー・トピック」を始める。今日は、富裕層優遇の税制改正についてリスナーから電話で意見を聞くのだ。最初の電話は、建設労働者パク・ノギュと名乗る男だ。彼は、電気代が高いと、文句を言う。電気代は税金ではない、とユンファは話を切り上げ、リスナーを切り換える。主婦が電話に出るが、話し足りないのか、ノギュの声が会話に割り込んでくる。番組は慌ててCMに入るが、ノギュとの電話は何故か切れない。そして、ノギュは驚くべきことを話し始める。爆弾を持っていて橋を爆破する、と言うのだ。ヨンファは電話を無視して税制改正の話に戻すが、その時、鈍い爆発音が続けざまに響きわたる。ヨンファが窓に駆け寄ると、眼下のマッポ(麻浦)大橋の向う半分が黒煙に包まれている。時間は9時35分だ。ヨンファは慌ててノギュの電話に繋ぐが、「またかける」と言って切られる。ヨンファはその電話番号にリダイアルするがつながらない。ヨンファは警察に通報しようとするが、途中で思い止まる。これは大スクープなのだ。ラジオ・スタジオのスタッフに口止めし、報道局のチャ・デウン局長に電話する。局長は録音を持って来いと言い、ヨンファは、トイレで身だしなみを整える。テレビ出演に備えているのだ。ヨンファはテレビ・ニュースの有名なアンカーだったが、ある事件をきっかけに、離婚し、アンカー職を追われ、ラジオに降格されたのだ。局長も視聴率の魔力には勝てず、ラジオ・スタジオにカメラを持ち込み、ヨンファは背広に着替え、ノギュからの電話を待つ。そしてオンエアが始まり、再びノギュから電話が入る。ここからは、TV放送だ。モニターには爆発現場で取材する元妻イ・ジスの姿が映る。マッポ大橋は、中央より少しカンブク(江北)寄りで、十メートルくらいの幅で完全に分断されている。政治的な背景を想像していたヨンファだが、放送を続けるためのノギュの要求は、意外にも金だ。要求額は21億7924万5000ウォン(概ね2億円)だと言い、振込口座を指定する。局は要求額を振込み、再び、オンエアが始まる。ノギュは、20年前の1983年マッポ大橋建設に従事したと言う。そして2年前、世界先進国頂上会談(サミット)開催のための大規模補修工事の際、足場が崩れ三人の労働者が川へ転落したが、警察もレスキューもサミット対応で忙しく救助が遅れ、三人が死んだことに触れ、大統領をスタジオに呼んで詫びさせろと言う。ヨンファが、その要求は難しいと応えると、ノギュはヨンファを罵って電話を切ってしまう。ノギュの電話は、SNCのTVニュースにつながり、若い女性アナウンサーが必死に会話を試みるが、犯人は、まだ爆弾がある、と言い、その瞬間、彼女の前のマイクが破裂する。ヨンファは、次のラジオ・スタジオからの放送に備え、イヤホンをセットするが、そのイヤホンが嫌な音を立てる。ノギュから個人携帯に着信があり、イヤホンには爆弾が仕掛けられており、放送デスクを離れると頭が吹き飛ぶと言う。再びオンエアが始まるが、元妻が実況する現場で、さらに爆発が起きる。その爆発により、元妻を含む報道スタッフなど十数人は、両端を遮断された一本の橋脚の上に乗る不安定な道路に取り残される。ヨンファは番組を継続するが、ノギュの要求はエスカレートする。大統領は歩いて3分ほどの国会議事堂にいるので、10分以内に連れて来いというのだ。自らの命も風前の灯火、ヨンファの生放送はまだまだ続く…

SNCラジオの司会者ユン・ヨンファに、最早ソル・ギョングやソン・ガンホら超名優に並ぶ程の名演を続けるハ・ジョンウ、SNC報道局長チャ・デウンに、最近素晴らしい名演を連発する存在感たっぷりのイ・ギョンヨン、政府対テロ・センターの幹部パク・チョンミンに、アートな作品が多い演技派チョン・ヘジン(チョン・イダ名の作品も多い)、謎の青年パク・シヌに、子役上がりながら間もなく二十歳で演技に磨きがかかるイ・デビッド、報道局モニター・エンジニアに、ハ・ジョンウとは2001年「許されざる者」からの付き合いイム・ヒョンソン、特別出演では、大統領秘書官に、名脇役チェ・ドンムン、ライバル局KTNのアナウンサーに、95年からのベテラン脇役チェ・ジノ。

恐らく、観始めてあっと言う間にこの映画の世界観に取り込まれていく観客が多かったのではないかと想像します。出だしこそ、生放送テロという新味を除けば、さほど珍しくないテロ・パニック・アクション風ではありますが、観ている内に、次々と繰り出される強烈なサスペンスに、独特の、揺らぎや違和感を覚えるのではないかと推察します。それは、犯人、放送局、政府など、一体その何処に正義があるのか、という漠然とした不安が次第次第に高まっていく、といった観客心理を巧く使ったシナリオの妙なんでしょう。この辺りのストーリー・テリングは、ハリウッド映画ではなかなか多くありません。そして、550万人集めたというこの映画の魅力の決め手は、ハ・ジョンウの演技だ、と言い切って差し支えないでしょう。この元アンカー・マンの立場は実に複雑です。テレビ・アンカーへの返り咲き、局の仕打ちへの怨嗟、元妻への愛執、正義に対する思料、などなどが時と共に複雑怪奇に錯綜する様は、恐らく、ハ・ジョンウにしか表現できないのではないか、とさえ感じます。このハ・ジョンウが演じる、決してヒーローではない、という主人公像こそが、この映画の肝だと思います。

ともかく、あっと言う間にハ・ジョンウ魔法にかかって過ぎる100分ほどの時間ですが、冷静になって考えると、論理的な展開に、無理がないわけではありません。その意味で、五つ星は見送りますが、恐らく、他の俳優では決して表しきれなかったに違いないサスペンスが連続する本作は、俗世を忘れる、という映画の使命を最大限に果たしていると思います。感服です。

なお、エンディング曲は、Casker(캐스커)という男女デュオのボーカル、ユンジンが歌う「Alive」という曲のようです。久しぶりに、実に豊かな音楽性を感じる楽曲です。